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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2片思い編:side芹香
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第26話  決断の時



 焦る心を見抜かれないように、落ち着いた手つきで問題集とノートを片して鞄に閉まった私は、陽太君と一緒に一階へと降りる階段へと向かう。

 松は、私達が座っていたテーブルの横に立ったまま、何か言いたそうに立っていたけど、私は松の方を見ないようにして松に背を向けた。

 隣を歩く陽太君が、階段の手すりに手をかけながら振り返るのが視線の端をかすめて、つられるように振り向いてしまった。

 そこに、苦しげに眉根を寄せてこっちを見ている松の姿があって、胸がきゅっと締めつけられる。

 どうしてそんな顔してるの――

 そう聞きたかったけど、私はそんな気持ちを振りきって、階段を下りた。



 図書館を出て少しして、陽太君の手が私の手に触れてビクっとする。


「芹香さん――、いいの? 松岡と話さなくて」


 その問いかけが、胸をえぐる。

 ここまで歩いている間、ずっと松の事を考えていたことを見抜かれたようで、切なくなる。


「いいの……」


 だから、私はそう答えるしかなかった。

 松が私にどんな話があるのかは分からないけど、今、松と二人きりで話したら、後戻りできなくなりそうで怖かった。



  ※



 片思いでいい――

 そう思っていたのに、日が経つにつれて苦しい恋に耐えられなくなっていく。

 学校で見かける二人の姿に胸を痛め、友達としても側にいることが出来ないことに唇をかみしめる。

 醜い感情が胸に渦巻き、そんな自分に嫌悪して、ぐるぐると思考がめぐる。

 松が自分の想いに答えてくれることはない。けっして振り向いてもらえない。

 好きだけど、どんなに思ってもこの気持ちが報われないなら、いっそ嫌いになれたらいいのにと思ってしまって、心がかき乱される。

 視界から松を追いだすように目をそらして、そうすることでどうにか気持ちを保とうとしていた。

 それなのに、どうしたわけか、松がうちのクラスに尋ねてくる回数が増える。美咲ちゃんに会いには時々来ていたのは知っている。

 それなのに、なぜか私に用事があるっていうから、私はなんだかんだと理由をつけて松から逃げる。休み時間のたびにお手洗いだとかいろいろ理由をつけて教室から逃げて、昼休みもなるべく教室にいないようにした。

 時々、美咲ちゃんがなにか言いたそうな視線を私に向けているのにも気づいていたけど、松から逃げる自分の行動が変だとは、気づいていなかった。

 だけど――


「芹香――」


 HRが終了するのと同時に、松が教室の扉を開けて私の名を呼んだ。

 帰りの挨拶がすんだと言っても、まだ教壇には担任もいて、クラスのほとんどが扉から教室に入ってくる松に視線を向けてる。

 逃げ道を塞がれて、私はとっさに笑顔で返す。


「あっ……、松、どうしたの?」


 視界の端で、美咲ちゃんと陽太君がこっちを見ているのが分かる。私が松と話しててクラスメイトが変な誤解をしないかって不安になりながら、どうにか気力で平静を装うことができて、内心安堵する。なのに。


「一緒に帰るぞ――」


 そう言って、松は有無を言わせず私の腕を引っ張って歩きだすから、ざわつくクラス。心臓に氷の塊を落とされたような衝撃にひやひやとする。

 なっ、なんで、私!? 私じゃなくて、美咲ちゃんと帰ってよ――っ!!

 好奇心の瞳を私に向けた数人の女子が、美咲ちゃんに駆け寄るのが視界の端に映って、私は教室からずるずると連れ出された。


「待って、私、今日は図書――」

「委員の当番は今日はないだろ。うちのクラスの図書委員に当番表見せてもらったから知ってるからな。嘘つくなよ」


 言おうとした言葉をさらりと断たれて、もうどうしたらいいか分からなくて泣きそうになる。

 なにより、ずっと避けていたことを見透かされて、苦しくなる。

 こんなに想いが溢れてきたら――もう諦めるしかないと思った。

 松を目の前にして、いまにも想いを口にしそうになって、そんな美咲ちゃんを裏切るようなことしてはいけないと最後の理性が踏み留める。

 片思いでいいなんて嘘。もう、辛くて辛くて、どうしようもない……

 私は松に腕を引かれながら、とうとう堪え切れずに嗚咽をもらして泣きだしてしまった。




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