表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第1話―最初の話〜始まりに至る朝食とその概要

ここらで我が家の説明をしてみるのもいいかもしれない。




そんなインスピレーションが舞い降りた僕は、それに従うことにした。


さてまず僕たちが住むこの家から説明しよう。

この家は元々は僕と僕の兄が住んでいた。築8年の一軒家。でも、その兄は2年前に海外に仕事で渡ってしまった。そこに居候が2人も寄生してしまった。そこから僕たちのこの生活は始まったわけ。2人は居候として暖かな住まいを得た代わりなのか、大抵の家事は賄ってくれる。これは僕としては助かるのだけど――







 朝、リビングに入ると何だか煙たかった。視界はうっすら白んでいて、とにかく目と喉が痛い。


「ごほっ……何してんの?」


僕の前でニコニコと笑いながら何かをこねている山田華。16才。僕と同じ高校に通っている。前に言った通り美人だとよく聞く。僕としては少し危ない変な女の子。


「朝の挨拶は?」


「おはよう。華」


「よろしい」


 華は満足気に言うと、満面の笑みを見せてくれた。不覚にも可愛いと思ってしまう。そんな僕の苦悩を知ってか知らずか、華は再び作業を開始した。

その作業とは、ボールの中のゲル状のものをひたすらかき混ぜる。ただそれだけ。しかしながら、その手の内では危ない化学変化が現在進行中。


 朝からそんなにおかしさ全開でなくても良いじゃないか。

僕は泣きたくなった。

華は相変わらずかき混ぜる。どうやらこの煙の元は華らしい。ボールの中からは遂に彩り豊かな煙があがりだした

あれだ! スモーク花火だ!

リビングの窓を全開にしながら、そんなことを思った。近所迷惑にならないことを祈りたい。


「本当に何してんの?」


華はキッチンで七色の煙に包まれていた。煙たくないのかな。


「見て分からないの?」


華は不思議そうに首を傾げる。見る人が見れば、可愛いのかもしれない。でも僕には七色の煙に包まれた人をそうは思えない。


「分からないから聞いているんだよ」


全くもって理解できない。もう、なんか花火作ってんじゃないの? って感じ。


「花火を作ってるのよ」


大当たり。


 いや、今回は外れて欲しかったよ。まさか朝起きたらキッチンで花火を作っているとは。

華は変人だ。解っていたけど改めて思い知らされる。


 僕は深い深いため息をついた。


「何でそんなもの作ってんのかは後で聞くとして、それは捨ててこい」


 華は眉間に皺を寄せるといかにも不機嫌そうにする。


「冗談を本気にしないで欲しいわね。第一、女子高生がキッチンで花火なんか作るはずないでしょ。馬鹿ね。朝ご飯に決まってんでしょ」


 冗談だったらしい。それにしても、朝ご飯はないだろう。もしかしたら、花火の方が納得できるかもしれない。僕は早朝にして再び泣きたくなった。

 朝ご飯を調理中だというのは理解できた。しかし、それだけじゃあ問題は片付かない。僕は意を決して尋ねた。


「じゃあ、その煙をもくもくとたてる怪しい物体は何?」


「玉子焼き」


――はい?

玉子焼き? これはまたしても冗談なのか? それともマジで言ってるのか?


いろんな疑問符が頭の中をふわふわと漂っている。

はて? 玉子焼きはあんなものだったっけ?

否。玉子焼きとは立派な料理だ。花火じゃない。


「それが玉子焼き? 僕には花火の方がまだ納得できるのだけど」


「そう? ……食べてみる?」


いらないよっ!


と僕は心の中で叫んでいる。実際には華を無視してテレビを見ようとしているのだけど。

なんかもう相手するのが疲れたから。


「あれっ?」


思わず素っ頓狂な声を出す僕。後ろから聞こえてくる大爆笑。


僕は華に若干のいらつきを感じながらため息をついた。現在我が家のテレビには『節約』と貼り紙がされていた。


こんなことするのは多分、あの人。

僕はテレビを見るのを諦めた。

節約じゃあ仕方無い。


僕は支度をするためにリビングを出た。後ろからは未だに大爆笑が聞こえる。僕は腹いせに華の部屋の扉に『馬鹿在住』の貼り紙をしておいた。




「あっ! ご飯できたよ」


僕が居間に戻ると食卓には彩り鮮やかな朝食が並んでいた。


「すげー! なんか普通に美味しそう」


「タニの言い方には少し不満はあるけど……」


「いや、うまいうまい」


僕は華の言葉を待たずに食べる。普通に旨かった。


「うまいよ。でも1つ不満がある」


「私はタニの存在が不満だけど」


僕は華の言葉を無視する。まともに受け止めては挫けてしまいそうだから。


「こういう時ヒロインは料理下手ってのが普通じゃないかな」


華は痛ましい目で僕を見る。


「……冗談です」


その目線に耐えられず僕は黙々と食事を続けた。




食事を終えてよく考えると我が家のコックは華だということを思い出した。朝っぱらからあんなショッキングな調理風景を見せられたからだろう。気が動転していたみたいだ。次からは華の調理風景を見ることがないように気をつけよう。


僕は『節約』の文字を見つめながら思うのでした。

次回、2人で出かけます。『あの人』は出せるでしょうか。不安なところです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ