決意と旅立ち
ユエはまだ泣いている。
わたしは本当にどうすればいいのか分からなかった。ユエも赤毛野郎も、二人ともうなだれたまま動こうとしない。
〈ユエ……泣かないで。あんな奴らのために悲しむなんて、価値がないわ。〉わたしはただ、そう言って彼女を慰めることしかできなかった。
「イーちゃん……あたし、すごく後悔してるの。ただお金を稼ぎたかっただけなの。何もできないあたしにとって、これが一番手っ取り早い方法だと思ったの。最初に赤毛さんの誘いを聞いた時は、少し嬉しくさえあったのに、まさかこんなことになるなんて……」
そうだ、自分の命より大切なものなんて他にない。
「死にたくない、怖いよ……あんな怪物みたいな武器、どうやって避ければいいの? あたし、まだ18歳だよ。人生はこれからなのに。恋だってまだしたことないし、やりたいこともたくさんあるのに、ううっ……」
そうだ、わたしにだってやりたいことはたくさんある。残念ながらわたし自身にはもう何もできないけれど、せめて、このか弱き少女を、わたしの宿主となったこの少女を守り抜きたい。
わたしは、絶対にあんたを救ってみせる。
ユエはようやく少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
「少尉、正直に言って、こんなことは俺の本意じゃないんだ……」赤毛野郎はなにか吹っ切れた様子で、口調も態度も、今までの低い姿勢も変わった。多分、これが本当の赤毛だろうな。
「分かっています。このバックパックの中身は、全部あなたが自腹で準備してくれたものですよね? あたしのことをこれほど細かく気にかけてくれるなんて、陰で細心の注意を払って見ていてくれた人でなければ分からないはずです。」
「ああ……俺にできるのはこれくらいだ。こんな任務……死刑囚ならともかく、今さら……何も知らない小さな女の子を断頭台に送り出すような仕事、誰が好き好んでやるかよ! だから、せめて……」
赤毛野郎が最初からユエに対してあんなに謙虚だったのも、わたしと彼女からの爆撃のような質問や要求に根気強く応えていたのも、すべては罪悪感ゆえだったのね。
「分かっています。あなたを責めているわけではありません。悪いのは上の人間で、あなたも強制されているだけなのでしょう? ありがとう、これまで助けてくれて。」
〈ユエ、今からでも遅くないわ。こんな自殺同然の仕事なんて……〉わたしは口を開いて説得を試みた。
その時、不意に一筋の光がユエの目に差し込んだ。それは水平線から半分ほど顔を出した朝日だった。同時に、ユエは何か大きな決心をしたかのように、この上なく毅然とした眼差しで顔を上げ、昇ったばかりの朝日を見つめた。
「ありがとう、イーちゃん。でも、逃げられないことは分かっているの。今逃げ出したとしても、待っているのは軍法会議よ。これからの人生はずっと逃亡生活で、結局は死ぬことになる。」ユエはそう言うと、艦首へ向かって、朝日に向かって歩き出した。そして赤毛野郎に告げた。「始めましょうか。覚悟はできました。」
今になって気づいたが、わたしは彼女を完全に見誤っていた。
先ほどのような明晰かつ正確な推理、そして物事に対する思考力、洞察力、観察力。電子脳であるわたしでさえ気後れするほどだ。あの「おバカな子供」といった雰囲気はいつの間にか消え失せ、まるで別人のようになり、わたしを驚かせた。しかも、それはシステムの能力ではない。システムが強化するのは肉体の強度と反応速度だけで、知能を強化するわけではないのだ。彼女への評価を改めなければならない。これほどの人物が、なぜいつもテストで赤字ばかり取っていたのだろうか? やはり第一印象というのは当てにならないものだ。
赤毛野郎は、我に返ったように一瞬身震いして言った。「準備はできている。こちらへ来てくれ。」
艦首の右側に縄梯子が掛けられており、その下の海面には、先ほど彼が言っていた自動艇が停まっていた。
「ところで、さっき言っていましたよね? イーちゃんの材料にあれ(特定の元素)が含まれているって。つまり、イーちゃんがいれば、いつでも自由に出入りできるということですか?」
「ん? 多分勘違いかもしれないな。チップにあれが含まれているとは言っていないはず。あれが入っているのは、君のバックパックの中だよ。」
まさかバックパックだったなんて!? 確かに赤毛野郎はチップだとは言っていなかった。厳密に言えば、ユエの勘違いというより、わたしの勘違いだった。
「それに、その元素もあくまで媒介に過ぎない。実際に出入りする時は、今この船に積んである装置を起動させる必要があるんだ。原理は俺にも分からないが、共鳴だか共振だかとかいうものらしい……」
なるほど。船にあるあの改造された装置は、そのためだったのか。つまり、一方的な起動だけでは無効で、これでは中に入れたとしても自由に出ることはできない。赤毛野郎が、最後の任務が彼女自身にとって最も重要だと言ったのも頷ける。
「ということは、あたしが隔離空間を解除しなければ、あたしは戻って来られないということですか?」
「ああ……」赤毛野郎はうつむいて答えた。
ふざけるな! 思わず罵声を浴びせたくなる。上の奴らは本当に陰険だ。たとえ中で死ななかったとしても、一生出られないのであれば、奴らの目的は達成されるというわけか。
「いいわ。どうせ入れば死ぬんだし、深く考えても仕方ないわね。」ユエはそう言いながら縄梯子を掴み、ゆっくりと小艇へと降りていった。
〈ユエ、実はね……あの武器、わたしなら回避できるかもしれないわ。〉わたしは切り出した。
「えっ? ええっ?! なんで早く言わないのよ!」
〈だって……あんたがあんなに泣くから、言い出せなかったのよ……〉
それに、正直に言って確信があったわけでもない。
「イーちゃんのいじわる! あたしの涙を返してよ!」
〈さっき言わなかったのには理由があるわ。赤毛野郎の様子からして、彼は恐らくわたしが解決策を持っていることを知らない。でも、上の人間は知っているはず。それがわたしを選んだ理由の一つでもあるでしょう。つまり、上の人間は赤毛野郎に知られたくないのだから、わたしも彼に悟られるわけにはいかなかったの。〉
「……なるほどね。彼に迷惑をかけるわけにはいかないもの。」
そうだ。あいつのことは本当に嫌いだが、最後に見せたあの悲しげな様子を見ると、やはり巻き込むのは忍びない。
〈小艇を出す前に、頭のヘアバンドを外して。〉
「えっ? 何のために? これ、お気に入りなんだけど。」ユエは頭のヘアバンドを掴んで言った。
〈捨てろと言っているわけじゃないわ。ヘアバンドじゃなくても、形を固定できる帯状の物体なら何でもいいの。〉
「ふーん……」
〈外したら、そのヘアバンドをわたしが言う通りの形に結んで。〉
ユエはヘアバンドを外し、わたしが教えた通り、素早く指定の形に結んだ。どうやら彼女が身につけている固定可能な帯状のものは、やはりワイヤー入りのヘアバンドだけだったようだ。
〈ん? あなたのヘアバンド、いつから赤くなったの? 前は白だったわよね?〉
「ああ、バッグの中にたくさん入ってるのよ。服を作る時に出た余り布だって言うから、リボンにしてって頼んだの。色んな色のやつをね。」
あなたが何を考えているのか本当に理解に苦しむけれど……でも、これは役に立ちそうだ。
「でも、これ何? 見たことない形。これって『無限大』の記号でしょ? でも、どうして二重になってるの?」ユエは不思議そうに尋ねた。
〈中に入れば分かるわ。あまり強く握らないでね、形が崩れたら台無しだから。〉わたしは彼女に念を押した。
そしてユエはわたしの指示に従い、小艇を起動させて、ゆっくりと前進し始めた。
「少尉……シォユェさん……」赤毛野郎は艦首に立ち、かつて見たことのないほど真剣な眼差しで、彼女に語りかけた。「君は俺たちの最後の希望だ。もし今回も失敗すれば、新しい方法が見つかるまで、また何十年も無駄にするかもしれない。下手をすれば、台湾というこの小さな島は、世界地図から永遠に消えてしまうだろう。そして、あの中に眠っている全人類にとって有益な知識や技術、そして何より無実の人々も、永遠に失われてしまう。俺たちは君に頼るしかない。幸運を祈る。そして、これは俺個人の願いだ。頼む……無事に帰ってきてくれ。」
小艇の先端がゆっくりと消え始めた。
「あ! 赤毛さん、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」ユエは何かを思い出したように、突然船の上にいる赤毛野郎を振り返った。
「もちろんだ、何だ?」
「教えてくれませんか……あなたの名前を。」
「ああ、俺は……」
刹那、視界のすべてが変貌した。
さっきまで目の前にいた軍艦が、まるで最初から存在しなかったかのように。今、視界に広がるのは、ただ果てしなく続く何もない海だけだった。
「あれ?入っちゃったの? 結局、名前も聞きそびれちゃった……」ユエは未だに軍艦がいたはずの方向、つまり一望無際な海をぼんやりと見つめていた。
待って、今はそんなことを考えている場合じゃないわ!
〈後ろを見てる場合じゃない! 前よ! 前を見なさい、ユエ!〉
「えっ?」ユエが顔を上げた瞬間、遠くで閃光が走ったのが見えた。
〈来るわ!〉
「えっ……?」
一筋の強烈な光線が、常識外れの速度でユエの胸元をめがけて一直線に射出された……。
終わった……。こんなもの、反応できるわけがない……。
キィィィィィン————
ユエの耳元で、耳鳴りのような鋭い高周波の音が響いた。
……えっ? その瞬間、ユエは光線よりもさらに異常な速度で、まるで時が止まったかのように、わずかに体を逸らした……。
[イヴ・システム――反応速度強化補助機能起動。出力10%]
避けた……!?
「な、なんなのよ! 危ないじゃないの!?」ユエはひどく驚き、怒鳴り声を上げた。
なんて無茶苦茶な反応速度……。イヴが起動したの? でも、たとえ補助があったとしても、あんなものを回避できるなんて……。
どうやら研究部門の言っていたことは本当だったようね。回避された光線は、即座にユエのいた方向へ向かって弧を描き、そのまま海へと突き刺さった。追尾性能があるとはいえ、着弾寸前で回避されれば、光線も180度反転することはできないだろう。けれど、まさか命中0.01秒前で避けるなんて……。しかもあんなに集中力を欠いていた状態で? まさか、ただの幸運?
その時、遠くで再び光が瞬いた。第二射が来た! 発射間隔が三秒に満たないなんて、あり得ないわ。本当に複数が同時に存在しているの?
〈まだ来るわ! もう一発よ! 前を見て! ヘアバンドは? ヘアバンドはどこ!?〉 わたしは半ばパニックで叫んだが、もう間に合いそうにない。
キィィィィィン————
「!@$%@%*…!」ユエは言葉にならない悲鳴を上げ、二発目も間一髪のところで、あの不可解な動きで回避した。けれど、今度はその拍子に船の上に座り込んでしまった。
これは運じゃないな!
しかし二発とも胸を狙っている……バックパックを狙っているの? それとも単純に殺しに来ているのかしら。
また来たわ! 発射地点がまた光った。早すぎる! まずいわ、この体勢じゃ三発目は避けられない!
〈このバカ! ヘアバンドよ! そんなに強く握りしめたら変形しちゃうわ! 早くヘアバンドを掲げなさい!〉 わたしはヒステリックに近い声を張り上げた。
来る、来たわ!
「いやぁぁぁぁぁっ!?」ユエは恐怖に叫び、目を強く閉じた。
キィィィィィン————
ユエをなぎ倒さんばかりの衝撃波とともに、超高周波の鋭い音が左側を通り抜けた。
しばらくして、ユエがおずおずと目を開けると、目の前には淡い光の残像があった。その光は彼女の目の前で大きくカーブを描き、そのまま消えていった。
どうやら、わたしの賭けは成功したようね。これで100%確信できたわ。台湾には『氷人』がいる。それもかなりの人数、しかもかなりの上層部が。だとしたら、あの隔離障壁は赤毛野郎が言っていた通り、氷人たちが仕組んだものに違いないわ。
「これ……これって……?」
あの光線は左側へ90度近い急カーブを描いて海に消えた。その湾曲した地点――つまりユエの目の前には、彼女が掲げた手があり、その手にはあのヘアバンドが握られていた。
「これ……どういうことなの?」ユエの声は震え、まだパニックから抜け出せていなかった。
〈確信はなかったけれど、わたしの勝ちのようね。第四射が来ないもの。〉
「賭け!? イ、イーちゃん、あたしの命で賭けをしたっていうの!?」
〈仕方がなかったのよ! 思いつく可能性はこれしかなかったんだから。〉
「はぁ……説明してくれる?」
〈それは後。見て。〉
「あっ……」
わたしたちの目の前に現れたのは、どんな写真や資料よりも美しい、長く伸びる島だった。
雲を突き抜けるほど雄大な高山。あれがきっと玉山ね。さっきの光線の発射地点は、あの見えない山頂にあったはず。
島自体は一見普通のものだけれど、ちょうどこの時間、玉山の背後から朝日が射し込み、まるで後光のように、薄い霧を照らし、山々と島全体の輪郭を囲め、美しく描き出していた。
「これが……台湾。」
そう、わたしたちはついに台湾に到達した。
わたしの目的、ユエの任務、そしてすべての答えがここにある。けれど、この時のわたしたちはまだ知る由もなかった。波乱に満ち、刺激的で、そしてあまりに過酷な未来へと続く冒険が、ここから始まったのだということを。




