第十四話「情緒不安定な俺の彼女」
案の定というか、ツッキーさんのコメントが切り抜きされて、拡散されまくってた。
酷いコメントも多く、多くは便乗コメントばかりだった。
これにはさすがに運営の目に留まり、佐久間さんと隠していた事実──菜月と恋人同士ということだけは秘密を守り通すという意見で合致した。
一方、菜月は最近元気がない。期末試験も終わり皆が開放感で浮かれている中、彼女だけは暗い顔をしていた。
俺は例の赤スパのせいだと分かっていたけど、こちらから切り出すことはできなかった。菜月から打ち明けてくれるのを待つしかない。
俺は菜月の明るい顔が見たくて、久しぶりにデートに誘った。
待ち合わせの時間より早めに到着して待っていると、菜月がいつもよりおしゃれをして来てくれた。改めて俺の彼女可愛すぎるだろ……!
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん、俺も来たばっかだよ」
「そっか。じゃあどこに行く?」
「今日は菜月が行きたい所に行こうよ。そんで目一杯楽しむ!」
「なにそれ! デートプラン練ってきてくれなかったの?」
頬を膨らませて怒ってる。怒っているはずなのに、その頬を膨らませる仕草すら愛おしい
「たまには行き当たりばったりも良くない?」
「んー、それも楽しいかも」
「よし! それじゃあ行こう!」
菜月の手を俺は握った。思い出せば、付き合いはじめの頃なんて、手を握ることすらできなかったよな。凄い進歩だ。
菜月の行きたい所に行って、俺たちは楽しんだ。他愛もない話をして、ベタにクレープを食べたり、ゲーセンでカイトのフィギュアを取ろうとしたり、存分に遊んだ。
あの暗かった菜月の顔は笑顔になっていて、俺は内心ホッとする。
「今日は楽しかった。ありがとうね、慎吾くん」
菜月が柔らかく微笑む。
「俺の方こそ楽しかったよ。最近、菜月なにかに悩んでたから、心配してたんだ」
「やっぱりバレてたか……」
「思い切りバレてました」
互いの顔を見合わせて、どちらともなく笑い出す。
「やっぱり慎吾くんは優しいね。私が辛いとき、いつも寄り添ってくれる」
「菜月だって同じだよ。俺の心配よくしてくれるじゃん」
その時、菜月の手が俺の頬に触れる。
「慎吾くんはここにいるよね」
「俺ならいつでも菜月の側にいるよ」
菜月が包み込むような笑顔を見せてくれた。
「今日はありがとう、慎吾くん」
「楽しんでくれた?」
「うん! 目一杯楽しんだよ!」
「そりゃ良かった」
そして俺は菜月を家まで送り届けた。
+++
夜中に突然スマホの電話が鳴り、俺は何だと思ってスマホの画面を見ると夜中の三時で、菜月からだった。
何かあったのかと、急いで電話に出る。
「菜月? どうした?」
電話の向こうで鼻をすする音が聞こえた。
「もしかして泣いてるのか菜月」
「うぅ……ごめんなさい。私、もう嘘はつけない」
泣きながら菜月が言う。
「嘘? なんのこと?」
「ごめんなさい……言えない」
泣きじゃくる菜月に俺はどうしたらいいのか分からなくなる。何が菜月を苦しめてるのかが全く分からないから手が打てない。
「こ、こんな時間にごめんね慎吾くん。も、う……大丈夫だから」
「大丈夫なわけないだろ! そんなに泣いてるのに! 俺じゃあ頼りにならないのか?」
「違うの……全部私のせいなの」
埒が明かない。
「今からそっちに行く」
「来ないで! ……本当に大丈夫だから……!」
菜月は泣きながら俺を止める。菜月はご両親と暮らしている。
確かにこんな時間に駆けつけても、ご両親の不興を買うだけかもしれない。
「なぁ、本当に大丈夫なのか? なんなら眠るまでずっと電話しててもいいんだよ?」
菜月は鼻をすすりながら言った。
「もう……大丈夫。慎吾くんの声を聞いたら……安心したから」
「菜月……」
結局、菜月は俺にはそれ以上のことは言わずに、謝りながら電話を切った。
今日のデートではあんなに楽しそうにしてたのに、菜月に何があったんだ……。
+++
悶々としていると、いつの間にか朝になっていた。結局あの後は菜月が気になって一睡もできなかった。
俺は彼氏失格かもしれない。
ぼうっとする頭で大学に行くと、菜月がいつもの場所で待っていた。
「菜月! 心配したんだよ? 何があったのか教えてくれよ」
泣き腫らしたあとの目元が痛々しい。
菜月は明るく振る舞った。
「ううん、もう大丈夫だから。本当に。だから心配しないで慎吾くん」
「そんなので納得できないよ! 俺ってそんなに頼りにならない?」
「そうじゃないの。問題は全部私のせいだから。ね?」
菜月が俺と彼女の間に壁を作っている。
頑なな菜月に俺は何ができると言うんだろう。
「あのさ慎吾くん……」
「なに!?」
俺は真剣に菜月の言葉を待つ。
菜月は俺の目を見据えて、何かを決意したかのように口を開いた。
「慎吾くん、カイトじゃないよね……?」




