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第七話「顔出しはしません」


 


「やぁ、ふわラボ所属の、黒瀬カイトだよ。今日も来てくれてありがとう。ちょっと肩の力抜いて、一緒に過ごそう。今日は雑談しようと思います。あとマシュマロのお焚き上げもしますね」


 こうして始まった雑談配信。

 他愛もないことを話しながら、マシュマロを読み上げてお焚き上げをする。


 コメント欄も荒れることなく平和そのものだった。

 俺は頃合いを見て切り出した。


「今日はみなさんにお知らせがあります」


 コメント欄がざわつき始めた。

 俺は深呼吸してマイクに向かって話しかける。


「いつも応援ありがとう。本当にリスナーのみんなには感謝しかないです。ファンレターもマシュマロも大事に読ませてもらっています。その中でよく言われます。『カイトに会いたい』って」


 そこで俺は言葉を区切る。


「でも俺は絶対に顔出ししません。俺は黒瀬カイトだから、みんなが思い描く黒瀬カイトのままでいたいんです。でも、僕に会う機会はあります!」


 コメント欄が高速で流れていく。


「チャンネル登録数二百万人突破記念ライブイベントを開催します!」


 前々から会社と佐久間さんとで相談していたことだった。こんなにたくさんのファンがいてくれる事への感謝を伝える機会を作ろう、と。

 ならば、盛大にライブイベントを開催してみようということになったのだ。


「みんなに会えるように、俺の3Dお披露目配信が後日あります! 詳しい日程はXでポストするので、みんな是非チェックしてね!」


 もうコメント欄は上へ下への大騒ぎだ。

 俺はまだ3D化していない。佐久間さんは常々カイトの3D化を運営に持ちかけていた。やるなら派手にやるべきだとも言っていた。


「3Dになった俺がどんな風になるのか楽しみに待っててね。俺も楽しみにしてるから。今日も最後までありがとう。チャンネル登録、高評価、Xのフォローなどお願いします。スーパーチャット、チャンネル登録、メンバー登録ありがとう。それでは、また」 

 

 配信を終えて、マイクをミュートにする。そしてアーカイブ化。


「あーついに3D化かー! 楽しみだな……」


 菜月は喜んでくれるだろうか? 歌だけの動画ならいくつもアップされてるけど、全部2Dだ。

 それがライブイベントでは3Dで歌って踊ることになる。

 俺は楽しみにしている気持ちと、うまくいくだろうか、という気持ちが複雑に混ざりあっていた。

 でも後戻りはできない。今の俺は進むだけだ!


 +++


「それでね、顔出しは絶対しませんってカイトが言ったの。少しショックだったけど、カイトらしいなって思った。まっすぐで直球勝負なところとか」


 大学の前庭の芝生に座りながら、菜月が興奮しながら昨日のカイトの配信について熱弁を奮ってる。その横顔はずるいくらい魅力的だ。


「でも、だからこそカイトの声は私にとって特別なんだって改めて認識したの」


 菜月が噛みしめるように軽く唇を噛んでいる。


「そんなカイトがね! なんとなんとー……3D化が決定しましたー!」


 わー、ぱちぱちー! と両手を上げて全身で喜びを表現する菜月。


「3D化するの、ずっと楽しみに待ってたから、本当に嬉しくて嬉しくて……やだ、泣けてきた」


 目元を擦る菜月に苦笑する。


「泣かないでよ菜月。嬉しいことなんでしょ?」


「うん、うん! 三年間のカイトの努力が実るんだよ? 凄いことなんだからね!」


「分かってる。それで、さっき言ってたライブイベントには行くの?」


「当たり前じゃん! だって生カイトが見られるんだよ!? そんな機会めったにないんだから!」


「じゃあ、チケットとかやっぱり争奪戦になるの?」


 菜月の目が鋭くなる。


「なる! 確実に。だから私命をかけてチケットをゲットする!」


「そんな大げさな」


 チケットをプレゼントするのも考えたけど、自分の恋人だけを優先するのはフェアじゃないと思って俺はやめた。ここは菜月が頑張るしかない。


「私、黒瀬カイトのためにチケット争奪戦を勝ち抜くと宣言します!」


「おー頑張れ〜」


「もう! 本当に私真剣なんだからね! 分かってる?」


 菜月が俺の太ももに頭を乗せる。あの、色んな意味で心拍数上がるんで止めてください、いや止めないでください。


「わ、分かってる分かってる。」


 こんな平和な会話をしながら、俺と菜月はじゃれあっていた。


 後にとんでもない試練が待ち構えているなんて、このときの俺は知る由もなかった。


 

 

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