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第三話「俺の声に反応しないでください!」


 

 

 菜月の衝撃のカミングアウトの翌日、俺はキャンパス内を菜月と一緒に歩いてた。

 全てを打ち明けた菜月は鞄に黒瀬カイトの缶バッジやらぬいぐるみやらアクスタやらをとにかくジャラジャラ付けてきた。

 菜月の鞄を見るたびに俺は血の気が引く→胃痛→血の気が引く(以下ループ)を繰り返している。


 なにか、黒瀬カイトに触れない話題をしなければ、なにか……!


「菜月って、その、俺みたいな平凡な男と、何で付き合おうと思ってくれたの?」


 菜月は「んー」と人差し指を唇にあてて考え込んでる、何この子可愛すぎて草。


「慎吾くんなら私の全部を打ち明けても、全部受け入れてくれそうだなって思って」


 そっちかー! そっちに行くかー!

 そりゃあ俺の見た目で惹かれるわけないわなー! 平凡が服着て歩いてるのが俺だしなー!

 だがしかし、全部受け入れてることになってるけど、俺そんなこと言ったかなー?


「あとね、優しそうだな、って思ったし、嘘なんてつかなさそうな誠実っぽい人だなーって思った」


 現在進行形で俺嘘ついてます……! すみません! もう謝りようがないくらいクソデカな嘘ついてます!!


「そ、そうなんだ……なんか照れるな」


「そんなの言われると私まで照れるじゃん! 慎吾くんはどうして私に告白してくれたの」


 そうです。こんなTHE平凡な俺が、キャンパスでも一二を争う美人な菜月に告白したんですよ。無謀にも程があるよな。


「俺、菜月と違って平凡だし取り柄もないけど、美人なのに飾らない菜月に惹かれてさ、この子と付き合えたら毎日楽しそうだな、って思って……失敗してもいいや! って思って玉砕覚悟で告白しました」


 菜月はあはは、と笑う。


「私のこと持ち上げすぎだよー。私なんてカイトの古参ファンのガチ勢のただのオタクだよ?」


 そっちに話題持って行かないで下さいまし!! 俺昨日からずっと胃薬の世話になってるんで!!


「な、何かに熱中できるって素敵な事だと思うよ」


 これは本当にそう思ってる。どんなことでも、ひたむきに打ち込む人はかっこいい。

 ただ菜月の場合は打ち込む対象が問題で……。


「あ、昨日もカイトの配信見たんだ。私ホラゲ苦手だけど、カイトがプレイすると不思議と怖くないんだよね。それに昨日もスパチャ送ってコメント読んでもらえたんだ」


 えぇ、えぇ、知ってます。ツッキーさん派手に赤スパ送ってくれてましたよね。ありがとうね、でも、彼氏としては心配で胃に穴が(以下略)


「そんなにお金使って大丈夫なの?」


 頼むから! もう俺のためにお金使わないでくれ! スパチャじゃなくてもコメント拾いますからぁ!!


「なんていうのかなぁ……私にとってカイトの配信は神殿にお参りに行くような感覚っていうのかな? ここにいさせて貰ってありがとうございます、って神様にお賽銭投げる感覚に似てるかな。お金もバイト代から出してるし大丈夫!」


 俺、ついに神様に昇格する。


 じゃないよ! カイトにそんなにつぎ込まないで! 頑張って働いたバイト代を推しに惜しみなく使うの止めて! 胸が痛すぎる!


 痛む胃の辺りを抑えてると、菜月が「大丈夫? お腹痛いの? 医務室に行く?」と言ってくれた。俺の彼女優しすぎんだろう! 好きだ!


「だ、大丈夫だから!」


 無理に元気を装う。菜月は優しいなぁ……


 そのとき、前から学生の集団がやってきて、すれ違う時に思いっきりぶつかられ、情けなくも俺は尻もちを付いてしまった。


「いって……」


「ちょっと! ぶつかったなら、ちゃんと謝りなさいよ!」


 菜月が俺を庇ってくれる。いや、本当に駄目彼氏でごめん。


「あー? なんなんだよ、いきなり」


「いきなりはそっちでしょ! 人にぶつかっておきながら、知らんぷりするなんて酷い!」


「菜月、俺なら大丈夫だから!」


 集団がケラケラ笑う。


「ぶつかったくらいで倒れるとかひ弱すぎ!」


「マジでダッサ!」


 笑いものになるのは慣れてる。俺は立ち上がった。


「誰がダサいですって!? 慎吾くんはダサくないもん!」


「んだよテメー……」


 集団の中から一人の男子学生が菜月に近づいてくる。


「なにそのダッサイ鞄。オタクってやつ? 顔は可愛いのに残念だねアンタ」


「今なんて言った?」


 菜月の声が低くなる。


「だーかーらー! オタクなんてクソダセーって言ってんの。分かる?」


「カイトくんはダサくないもん! 慎吾くんにも私にも謝って!」


 男子学生が明らかに怒り始めたのが分かった。これは良くない。


「はいはーい! 二人とも喧嘩はやめようねー! ほら、人が集まってきてるし、教授に見つかったらまずいよねー!」


 大声で俺が言うと、男子学生が「ちっ!」と吐き捨てて集団に戻っていく。

 菜月は憤懣やる方ないって顔をしてる。怒った顔も可愛い……。


「大丈夫、菜月?」


 集まってきた人たちに向けて、俺はさらに声を張り上げた。


「はーい! 見世物はこれでお終いですよー! みんな散った散った!」


 その時、菜月がガッと俺の腕を掴んできた。


「な、なに? どうしたの?」


「い、今の声!」


「声? 声がどうしたの?」


 菜月が頬を上気させている。


「カイトの声に似てた!」


 やべぇーーーーーー!!!!


 どどど、どうする俺!? まさかの声バレか!?


 

 

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