一人の男
真夜中に俺は唐突に思った。
俺には何人殺せるのだろうか?
俺はカッターをポッケに入れて家を出た。
人を探しながら歩みを進める。
いた。男だ。四十ぐらいかな。会社帰りか。
俺は静かにそいつの後ろをつけ、カッターを出した。
大丈夫、首を切れば静かに、すぐに終わる。
男をつけながらふと思う。
奴は自分が今から死ぬなんて微塵も思っていないんだろうな。
家族はいるのかな。
一家の大黒柱が死んだらその家族はどう思うだろう。
子供と妻は泣き、なぜかと思い、俺を恨む。
マスコミが騒ぐ。
俺は捕まる。
裁判を受ける。
罪を償う。
残された家族はなんとか生きて行く。
そして時間と共に全てが忘れ去られていく。
そんな事を考えているといつの間にか男を見失った。
まぁ、いいか。こんな日もある。
俺は家へと帰った。
カッターをポッケから出した。
カッターを持つ手は震えている。
殺すのは俺だけで十分だ。
そう思った時、手の震えがピタリと止まった。
なるほどね。そういうわけかい。
男は笑いながら涙を流した。