表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高1編:side松岡
34/76

第34話  強引なアプローチ



 海の家で浮き輪を借りた俺と名雪は海に向かった。


「名雪、水泳は苦手って言ってたけど、どのくらい泳げるの?」

「うー、バタ足二十五メートルくらい……?」

「バタ足……」


 思いもよらない単語に苦笑すると、横で名雪がふてくされたように頬を膨らませていて、それが可愛くみえてくすりと笑みをもらすと、名雪の機嫌が悪くなってしまった。


「しょうがないじゃない、小さい頃、海でおぼれかけたことがあるのよ」

「それ以来、海は怖い?」


 波打ち際ギリギリ足が海に触れない場所で立ち止まった名雪が、じぃーっと打ち寄せる波をみる。


「平気……って思ってたけど、やっぱダメかも」

「授業はどうしてるの?」


 残念ながら水泳の授業は男女別だから、どうしているのかと思って尋ねたんだ。


「プールは平気なのよ、ただ、呼吸が出来ない」

「それって……?」

「顔をつけない、それか息継ぎをしないのどっちか」


 息継ぎなしで二十五メートル泳げるって肺活量どんだけなんだって、マジで驚く。


「まあ、そんなわけなので、誘ってもらって悪いんだけど、私、海に入るのは無理……って、きゃっ!?」


 名雪が話してる途中に、俺は名雪の腕を引いて海に招き入れた。

 悲鳴を上げて波から上がろうとしたけど、俺がそれを阻止する。


「やだっ、松岡君、手離してよ……っ」


 涙目で俺を見上げてくる名雪にドキッとしながら、俺はこほんっとわざとらしく咳払いする。


「落ち着けって、名雪。足元見てみ? くるぶしが隠れるくらいの水だろ? プールに入れるなら海だって大丈夫だって」

「そんな屁理屈っ……」


 そう言いながら腕を振り払おうとしていた名雪に、追い打ちをかける。


「それにさ、そんなふうに逃げてて困るだろ、明日」

「明日? ……っ!」


 尋ねながら、明日ある遠泳のことに気づいたようで、さぁーっと名雪の顔が青くなる。

 臨海学校二日目の日程は遠泳。まあ、泳ぐ距離は臨海学校前の授業でタイムを計って、生徒の泳げるレベルに合わせて三つの距離に分けられるんだが、それでも少しの距離は泳がなくてはならい。


「俺が教えてやるよ。お前運動神経いいんだから、ちゃんとやれば泳げるようになるって」


 名雪の運動神経をかっている俺はそう言ったのだが、名雪は複雑そうな表情で俯く。


「なー、いま、怖い?」

「えっ?」


 ぱっと顔をあげた名雪は、なんでそんなこと聞くんだって感じに、キョトンっと首を傾げる。その無防備な顔に、体の奥から痺れが走って、俺は頭をかきむしりながら言う。


「さっきからずっと、海に入ってるけど、大丈夫なの、ってこと」

「……あっ、ほんとだ……」


 いま気づきましたっていう名雪の声に、思わず笑みがもれる。


「俺と、海はいる?」


 腰を折って名雪の顔を下から覗きこむと、名雪の頬がわずかに染まる。

 それから小さく頷いて、手に持っていた浮き輪をぎゅっとにぎりしめる。


「よしっ! 松岡君に教わって、泳げるようになるよっ」


 気合いの入った声に、俺は笑いかけ、名雪が笑い返した。

 まずは海に慣れるために、浮き輪をつけた名雪を引っ張って、足のつくかつかないか辺りのところを泳ぎながら、話を聞いた。

 名雪が言うには、海でおぼれてから顔を水につけるのが抵抗あって、プールの授業でちゃんと練習してこなかったらしい。なんども大丈夫だからと言って、腰くらいの深さの場所で、名雪の手を握って顔をつける練習と息継ぎの練習をする。

 始めてしまえばなんということはなくて、名雪はわりとすぐに息継ぎのし方を覚えた。「松岡君の教え方が上手だったからだよ」って名雪は言ったが、もの覚えが良くて運動神経がいいからだと思った。なんとかクロールが形になったところで、その日は海を上がった。

 二日目の午前中は遠泳で、午後は遠泳のノルマが終わっていれば自由時間だった。

 名雪は俺と一緒に遠泳コースを途中まで泳ぎ、ちゃんとノルマを泳ぎ切った。

 俺は二キロの距離だったが、これも体力づくりだと思えばそれほど苦ではなった。まあ、泳ぎ終わって海から上がった時は体が鉛みたいに重くて、膝も腕もガクガクだったけど……



 夕飯はお楽しみのバーベキューで、その後浜辺で花火をした。

 臨海学校も明日で終わり。そう思いながら、風呂をすませて部屋に戻ると、すでに布団が引かれていて、同室の男五人が布団の上に胡坐をかいて丸くなっている。


「おっ、松岡も戻って来たぞ~」


 菱谷が入り口につったていた俺を振り向き、にやついた笑みを浮かべる。


「なにやってんだ? ってか、俺の布団敷いてくれたヤツありがと」

「おう、どういたしまして」


 奥に座ってた真下が手をあげて言い、俺も頭を下げてから、荷物を鞄に片す。


「松岡も早く来いよ~」


 菱谷に急かされて、片づけをそのままにその輪に近づく。


「なにやってんの?」

「なにって、臨海学校定番の恋バナですよ」


 くふふっと菱谷が気持ち悪い笑みを浮かべて、周りの男どももにたにたと笑みを浮かべてる。

 女子じゃあるまいし、それって楽しいのか――という疑問は、口には出さなかった。

 まあ、聞くだけなら害はないよな……、そう思って。


「俺さぁ~」


 そう言ってまず話しだしたのは薦田(こもだ)


「さっきの花火の時に、告白して彼女出来たんだっ!」

「うおっ、マジかよ~」

「やったなぁ」

「相手誰だよ?」


 みんな興味津々で薦田に食いつくなか、俺は後ろ手に鞄を引き寄せて携帯をとる。

 風呂入ってる間に着信ないか確認すると、メールが二件きていた。

 一つは母さんから。無事かっていうのと、明日気をつけて帰ってくるようにという内容のメール。

 小さなため息をもらして次のメールを開くと、名雪からのメールだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。ぽちっと押して頂けると嬉しいです!
小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ