表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

第二話「俺の彼女は古参ファン」


 


 明かされた菜月の真実に、俺はなかなか理解が追いつかない。


「あのね、VTuberっていうのはバーチャルYouTuberっていって、二次元のイラストを動かせるソフトを使って動かして、それに声を当ててる人がいてね、それで……」


「す、ストップ! い、いったん落ち着こう、ね!」


 落ち着け俺! 落ち着くんだ!


「その、黒瀬……」


「黒瀬カイトね!」


「うん、黒瀬カイトの大ファンってどういうこと……かな?」


 菜月は頬を赤らめる。ずるいくらい魅力的すぎて、こっちまで頬に熱が集まる。


「私、大学に入りたての頃、ずっとひとりぼっちだったんだ。周りのみんなは仲間を作ってて、気づけば私だけ出遅れちゃって……」


 悲しげに言う菜月に俺の胸が痛む。


「このまま四年間ずっとひとりぼっちのままなのかなって思ってたら、大学に行くのが辛くなって、家でひきこもって動画ばっか見てた。そしたらたまたま流れてきたショート動画に黒瀬カイトってVTuberが出てきたの」


 多分、運営が俺を売るために作ったショート動画だったんだろう。


「すっごいイケメンで、声も良くて、何より一生懸命ゲーム実況してて、私それから黒瀬カイトが気になって追いかけるようになったんだ」


 菜月が大学に入りたての頃ということは、俺が今の会社の面接に受かって売り出してもらえるようになった頃だ。


「カイトは毎日動画配信しててね、色んなゲームの実況してたの。難しいゲームでも無理して難易度上げてプレイして、ゲームオーバーになっても、またプレイし直すの。絶対に諦めないんだカイトは」


 最初の頃は無理してでも難易度上げてプレイして、そのたびに撃沈して、そんな俺でも見てくれてる人がいて、その人たちを楽しませたくて頑張ってた。


「何度失敗しても諦めずに明るく笑い飛ばすカイトに、私はだんだん惹かれていって、勇気を出してコメントをしたんだ。“はじめまして、大学に行くのが憂鬱です。でもカイトの実況は楽しくて好きです”って。そしたらカイトが私のコメントに反応してくれたの」

 

 その時の俺は何を言ったんだ!?


「“辛いときは無理に頑張らなくていいと思う。心が元気になったら大学に行けばいいと思うよ”って。私その言葉に凄く救われて……勇気をだして大学に行くようになったんだ」


 その時の俺ナイスゥ! 変な反応してなくて良かった……。


「それから私、カイトに貰った勇気で、講義で近くの席に座ってる子に話しかけたんだ。そしたらちゃんと答えてくれて、今では親友なの」


「それって真由ちゃんのこと?」


 菜月が笑顔で頷く。


「全部、カイトのおかげなの。それからも私はカイトの配信を欠かさず見るようになって、気づけば沼ってました」


 えへへ、と照れくさそうに笑う菜月に心臓がバクバクいってる。黒瀬カイト、お前よく頑張ったよ! 覚えてないけど、未来の恋人を救ったヒーローだ黒瀬カイト!!

 いや、ちょっと待て。今確か沼ってるって……


 菜月は照れ臭そうに、スマホの画面を操作して、また俺に見せてきた。


「この“ツッキー”って名前が私のアカウント名。赤スパ投げるから、コメント拾って貰えるんだ」


「赤スパ……」


「赤スパチャっていって、高額金のコメントは背景が赤色になるんだ」


 えぇ、えぇ、存じ上げております。それはもう、ガッツリ知ってます。何より毎回配信で赤スパ投げてくれるツッキーさん、大変よく存じ上げておりますよ!


「あ、の……さ? そんなにお金使っても大丈夫なの?」


 もう俺の胃が痛みを訴え始めてる。


「大丈夫! バイト代で赤スパ投げてるから」


 大丈夫じゃありません! どこの馬の骨ともしれない男に(俺なんだが)ポンポン毎回赤スパ投げないで! お金が勿体無い!


「あとね、グッズも全部持ってるんだ〜」


 そう言うと黒瀬カイトのアクスタがカバンの中から出てきた。

 なんだこの羞恥プレイは!


「タオルにTシャツに、キーチャームにアクスタ、ぬいぐるみも持ってるの」


 嬉しそうに言わないでください! 俺の胃に穴が開きそうです!


「そ、そうなんだ。菜月にとっては大切な人? キャラ? なんだね」


「うん! そうなんだ! やっぱり慎吾くんなら理解してくれると思ってた!」


 まさかのカミングアウトを大学のカフェでされるとは思ってませんでした……。


「あ、そろそろ二コマ目だね。それじゃあ、また帰りに連絡してね! 一緒に帰ろ!」


 それだけ言うと、菜月は去っていった。

 残された俺は茫然自失だった。

 チャイムの音に俺は我に返ると、超高速でマネージャーの佐久間さんにメッセージを送った。


『大変です! 俺の彼女が俺の推しで胃に穴が開きそうです! 至急連絡されたし』


 震える手で何とかメッセージを送信する。すると三十秒もかからないうちに返信が来た。


『落ち着くんだ。運営には決して彼女の存在を明かさないように。彼女にも身バレしないように。もしバレたら契約違反で解雇される恐れがある。くれぐれも注意すべし』


 契約違反……解雇……だと?


 この三年間の努力が水の泡となって消える? え、俺消えるの? 黒瀬カイト消えちゃうの!?

 二百万人の登録数は? メンバーシップは? そもそも俺の生活はどうなるんだよ!


『佐久間さん! 俺解雇されるの? 黒瀬カイトも消滅するの? 俺の生活はどうなるの!?』


 すぐにまた返信がきた。


『だから落ち着くんだ。そうならない為に、彼女に身バレしないように細心の注意を払うんだ。わかったね?』


『わかってるけど心が追いつきません』


 スマホを操作する手の震えがさっきから止まらない。この手の震えもどうなるの!?

 佐久間さんから返信がこない。もしや運営に連絡してる……?

 俺……終わった……のか?


 まさか彼女がよりにもよって俺が中の人してるVTuberの古参ファンだなんて、俺どうしたらいいんですかーーー!!

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ