↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/40

第十七話 目の到着

門に着いたのは、樽ではなかった。


着いたのは馬二頭と、歩く男が三人。三人のうち二人は剣を持たない。持たない手が、水準器の箱と、薄い布の包みを抱えている。抱えた包みの蠟が、書記局の封に似ている。似ている封を、キリカが柱の陰で見た。見た目が、杭を数える目と同じ形になる。


「測る役だ」小さな声。「旗を見る役は、後ろの外套だ。外套の下に剣はない。ない男が、学院の娘を見る」


見るな、水は見るな、の命令の、見る側が門に立っている。立つ三人を、リリアの細身が敷居で止めた。止めた背中の白い胴衣は、朝練の Sweat で貼りついている。貼りついた旗を、外套の男が正面から見た。見た瞬間、旗局の仕事が相手側で完了する。完了を、彼女は斬らなかった。斬らない代わりに、所管の語を置いた。


「残党確認の延長だ。延長のあいだ、門は騎士の所管。所管の外の用件は、種別してから入れる」


外套の男が笑った。笑いは商人のそれだ。商人の顔で、角はない。ない顔が、水位を一人で決める男の手であることを、名では示さない。


「用件は救済の確認と、水位の再測だ。空の井戸を測らせてもらう。測った数字が、次の配給の根拠になる。根拠のない学院に、鎖のあとの水は置けない」


鎖のあと。またその一行だ。一行を、セレナが左から切った。


「井戸は神殿の所管。再測は神官正の立ち会いが要る。要る前に、箱を開けろ。箱の中が水準器だけなら通す。水準器だけでないなら、預かりだ」


箱を開けた。中は水準器と、杭の短い見本。見本の焼印が、棚に固定した破片と同じ手だ。同じ手を、トオルは口に出さなかった。出さない代わりに、帳面の余白へ形だけを写した。写した形が、物証の六枚目になる。


クラッドが内から来た。香水は薄い。薄い口が、八樽の残を知っている。知っている顔で、彼は外套の男に先に会釈した。会釈は右隣の席を守るための翻訳だ。


「測るだけなら通せ。通した測りが、空の責任を数字にする。数字になった空を、団長の旗では覆えない」


「通すのは水準器だけだ」リリアが短く返した。「人は門の外。外で測る役が数字を出すなら、数字は門の上で読む。読んだ数字を、本契約の根拠にしない」


外で測る。円筒の縁に、測る役の足を乗せない。乗せないことが、水位を学院の側に残す最後の細工だった。細工のあいだに、アリアが山の線から戻ってきた。赤髪が粉と Sweat で一色濃い。濃い匂いが、門の緊張を殴る。


「鎖はまだ外れていない。外れていない。ただし金具の位置が変わった。変わった位置は、外す直前の形だ。馬は戻ってきた。戻ってきた馬の荷は、一字だけだった」


一字。外せ、か、待つ、か。どちらが山へ届いたかは、金具の位置が答えている。答えが外す直前なら、今日か明日で実物になる。実物を、キリカが本数に足した。足した顔が、測る役の横顔を見ている。横顔は、彼女が測らされていた側の同僚だ。同僚は、キリカを見なかった。見ない命令が、旗を見る役の外套から出ている。


神官正が縁へ立った。立った白い衣の下で、空の殻が底を見せている。見せた底を、測る役が門の外から覗いた。覗いた数字を、布に書く。書いた数字が、門の上へ回される。


「水位、ゼロ。涵養、観測不能。次の配給なしには、三日で行動不能」


三日。八樽を二リットルで割った長さに近い。近い数字を、外套の男が保護の根拠に翻訳する。


「三日の空は、予備の理由になる。理由がある学院に、本印を届ける準備はできている。届ける印は、戦争ではない。水位を約束するだけだ」


約束。返すな、配れ。余白の文字が、門の敷居で三度目の顔を出す。出す顔を、防衛卿が扉の内側から短く切った。切った声は、娘の旗まで届く。


「本印は今日も出さない。出さないあいだ、測る役は門の外。外套も外。外にあるあいだは、交易の客だ。客を残党確認の延長で止めている。延長が切れる前に、鎖の実物を別紙へ戻せ」


戻せ。父の空白が、三度目の車でもない目を本契約にしない。しない空白の下で、外套の男の笑いが一度だけ薄くなる。薄くなった顔は、机の手としては短い敗北だ。短い敗北を、彼は旗の Sweat に視線を戻して回収しようとする。回収を、リリアは木剣の柄で受けなかった。受けない距離が、剣の届く長さの外にある。


「客は門の外で待て。待つあいだ、水は八樽のまま外だ。外の水を飲むな、とは言わない。言えば倒れる。倒れた責任は旗に戻る。戻る前に、測ったゼロを帳面へ書け。書いたゼロが、本印のない空の証拠になる」


証拠。棚の紙が六枚目を増やす。増やした紙を、ミレイユが医箱の底で写す。写した指に、医の汚れだけがある。汚れが、臨検の外の保管を続ける。


夕、門の外の樽は七になった。


七は四百二十リットル。印のない喉が、目の到着を祝うように減る。減る水を、帳面は正確に追記した。搬入なし。減少一。印なし。円筒は戻らず。鎖は、金具の位置が変わっただけで、まだ外れていない。外れていないことが、外す直前より遅いだけの勝ちだった。


キリカが柱の陰で、測る役の箱を見た。見た箱に、自分の手癖と同じ汚れがある。汚れを、彼女は名にはしなかった。しない声が、トオルの六袋の横で小さく落ちる。


「目は着いた。着いた目は、外す側の前触れだ。前触れのあとで、鎖が実物になる。実物の前に、棚は固定してある。固定してある紙を、改修屑にはできない」


できない。開かない引き出しの外で、物証が増え続けている。増え続けた紙を、誰もまだ魔王とは呼ばない。呼ばない沈黙が、第十七の夕の全文だった。


――第十七話 了――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。