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第十八話「女性VTuberとコラボ配信する俺」


 

 

「コラボですか? 別にいいですけど相手は誰なんですか?」


『雪村セラだ。今運営が売り出そうとしている新人だ』


「そうなんですか。で、何の配信すればいいですか?」


『アーク社から新作ゲームのプレイの依頼が来てる。そのゲームをプレイしてくれ』


「わかりました」


『詳しい事はまた後で連絡する』


 それだけ言うと、佐久間さんは電話を切った。


 コラボ配信か。久しぶりだな。新人さんだから、俺がしっかりフォローして盛り上げないと。

 そんなことを考えてると、佐久間さんからメッセージが来て、詳しい日程やゲームの内容、それと雪村セラの画像が送られてきた。


 +++


 数日後、俺と雪村セラのXでコラボ配信予告のポストをした。またたく間にリポストといいねがつく。雪村セラのポストの方を見ると、あまりリポストが伸びていない。

 俺は新人だった頃を思い出す。あの頃はツイートしてもほとんどリツイートもいいねもしてもらえなかったな。でも、いつかはもっとリスナーが増えると信じてやってきた。雪村さんも頑張ってほしい。

 そんなことを考えながら、俺は大学に行く支度を始め、マンションを出た。


+++


 大学につくといつもの場所に菜月がいなかったから、カフェかと思って足を向ける。

 予想通りカフェに菜月はいた、

 何やら真剣にスマホを凝視している。

 菜月の前の席に座って挨拶するが返事が帰ってこない。


「菜月ー、おはよ!」


 俺が菜月の顔の前で手を振ると、菜月がようやく俺に気づいて、スマホから俺に視線を合わせてくれた。


「おはよう慎吾くん」


 笑顔で挨拶する菜月だが、目が笑ってない。俺、菜月を怒らせるようなことしたっけ……不安が募る。


「菜月なにかあった?」


「ん? なんで?」


「いや、怒ってるように見えたから……」


 そこで菜月の動きが停止する。


「そっか、そう見えちゃったか。あのさ、これ見て」


 菜月がスマホの画面を俺に向ける。そこには黒瀬カイトのアカウントで、雪村セラとのコラボ配信の予告が載っていた。俺がここに来る前にポストしたやつだ。


「黒瀬カイトのポストがどうしたの?」


「……どうした、ですって?」


 菜月の頬がピクリと痙攣する。

 なんだ! 俺またなにかミスってしまったのか!?


「今度ね、カイトがこの(・・)VTuberとコラボ配信するんだよね」


 はい。承知しております。


「この雪村セラってカイトと同じ事務所の子なんだよね」


 はい。そうです。


「でも見て、この子の衣装。めちゃくちゃ胸元開いてるよね。おまけにありえないくらい胸大きいし」


 それは運営の意向と、雪村セラを生み出したママの趣向かと思います。はい。


 菜月がバンッとテーブルを叩く。俺はビクッとした。


「顔だってめちゃくちゃ可愛くない? 顔良しスタイルよしな女の子がさ、私のカイトとコラボするんだよ信じられる!?」


 いつ“菜月の”カイトになったんだ、なんて言おう日には、ビンタしそうな勢いの菜月。


「声だって事務所のサンプルボイスを聞いたんだけだ、私じゃ到底出せない可愛らしいアニメ声だったの」


「ふ、ふーん……それで菜月は何が気になってるの?」


 ジロリと睨まれる。止めて! 美人が睨むと本当に怖いから!


「気になる? そんなレベルじゃないもん! 今までカイト色んな人とコラボしてきたけど、こんな露骨に媚びまくってる女の子とのコラボなんて一回もしたことないんだよ!?」


「へぇ~……そうなんだ〜」


「そうなの! カイトがこの女に何されるか想像しただけで頭の血管切れそう」


 いやいやいや、そこまで考えなくても普通にゲームするだけだから──なんて言いたくても言えない。


「この子、絶対にカイトを狙ってる!」


「いや〜、それは考えすぎじゃないかな……」


「絶対にそうだもん! カイトと同じ事務所ってだけで羨ましいのに、コラボ配信だよ!? 特別待遇じゃない!」


 バンバン机を叩くのは止めて菜月! 周りの視線が痛いから!


「その子活動長い子なの?」


「デビューしたて」


「なら事務所がその子を売り出すためにカイトとコラボ配信させようとしてるんじゃないかな?」


「だったらカイトじゃなくてもいいじゃん! カイト以外にも男性VTuberなんて山ほどいるのに!」


 いや、さすがに山ほどはいませんです。


「なんで! カイトなの!? 信じられない許されない!」


 そこは許して上げてほしい菜月様。


 菜月は立ち上がると低い声で宣言する。


「私、絶対にこんな女認めないから」


 その言葉を残して菜月は去っていった。やだなにこれ怖い。


+++


 翌日、菜月は決意を秘めた顔つきで大学にやってきた。

 鞄を見ると、昨日まで取り外されてたカイトの缶バッジやらぬいぐるみやらアクスタやらがジャラジャラ付いている。

 俺はとりあえず菜月に挨拶する。


「お、おはよう菜月」


「おはよう」


 声がめちゃくちゃ低い! ガチで怒ってるじゃん!


 一コマ目の教室に向かうと、菜月は久しぶりにカイトのアクスタとチェキを取り出した。


「カイトへの愛なら私のほうが上だもん!」


 菜月はアクスタに向かって手を合わせてなにかブツブツ言ってるし! 本当に怖いから止めて!


「あー菜月さん、何をしてるんですか?」


「祈ってるの。私のほうがカイトへの愛が上です。どうか悪い女にカイトが取られませんようにって」


 愛が重い! あと俺、雪村セラさんの中の人知らないから、取るとかありえないし! 俺は菜月一筋だから祈るのやめて!


 菜月は講義の間、暇を見つけてはひたすら祈り続けてた。怖い……。




 黒瀬カイトと雪村セラのコラボ配信の日。

 待機所にはいつも以上にリスナーでひしめき合っていた。雪村セラさんの方からも配信するけど、あっちはどうなってるんだろうか。

 ディスコードを使って打ち合わせを終えると、ついに配信が始まった。


「やぁ、ふわラボ所属の、黒瀬カイトだよ。今日も来てくれてありがとう。ちょっと肩の力抜いて、一緒に過ごそう。今日は雪村セラさんとのコラボ配信です! 雪村さん、どうですか?」


「……」


 あれ、反応がない。


「雪村さーん! あ、もしかしてマイクミュートしちゃってる?」


「……っ、あっ、あのすみません! ミュートになってました! 本当にすみません!」


「謝んなくても大丈夫だよ。あとめっちゃ緊張してる?」


「は、はい!」


「緊張もしなくていいからね。ゲーム楽しもうね!」


「はい!」


 アバターの見かけと違って、真面目そうな子だな。

 そんなことを思いつつ、ゲームを開始した。今日のゲームは協力プレイだから、タイミングを合わせるのが重要。


「あ~! 雪村さん落ちる落ちる! あ、落ちた」


「すみません!!足引っ張っちゃって!」


「だから謝んなくてもいいって! もっかいプレイしよう!」


「が、がんばります」


 コメント欄を見ると菜月はいない。今日は見てるだけかな? 最近ずっと見てるだけだしな。


「よーし、そのまま雪村さん先にジャンプして。そうそう! 上手いじゃん。俺も今登るから……あー! なんだよこの棒! 俺が登るのめっちゃ邪魔してくる。タイミング見ながら……ってあー! 落ちたー! ごめんね雪村さん」


「私なら大丈夫です!」


 その時コメント欄を見ると赤スパが投げられてた。コメントを見るとツッキーさんだった。


「スパチャありがとう! えーっと、お久しぶりです! 私ならもっと上手にカイトとプレイできます! ……あはは、ありがとう」


 コメント欄に『リアコktkr』『ガチ恋勢怖すぎ草』『いい加減にしたらー?』


 ヤバイ、荒れ始めてる。


「じゃあ、もう一回やり直しね! 雪村さんいける?」


「はい! い、いけます!」


「OK! じゃあ飛行機のところからやり直しね」


 コメント欄に赤スパがまた投げられる。ツッキーさんじゃない。また別の赤スパが投げられた。


「ちょっとみんなー、お金は大事にしてね! おっと、危ない!」


 ツッキーさんに触発されたのか、次々と赤スパが投げつけられてくる、ヤバイ、早くゲームクリアしないとみんなのお金がヤバイ!


 そして混沌とした空気の中、なんとかクリアして、俺と雪村さんのコラボ配信は終わった。


「今日も最後までありがとう。チャンネル登録、高評価、Xのフォローなどお願いします。スーパーチャット、チャンネル登録、メンバー登録ありがとう。それでは、また」


 終了画面に切り替え、オレはホッと息をつく。なんとか早めにクリアできて良かった……。あのままだと赤スパ乱舞のコメント欄が、荒れまくりになるところだった。ツッキーさんこと菜月さん、頼むからカイトに入れ込みすぎるのはやめてください……。


 

 

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