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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2片思い編:side芹香
24/76

第24話  片思い同士



 涙でぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて俯いた私を、七海君の腕がそっと背中にまわされて、ビクンッと肩が震える。


「うん……好きって気持ちは、簡単になくならないよね」


 私が話す間、ずっと黙って聞いていてくれた七海君は苦笑交じりにそう言って、私の顔を覗きこむ。


「だから俺も、名雪さんが違う誰かを好きでも、好きって気持ちはどうしようもないんだ」


 片思い、一緒だね――そんなふうに笑う七海君の笑顔はふわふわとして、私の傷ついた心を癒してくれる。


「今はさ、友達からでいいから、一緒に帰ったり遊びに行ったりして、少しずつでも俺のこと考えてくれたら嬉しい」


 恥ずかしいところを見せてしまって顔が上げられなかったけど、七海君の優しさが胸に沁みて、七海君の隣は居心地がよくて、私に、断る理由はなかった。


「友達からでいいなら……」


 七海君は、私が将来の目標のために勉強頑張ってることを知っているし、七海君も同じく目標に向かって頑張ってる人。優しくて、気配り上手で紳士で、頼りになることを知っているから。

 すっと七海君の腕が伸びてきてビックリしたんだけど、七海君が優しく私の涙を拭ってくれて、自分でも分かるくらいかぁーっと赤面してしまった。

 ほんと、七海君ってなんていうか……


「じゃあ俺はクラスに戻るけど、名雪さんはまだ寝てて」

「えっ?」

「最近ずっと具合悪そうだったし、もう少し寝てた方が楽になるよ」


 七海君はそう言いながら、私に横になるように促し、布団をかけ直してくれた。

 もうちょっと寝ていたいって、どうして七海君には分かっちゃうんだろう……

 こんなに優しくされたら、また涙があふれてきそうになる。


「学園祭終わる頃にまた来るね、何かあったらメールして。帰りは――渡瀬さんが一緒に帰ろうって言ってたよ」

「結衣が?」

「うん。本当は俺が名雪さんを家まで送っていきたいけど、さすがに今日はそこまでされたらうっとおしいだろ?」


 そんなふうに言いながら屈託なく笑う七海君の笑顔が心にしみる。


「名雪さんが俺のこと好きって言ってくれたら、嫌って言っても家まで送るけどね」


 そう付け加えて片目をつぶった七海君の甘い眼差しに、不覚にもドキドキしてしまって、シーツを引っ張りあげた。


「うん、ありがとう」


 小さな声で呟いて、私はそのまま再び眠ってしまった。本当に最近、寝不足だったから。でも、七海君に話したら心が軽くなって、深い眠りに落ちていった。



  ※



 楽しい学園祭もあっという間に終わってしまい、すぐに模擬試験が二つも立て続けに行われた。

 私は図書委員会のない日も放課後を図書館で過ごし、七海君と一緒に試験勉強して、その後一緒に帰るというパターンを送って二週間がたつ。

 無事に模試が終わっても、二週間後には中間試験が迫っていて、今日もいつものように図書館に行こうとしていたHR後のこと。


「芹香、今日の帰り……」


 そこまで言った結衣は、少し面白くなさそうに唇を尖らせて続ける。


「もっ! 七海君と図書館なわけ?」

「うん」


 私はどうして結衣がそんな顔して言うのか分からなくて首を傾げて苦笑する。


「ねっ、なんかさ、学園祭から二人、仲良くない? なにかあったの?」


 辺りを見回して、周りに人がいないことを確認した結衣はそれでも小さな声で私に尋ねてきた。

 私は、あの日保健室であった出来事を結衣にも、誰にも話していない。だって、付き合いだしたとか、なにか変わったことがあったわけじゃないから。

 まあね、告白はされたけど。いままで通り友達として接してくれればいいって七海君は言うから、あえて結衣に言わなくてもいいかなって思って。

 それに、そんなふうに言いながら、七海君が本当は友達以上の関係を望んでることを知っているから、言えない――っていうのもある。

 今でもやっぱり、私は松の事が好きだから。七海君を好きになる可能性なんてゼロに近い。それでもいいから友達からって言ってくれる、七海君の気持ちも分かってしまうから――断ることなんてできなかった。

 実際、一緒にいる時間は増えたけど、七海君はうまく私との距離を保ってくれている。決して近寄りすぎず、遠すぎず。自分で言った“友達”の線を踏み越えてはこない。

 お互い片思いだから、お互いの気持ちが手にとるように理解できて、七海君の隣は居心地が良かった。

 松の事を好きなまま、松と距離を置かなければならない私は、七海君の優しさに甘えているんだと思う。こんなのいけないって思うけど、七海君という新たな男友達の存在は私の平常心を保つのにとても必要だった。

 黙りこんでしまった私を、結衣が下から顔を覗きこんでくる。


「芹香?」

「えっ? ああ、なにもないよ。陽太(ひなた)君とは」


 そう言って、ぼぼっと火がついたように顔が赤くなるのが自分でも分かって、顔を手で覆う。

 うぅ……恥ずかしすぎる。

 七海君が下の名前で呼んでほしいっていうから練習してるんだけど、慣れなくて照れてしまう。


「芹香……」


 結衣が疑わしげな眼差しを向けるから、うっと視線をそらす。


「ねえ、本当に何もないって信じていいの!? だったらなんで、下の名前で呼び合ってるの! すっごい怪しい、ってかその顔、七海君に見せたらダメだよっ! 誤解されるっ」


 なんか無茶苦茶な事叫んでいる結衣に視線を戻す。

 誤解されるってなにかしら……? 私、今、そんなに酷い顔してるのかな……?


「俺が何?」


 ひょいっと結衣の肩越しに陽太君が現れて、結衣が悲鳴を上げる。陽太君は、驚いて眉をあげ、苦笑する。


「驚かせちゃった……?」


 陽太君に追及の矛先を向けそうな結衣に、私はキョトンっと首を傾げる陽太君をあわてて廊下に連れ出した。




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