表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

第十三話「俺の彼女がガチ恋勢だった」


 

 

 ライブイベントも無事終わり、俺の日常が戻ってきた。


 菜月は相変わらずカイト一筋で、カイトへ投げるスパチャやグッズを買うためにバイトに勤しんでいる。

 俺はいつも通り大学生としての生活と黒瀬カイトとしてライブ配信を頑張っている。


「試験って試練だよなぁ」


「なにそれ?」


 俺と菜月は期末試験に向けて図書館で一緒に勉強している。


「留年しないラインを狙わないといけないだろ? あとは単位もだけど」


「あぁ、そういう意味か。確かに大変だけど、慎吾くんヤバイの?」


「ヤバイかもしれないラインを彷徨ってる……かな?」


「じゃあ勉強頑張らなくちゃね」


「だよなー。みんなが思い浮かべる楽しいキャンパスライフなんて幻想だよなぁ」


「真面目に頑張ってる学生は理想のキャンパスライフ送ってるよ」


「厳しい現実をありがとう菜月」


 俺はノートに書き込みながら、憂鬱な気分だった。試験勉強するとなると配信時間が圧迫される。かと言って配信時間をいつも通りにすると、今度は試験勉強の時間が圧迫される。なんという板挟みなんだ。


 こうなれば睡眠時間を削るしかないか。

 なんて思っていた俺は甘かった。

 実際はこんな時期に案件がきて、俺はその打ち合わせに会社と自宅の往復。

 案件が終わると、今度はゲーム会社からプレイしてほしい新作ゲームのオファーがくる。

 睡眠時間を削って試験と配信を頑張るが、ライブの時とは違う意味で追い詰められてた。


「慎吾くん顔色悪いよ? 大丈夫?」


「大丈夫……と言いたいところだけど、正直限界かも」


「私の知り合いの先輩が去年の試験に出てきた問題集貸してくれるから、それ慎吾くんにも貸したげる」


「あぁ、俺の彼女が女神に見える」


 菜月に手を合わせると彼女は苦笑する。

 菜月も試験勉強とバイトに追われてるせいか、カイトの話題が最近減ってる。

 ちょっぴり寂しいのは内緒だ。

 学内もピリピリした空気が漂ってる。みんなも苦労してんだな。頑張ろうぜ。


+++


「“大学の試験が近いので元気をください”か。よし! 試験頑張ろう! 俺も応援してるからね!」


 配信でもちらほら試験の話題がコメント欄に登る。

 学生諸君よ、俺たちは仲間だ! 頑張ろうぜ!

 心の中で勝手に共感する。


 そんなことを思いつつ、配信を終えると、今度は試験勉強の時間だ。この前菜月が貸してくれた問題集をひたすら解いていく。これが外れだったら俺は泣く。

 気づけば夜中の四時。夜中というより朝だ。

 体の凝りをほぐしつつ、俺はそのまま寝入ってしまった。

 アラームの音で目が覚めると、講義の時間が迫っていた。ヤバイ、浦田教授の講義は遅れられない!

 急いで朝シャンして着替えてマンションを出る。

 ランニングで鍛えられた両脚が猛スピードで大学に向かって走る。

 そして大学に着くと急いで教室に向かう。

 扉を開けると同時にチャイムが鳴った。セーフ!

 息を切らしながら席につき、講義に集中する。


 俺がなんでここまで頑張るのか?

 理由は簡単だ。VTuberになるときの条件が、両親から「単位を落とさず卒業すること」と言われたからだ。

 だから俺は必死になっているのである。


+++


 そんな日々を続けていると、ある日の配信で、ツッキーさんこと菜月が、とんでもない爆弾を投下してきた。


 その日はFPSのゲームをプレイしてた。

 チーム戦だから負けるわけにはいかない。

 程よい緊張感の中、俺は敵の拠点を奪い自陣にすることに成功する。

 そして、また別の拠点を狙いに行く。

 コメント欄のコメントをたまに広いながらプレイしてると、赤スパが投げられた。ツッキーさんだ、と思いながら文面を読んでいくと俺は青褪めた。


『カイトさん、あなたに恋してもいいですか?』


 コメントに集中しすぎたせいで、ヘッドショットを食らう。

 俺は動揺しながら、片手でスマホから佐久間さんにメッセージを送ろうとしたとき、佐久間さんの方からメッセージが届いた。


『彼女をブロックして無視しろ』


 今まで何とかツッキーさんの危ういコメントは許されていたけど、今回は佐久間さんの琴線に触れたらしい。


 俺は片手で高速でメッセージを打った。


『できません! そんなことしたら菜月が悲しみます! 何とかこのままやってみます』


 そして俺はツッキーさんのコメントで荒れまくるコメント欄を沈めるために、みんなに話しかける。もちろん、その間もゲームをする手は止めない。


「スパチャありがとう! 俺を好きになってくれてありがとう。 これからも配信見てくれると嬉しいです。みんなもちょっと落ち着いて! 俺は楽しく配信するのがモットーだから、そんなにみんながカリカリしてたら悲しいなぁ。だからいつものみんなに戻って欲しいです!」


 いけるか、いけないか?

 ゲーム画面とコメント欄を交互に見ながら反応を見る。ツッキーさんはもうコメントしていない。他のリスナーも少しずつ落ち着いてきている。このまま鎮まってくれ!


 俺の願いが届いたのか、コメント欄がようやくいつもの落ち着きを取り戻す。

 良かった……ツッキーさんをブロックしなくてもいけそうだ。

 ついでに、ゲームの中でも、また新しい拠点をゲットした。

 そして波乱の配信はなんとか無事に終わりを迎えることとなった。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ