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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2片思い編:side芹香
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第17話  苦しくて、切なくて



「……は楽しかったね。また行きたいなぁ」


 目の前で楽しそうに交わされる会話に耳を傾けながら、お弁当をパクパクと食べる。

 どうやら、昨日の日曜日は松と美咲ちゃんデートだったらしい。美咲ちゃんがうっとりするような微笑みを浮かべて笑えば、松が爽やかな笑みで返す。

 そんで、なぜか同じシートの上に私……

 学園祭まであと一週間とせまり校内は徐々にお祭りムードが盛り上がりつつある中、中庭で繰り広げられるランチタイムが、学校中の噂になっていると聞いて、私はげっそりとした。

 二学期が始まってから週に二回、恒例のように美咲ちゃんに引っ張られて私は中庭へ。もちろんそこには松もいて、変なとり合わせの三人組のランチタイムは好奇心旺盛な生徒の注目の的ってわけ。

 まあ、正確には学校一の美男美女カップルの邪魔をする友達……って図ですか?

 私は一度目はなんとか耐えたのよ。美咲ちゃんは松との恋を協力してって私に以前頼んだことがあるし、やっぱ付き合いはじめの二人きりは緊張するのかなって思って。でもさ、そんな感じ、ぜんぜんなし。すっごく自然に話してるし、私の存在が霞むカンジ。私はなんのために呼ばれたの?? って疑問符が頭にたくさん浮かぶくらい。

 だからさ、二度目に中庭ランチに誘われた時は、丁重にお断りしたのよ。だけど、「二人っきりは恥ずかしいから」って頬染めて恥らった美咲ちゃんに言われたら、仕方ないよね。そうさ、協力するって言った手前……

 美咲ちゃんの言ってた協力してって、付き合うことを見越してこのことを言ってたのかな……?

 そんなふうにも考えるけど、美咲ちゃんの考えることはぜんぜん分からなかった。

 それで今日もまた三人でのランチタイムなんだけど、もう断るのも面倒って言うか、断れないのを分かっているから諦めたというか……

 二人仲良く話しているのを聞きながら、私は黙々とランチを食べて、時々話をふられれば相づち打って――なんて、疲れるランチタイムだろう……

 私は気づかれないように小さなため息をついて、ぱたんとお弁当のふたを閉じる。

 もう慣れてもいいだろうに、相変わらず私達に向けられる視線は多くて、中庭には松と美咲ちゃんが付き合いはじめたのを確認するようにギャラリーがたくさん。それでもって、なぜか私にも、冷たい視線が……こんな中、おいしく楽しいランチタイムなんて無理でしょ……食欲なくなる……


「芹香ちゃん、もうご馳走さま?」


 こくんと小首を傾げて美咲ちゃんに尋ねられて、私は苦笑する。


「うん……」


 最近、結衣の手伝いで学校に残って、夜遅くまで勉強しているから寝不足なんだよね。だから、きっとそのせいで食欲もないだけ。

 言葉にはせず、心の中でつぶやいて言い訳する。


「ごめん、先に教室戻るね……」


 お弁当をナプキンで包んでそっとシートから立ち上がり、渡り廊下の方へと歩き出す。

 ギャラリーが立ち去る私に視線を向けて、ざわざわと囁いているのが聞こえる。だけど、そんなのは今はもう気にならなかった。

 胸がちりちり痛んで、早くこの場から――松と美咲ちゃんの前から消えたかった。

 帰りが遅くなったから、夜遅くまで勉強していたなんて、嘘。

 厳重に蓋をして鍵までかけた私の心のセキュリティはバッチリ。松を目の前にしても、好きだなんて気持ちは幻だったように大人しくしててくれて、松とは普通に今まで通り友達として接することが出来た。

 美咲ちゃんは習い事してるから、部活で帰りが遅い松を待つことはなくて、二人が一緒にいるところはそんなに目にする機会もなくて、案外平静を保つことも出来た。遠目に二人が一緒にいる分には、よかったねって思えるから大丈夫だし。ただ……週に二回のランチタイムが辛い。針のむしろに座らされたように居心地悪いし、息も出来ないほど苦しい。

 仲がいい様子を目の前で見せられた日は、松と美咲ちゃんのことを考えずにはいられなくて、もやもやとする気持ちを無視するように勉強に集中するしかなかった。

 そんなことを繰り返して、最近は二時すぎまで勉強して、目がしょぼしょぼしてきてからベッドに潜り込む。そうじゃないとぐるぐる考えてしまって眠れなかった。

 私は中庭を抜け、渡り廊下を抜けて、図書館のある方へと歩いた。ただなんとなく、一人になりたくて。

 それなのに、どうしてこういうことをするかな……

 掴まれた腕がびりっと熱を帯びて、心を締め付ける。


「芹……?」


 振り向かなくても分かる、それが誰の声かなんて。

 なんで追って来たのよ……そう言いたいのに、言葉が胸に詰まって上手く話せなかった。

 目に溢れてくる熱いものを掴まれていない方の手の甲で拭って、なんでもないような声を出す。振り向かずに。


「なに? 松」


 あまりにも素っ気ない声が出てしまって、自分でも驚く。松も困ったように身じろいで、ゆっくりと私の腕を離した。


「あ、いや……最近、芹、元気なくないか?」


 元気がないとか言われて、ぎゅっと胸が締め付けられる。

 必死に隠してたつもりなのに、なんで気づくかな……

 松にだけは気づいて欲しくなかったのに。


「そんなことないけど?」


 泣きそうになるのを堪えて、声が冷たい響きを帯びる。


「弁当も半分以上残して、そんなことないわけないだろ? こっち向けよ、芹香」


 ドキン、とした。

 いつもは芹なのに、そんなふうに呼ぶのは卑怯だ。

 私がどんなに想ったって、松が好きなのは美咲ちゃんのくせに。どうして彼女を前に、私のことなんて気にするの? どうして追いかけてくるのよ……?

 口にしてはいけない想いが込み上げてきて、胸が苦しい。

 嬉しいはずの松の気づかいが今は辛いだけで、やるせなかった。

 こんな気持ちになるなんて、嫌なんだから――

 私は視線を床に落としたまま振り向いて、松の胸をとんっと押す。


「松には関係ないでしょ」


 冷たい声で言い放って、私はその場を駆けだした。



 松は美咲ちゃんのことが好きなんだから、私になんか優しくしないで――

 こんな優しくされたら、私は自分の想いを断ち切ることが出来ない。

 美咲ちゃんのことが羨ましいとか、二人が上手く行かなければいいとか、そんな思いたくない感情が胸に渦巻いてくる。

 私は二人をちゃんと笑って見守りたいから。

 だから、私の心をかき乱すようなことはしないで――




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