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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2片思い編:side芹香
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第20話  誤解



 昇降口に残された私は、その場に呆然と立ち尽くす。

 学園祭ということで来客用にスリッパの入った箱と靴を入れる用のビニールが置かれている。私はその横で、下駄箱をあけようとした手を止めたまま、小さなため息をつく。

 謝るも何も……喧嘩したわけじゃないんだけどな。

 確かに、私は松に八つ当たりしてそれは謝らないといけないとは思うけど、なにをどう話したらいいのか……

 そんなことをぶつぶつと口にしていることには気づかずにいた私は、とんっと肩を叩かれて、驚いて振り返る。


「さっきから見てたけど、君、可愛いね」


 そう言ったのは見知らぬ男子二人。年齢は同じくらいだけど、制服を着ていないからきっと他校生だろうと予想をつける。

 それにしても、さっきから見てたって、私はそんなに挙動不審だったかな?

 考え事をしていて男の子の言った言葉の最初しか聞こえていなかった私は的外れなことを考えてるとは思いもせず、いつのまにか腕を掴まれていてビックリする。


「あの……?」

「ねえ、俺らと一緒に見て回らない?」


 疑問口調なのに、こっちの返事も待たずに腕を強く引かれて困惑する。

 なに、この人達……?

 掴まれた腕からぞくりと鳥肌がたって気持ち悪い。それなのに振り払えない強い力に恐怖さえ感じる。


「いえ、友達と一緒なので……」

「その友達って女の子? ラッキー、じゃあ四人で回ろうよ」


 丁重にお断りしたのに、分かってもらえなくて、頭がズキンと痛む。

 そういえば最近、頭痛が酷いんだよね……だからってこんな時に痛まなくてもいいのに。

 もう、なんだか思考回路がぐちゃぐちゃになって、上手く頭が回らない。抵抗するだけの体力も気力もなくて、腕を引かれるままに歩きだした時。

 ドンッと下駄箱が叩かれる大きな音が響いて、気がついたら掴まれていた腕が離されて、逞しい腕の中に抱きしめられていた――

 ぼんやりとする頭の片隅で、聞き覚えのある声が耳鳴りのように響く。


「俺の連れに何か用?」

「あっ、いえ…………ちっ、なんだよ男連れか……」


 問い詰めるような鋭い口調に、私に声を掛けてきた男の子達は慌てて走っていく。

 私を抱きしめる腕にぎゅっと力が籠って、その苦しさに息をもらすと、ぱっと腕が解かれて目の前に端正な顔が覗きこんでくる。

 ずきずきする頭痛にしかめていた顔を、驚きへと変える。

 私の目の前にいるのが松だったから、幻覚としか思えなくて、頭が混乱する。だって、松は休憩は終わって陸上部の当番中で、こんなところにいるはずなくて……

 ぐるぐると思考が勝手に考えて、幻覚だと結論付けた。


「そっか、そうだよね……」

「なにが?」


 ぽつっともらした声に、まさか返事が返ってくるとは思いもしなくて、それまで朦朧としていた思考がぱっと正常になる。


「ま、つ……っ!?」


 口がぱくぱくと空気をかんで、なんでここにいるのって声がかき消える。


「なんだよ、芹が俺に話があるっていうから追いかけてきたら……ナンパなんかされやがって……」


 ぼそっと不機嫌丸出しの声で言われて、私は目を大きく見開いて松を見つめる。


「ナンパなんか、されてないけど……?」


 キョトンと首を傾げると、松が苛立たしげに私の腕を掴む。


「一緒に回ろうって、連れて行かれそうになってただろ!?」

「見てたの……?」


 なんで知ってるんだろうって単純に疑問に思ってそう聞くと、松が決まり悪そうに視線をそらす。


「それより、話ってなんだよ……?」


 あからさまに話をそらされたのに、私はそんなことどうでもよかった。

 だって、話があるなんて勝手に言ったのは結衣で私はそんなこと一言も言ってないのにっ!

 私が黙りこんでいると、松が腕を引っ張って少し強引に歩きだす。

 どこに行くんだろうと疑問に思って、それよりも何を松に言ったらいのか分からなくて、そのことをぐるぐる考えて強い頭痛がして気が遠くなりそうになる。

 瞬間、足がもつれて転びそうになって、振り返った松がその逞しい胸の中に私を抱きとめるから――

 どうしようもないくらい胸が早鐘を打って、じれったくなる――

 固く閉じた蓋の下から、感情が溢れようと暴れている。

 好きで、好きで、好きでどうしようもなくて――

 だけど。

 ズキンっと、警告のように頭痛がする。

 私の気持ちに気づかれたら、松と今までみたいに友達でいられなくなる。それは嫌――

 うつむいていた顔を上げた私は、考えるよりも先に言っていた。


「私に構わないでっ……」


 松を見上げた視界がにじんでいて、泣いてしまったことに気づいたけど、一度流れだした涙は止めることはできないでしょ。

 松はぴたっと動きを止めて、傷ついたような顔で私を見つめているから、胸がズキズキと痛む。

 すべてを投げ出してしまいたい気持ちと、松との関係を壊したくないと叫ぶ心とが葛藤して、なんとか私は笑顔をとりつくろう。


「ごめん……私と松がこんなふうに一緒にいるのを美咲ちゃんが見たら誤解しちゃうから、私に構わないで?」


 手の甲でぐっと涙を拭いて、私は苦笑して松に言う。

 美咲ちゃんのこと理由にして、それでも松と距離を取るしかないと思ったから。松を傷つけないように、自分が傷つかないように――

 私は痛む頭を押さえて、ふらつく足でなんとか歩いて、その場を立ち去った。

 あまりにも頭痛がひどくてそのまま教室に行った私は、学園祭初日の午後を衝立で区切られた教室のバックヤードの片隅で丸まって過ごした。




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