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第九話「3Dお披露目記念配信」

 

 

 

 ついに3Dお披露目配信の日がやってきた。

 俺と連動させるトラッキングもモーションキャプチャーも完璧だ。初めてカイトが動いたとき、めちゃくちゃ感動した。

 そして今日は会社内にあるスタジオからの配信になる。


「そろそろ時間だ。準備はいいか?」


 佐久間さんが時計を見ながら聞いてくる。


「はい。今日は目一杯がんばります!」


「そのいきだ。では待機画面スタート」


 配信前に流す待機画面が、スタジオのパソコンの画面に流れる。

 いよいよだ。俺はやれるだけやるんだ!


「よし、マイクをオンに」


 佐久間さんの指示でスタッフがマイクをオンになる。


「やぁ、ふわラボ所属の、黒瀬カイトだよ。今日も来てくれてありがとう。ちょっと肩の力抜いて、一緒に過ごそう。 え? 画面に何も映ってない? ふふ、まだですよみなさん。俺がどこにいるかわかりますか?」


 それまで何も映っていなかった画面に星屑が舞い始める。

 そして──


「じゃーん! どうですかみんな! ちゃんと俺が見えてますか?」


 俺の……黒瀬カイトの3Dが画面に表示される。

 2Dの俺じゃない、立体的な俺が動いている。感動で胸が熱くなる。 

 

「今日はいろんなことしていきたいな、って思ってます。みんなも一緒に楽しんでね!」


 そして俺は黒瀬カイトとして全力でみんなを盛り上げた。トラッキング用のスーツを着てるから凄く暑いけど、そんなの気にならないくらい楽しい。

 同接数もうなぎのぼりだった。

 しかし、楽しいことには終わりがやってくる。


「みんな、今日は3Dの俺を見に来てくれて本当に本当にありがとう! 目一杯楽しんでくれたかな? そろそろお別れの時間が来ちゃった」


 俺はお辞儀をした。


「この姿でチャンネル登録数二百万人突破記念ライブイベントもやるので、よかったら見に来てね! チケットの第一次販売はあとでXにポストするから、是非是非チェックお願いします! みんなと会えるのが本当に楽しみです! それでは、今日も見に来てくれてありがとうございました! ライブイベントで会おうね! では、また!」


 スタッフさんがマイクをミュートにする。そして画面が切り替わる。いつもの終了後に流れる画面に。


 俺は全身の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


「くあ〜! 疲れたー!」


「よく頑張った。はい、水だ」


「ありがとう佐久間さん」


 佐久間さんが褒めてくれるなんて何か起こりそうで怖い、って言ったら怒られた。


「こんなことでへばってたら、ライブイベントなんてできませんよ」


「あー……俺もっと体力つけなきゃだな」


「そのとおりです」


 冷たい水が喉を通る感触が気持ちいい。

 リスナーのみんな楽しんでくれたかな? 楽しんでくれたなら嬉しいな。


「よっしゃ! ライブイベントに向けて頑張るぞー!」


 俺は拳を上げて己を鼓舞した。


 +++


『見てた? カイトの3D記念配信! あのカイトが、3Dになって……ヤバイ泣きそう』


 菜月は存分に楽しんでくれたようだ。良かった。


『良かったな。推しが3Dになれて』


『うん! ライブイベントが楽しみだよ! 何がなんでもチケット手に入れなきゃ!』


『がんばれー』


 菜月もライブイベントに向けて気合いが入ってきてる。カイトとしても彼氏としても、絶対に失敗は許されない。

 俺は初めて感じる心地よいプレッシャーに身を委ねた。


+++


 それからの日々は怒涛の連続だった。

 ライブイベント向けのグッズの前売り販売をすれば、あっという間に売り切れ。俺は菜月がグッズを買えたか心配で翌日大学で探りを入れると、全部のグッズを購入したそうだ。嬉しい気持ちとそこまでお金を使わないでほしい気持ちを久しぶりに感じていた。


 そしてやってきた第一次チケット販売の日。


「準備はいい? 慎吾くん」


「う、うん。失敗しないように頑張る」


「そろそろ時間だね緊張してきた〜」


「俺まで緊張してきた」


 放課後の誰もいなくなった教室で、俺と菜月はスマホを握りしめて真剣な顔で画面を凝視していた。


「そろそろ……そろそろ……きた!」


 チケット販売サイトにアクセスし、ボタンを連打する。チケットの枚数は一人の上限まで。


 画面が切り替わり、無事なんとかチケット購入までたどり着けた。あとはチケットが何枚当選するかだ。


「いけた? 慎吾くん」


「なんとかいけた。菜月は?」


「私もいけた。あとは当選発表まで待つのみだよ」


「この緊張感、たまんないね」


「うん。当選発表日まで私の心臓もつかな」


「当選するって信じるしかないね」


「うん。神棚に今日からカイトのアクスタ飾って毎日お祈りする」


 俺は神様と同列に並ぶカイトのアクスタを想像し、複雑な気持ちになった。


「なんか逆に罰当たりそうなんだけど」


「そんなことないもん! 日本は八百万の神々がいるところだよ? カイトがその中に混じっても問題ないはずだよ!」


「いや、問題が……」


「ない! 大丈夫!」


「ハイ……」


 俺は押し切られて黙るしかなかった。

 さて、当選発表日まで俺達は無事生き残れるのだろうか!?



 

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