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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2編:side芹香
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第13話  夜空の花火と一緒に散った想い



 花火までまだ一時間くらいあるから、出店を回りながら花火会場に行くことにした。

 夕飯にたこ焼きを食べて、かき氷食べて、お土産にりんご飴を買う。

 そんなことをして、去年もりんご飴買ったな――なんて思い出しちゃって、胸がじくじく痛み始める。

 考えないようにしよう、そう思えば思うほど、私の頭の中は松のことでいっぱいになっていく。

 松は――美咲ちゃんと一緒だよね。もう告白したのかな。お祭りなんて最高の告白シチュエーションじゃん。いい雰囲気になって、今頃お互いに気持ちを伝えあってるよ。

 良かったじゃん――そう思うのに、胸が切なく痛む。

 大事な親友と友人の想いが実って付き合うことになるんだよ。私はずっと二人の幸せを願ってきたのに――どうして、こんなにもやもやした気持ちなんだろう……


「結衣、私っ……」


 私が口を開いたと同時に、結衣がぴたっと動きを止めて、前方を食い入るように見つめる。


「結衣っ!」


 澄んだ低い声で名前が呼ばれて、私もそっちに視線を向けると、結衣の彼氏の八木君が人混みをかき分けて結衣の側に駆けよってくるところだった。


「啓斗……」

「結衣、約束忘れてて悪かったと思ってる。来ないって言ってたのにどうして……」

「わっ、私は、芹香と二人でお祭り楽しみに来ただけだよ。啓斗のことなんて知らない」


 ぷいっと視線を横にそらした結衣が、その頬を染めていることに気づいて、私はさっきまでのもやもやが吹き飛んで穏やかな気持ちになる。

 八木君が来てくれて嬉しい、って結衣の顔に書いてあるんだもの。


「本当にごめんっ!」


 この通り――って言って八木君が両手を合わせて頭を下げるのを、結衣がちらっと見て、ふんっと鼻をならす。


「やっぱ花火は、結衣と一緒に見たいと思った。それに――」


 そこで言葉を切った八木君は目の下をほんのりと染めて綺麗な笑顔を浮かべる。


「結衣の浴衣姿、かわいいから、他の男に見せたくないよ」


 わー、八木君ってさらっとキザなセリフ言えてすごい!

 私は心の中で感心して、結衣を見て苦笑をもらす。

 赤くさせた顔にぎゅっと眉根に皺を刻んで、すごい挙動不審。許したいけど、怒ってる演技してるのが分かって、私は携帯を取り出してわざとらしく言う。


「あっ、ごめん、電話だ。長くなりそうだから――八木君、結衣のことお願いね」


 八木君に、はいっと結衣の手を乗せてバトンタッチ。


「ちょっと、芹香っ」


 去ろうとする私の腕に結衣がすがりついてくるから、私は結衣にだけ聞こえるような小さな声で言う。


「許してあげなよ、八木君、友達より結衣を選んで来てくれたんだよ。せっかくなんだから、楽しい思い出、作んなきゃ――じゃあね」


 そう言って私は結衣と八木君と分かれて、人混みをかき分けて駅の方へと歩き出した。



  ※



 ほとんどの人が花火会場に向かって歩く中、逆流するのはすごく大変だった。

 なんとか人混みを抜けて、開けた道路に辿り着いた時、その視界の先、道路を挟んだ反対側の歩道に松と美咲ちゃんを見つけてしまった。

 肩がつく程の距離に立った二人は楽しそうに何か話していて、空を見上げる。瞬間。

 ドッ、ド――ン……

 大気を震わせる大音量と共に、漆黒の夜空に大輪の花が咲いては散っていく。

 それと同時に、つぅーっと頬に冷たい感触を感じて、私は慌てて目元を拭う。

 やっ、やだ、私ったら、なに泣いてるんだろう……

 自分の涙に動揺して慌てて目をこするけど、涙が後から後から溢れてきて止まらない。

 そうして、気づいてしまった。私の松に対する気持ちが「友達」の好きではなくて「男の子として」好きなんだって――

 松に彼女が出来て、やっと自覚するなんて、遅すぎよ……馬鹿みたい……

 自分の気持ちに気づいた瞬間、失恋なんて。

 ううん、例え、もっと早く気づいていたとしても、松が好きなのは美咲ちゃんなんだもの。私の恋はどうしようもならないのね。

 私は目をこするのをやめて、首が痛くなるほど空を見上げる。

 花見会場からは離れているけど、花火がよく見える。そして、仲良く寄り添う二人の後ろ姿も――

 じくじくと痛む胸に手を当てて、そっと蓋を閉じる。

 私は松も美咲ちゃんも大好きだから、二人の仲を壊すつもりはないし、松に気持ちを伝えようとも思わない。

 だから、私の気持ちはなかったことにするの。松は、いままでもこれからも、私にとっては友達でしかない。

 だから……今日だけは松のことを想って泣いてもいいよね……

 誰も答えてくれないけど、ド――ンッと花火が上がって、優しく闇を照らしだす。

 私はその場にしゃがみ込み、嗚咽をもらして泣き出した。

 通りがかった人が不審そうにチラチラ見ているけど、今はそんなことどうでもよかった。

 歩道の植え込みに隠れるようにして、私は涙が枯れるまで泣き続けた。

 夜空の花火が散る頃には、この想いに蓋をすると誓って――




ついに芹香は自分の恋心に気づいてしまいました。

次話から<高二・片思い編>です。


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