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第十二話「黒瀬カイトのライブイベント」


 

 

 ついにライブイベントの当日。

 俺は緊張しっぱなしだった。

 黒瀬カイトのために社員さんが総出で頑張ってくれてる。

 大きなホール会場にスクリーンが設置される。ARも使用して、よりカイトが立体的に見えるようにしてくれるらしい。

 俺はトラッキング用のスーツを着ながらモーションキャプチャーで動きの最終チェックをしていた。

 そこへ佐久間さんが俺に話しかけてきた。


「この日を私はずっと待っていた。君はよく頑張ってきた。その結果を今日のライブにぶつけるんだ。そして進化する黒瀬カイトをリスナーに見せつけてやれ」


 佐久間さんの言葉に俺は頷き返した。


「全力でがんばります! リスナーのみんなが目一杯楽しんでもらえるライブにします!」


 佐久間さんは無言で頷いた。


 舞台裏のモニターから会場の様子を見ていると、次々とお客さんが入ってきてる。


「凄いですよ! グッズが次々と完売してます!」


 スタッフが興奮しながらやってきた。

 菜月はちゃんとグッズ買えたかな?

 いやいや、今の俺は応援してくれてる、たくさんのリスナーを気にしなきゃいけない。一人のリスナーだけに思いを馳せてはいけない。


 刻一刻と迫る開演時間。

 今の俺は黒瀬カイト。今日はみんなを盛り上げて最高に楽しませるのが役目。

 リスナーみんなの記憶に残るライブにするんだ!


 スタッフと円陣を組むと、俺は叫んだ。


「今日のためにみんな頑張ってきた! だからみんなでこのライブを成功させよう! 行くぞー!」


 おー! とみんなで気合を入れる。

 別のスタッフが話しかけてきた。


「カイトさん! そろそろ時間です!」


「はい!」


 モーションキャプチャー用のブースに入り、俺は屈伸をした。もう後戻りはできない。前に進むだけだ。


「開演時間まで、あと一分!」


 三年間の努力の積み重ねが今の俺だ。

 会場に来てくれてるみんなのお陰でここにいる。


「開演三十秒前!」


 会場からカウントダウンが聞こえる。


「開演十秒前!」


 さぁ、始めようじゃないか!


 ドンッと大きな音とともにテープが客席に舞った。


「みんなー! 盛り上がってるかー!」


 怒号のような歓声がここまで響いてくる。


「今日はチャンネル登録数二百万人突破記念ライブイベントに来てくれて、本当にありがとう!」


 俺はステージの端から端まで走り抜ける。ペンライトが会場で乱舞している。


「ここまで来れたのは、みんなのお陰です! では、一曲目はこの曲から始めたいと思います!」

 

「BRAVE NEW DIVE!」


 歌い始めると、スクリーンに二百万人突破と表示され、ロックチューンに合わせて青と銀色のフラッシュが瞬き、ステージの端から火柱が上がる。


 サビの部分ではリスナーのみんなが一緒に歌ってくれる。


 曲が終わり、次の曲へ。カバー曲で燃える炎のように熱い曲。会場のライトが炎のように燃える演出をする。


 そうして俺は次々と歌って踊った。

 気づけばもう、ラスト曲まで来てしまっていた。


「ラストはこの曲で終わりたいと思います! みんなも一緒に歌ってね!」


「……限界を越えて」


 ステージを駆け抜ける俺の周りに白い光の帯がついてくる。スクリーンには「NEXT300万」の文字。

 俺が頑張れば、黒瀬カイトはなんだってできる、そんな気持ちになれる歌。

 歌い終わると、会場が暗くなり、黒瀬カイトにスポットライトが当たる。

 

「今日、足を運んでくれたみんな、本当にありがとう! この場所に来れなくて配信で見てくれてるみんなもありがとう! 俺はみんながいるから三年間、頑張ってこられました。これからもたくさんみんなを楽しませたいと思ってます! 今日は本当に本当に……ありがとー!」


 スポットライトが消え、カイトの姿も消える。だけど会場ではアンコールが叫ばれてる。


 佐久間さんが近寄ってきて、俺に聞く。


「いけるな?」


「もちろん!」


 爆音と真っ赤なライト共にステージの中央に黒瀬カイトが現れる。観客席から歓声が上がる。


 アンコール用の曲が流れ始める。俺のオリジナルアンセム。


 ステージを自由に走って踊りながら歌う。

 観客席から一緒に歌ってくれるのが聞こえる。


 そしてラストは「いつも、君と」

 しっとりしたバラードに、観客席のみんなのペンライトもゆっくりと揺れている。

 今までの思い出が沢山詰まった曲。

 金と白のライトが客席を照らし、ゆっくりと消えていく。俺は精一杯、叫ぶ。


「ありがとう!」


 やまない拍手に包まれながら、俺のライブイベントは終わった。


 +++


「お疲れ様でしたー!」


 俺やスタッフのみんなが円陣を組んで両手を上げて拍手する。

 心地よい疲労感が俺の全身を包んでいる。

 近づいてきた佐久間さんが、「よく頑張ったな」と褒めてくれた。


「俺が曲頑張れたのは、皆さんのお陰です! 本当にありがとうございました!」


 スタッフから拍手が送られる。ずっと我慢してた涙が溢れそうになり、俺は上を向いて我慢する。


 こうして俺のチャンネル登録数二百万人突破ライブイベントは、大盛況のうちに終わった。


 +++


『カイトがね、凄く間近で見れたの! 手も振ってくれたんだよ! 本当に最高のライブだったんだ!』


 打ち上げの参加を断り、俺は帰宅して菜月に電話をかけていた。


『カイトが凄く立体的に見えて、細かい表情まで見えたの。あぁ、カイトも今この瞬間を目一杯楽しんでるんだな、って思えたんだ』


「そうか。良かったね。“生身”のカイトに会えて」


『うん! 歌も最高だった! あんなにステージを掛け巡って激しいダンスをしても、カイトは息一つ切らさなかったんだよ? 本当に凄かった!』


 電話越しでも菜月の興奮が伝わってくる。


『これからも私たくさんカイトを応援するって決めたんだ。それに今まで以上に、カイトのことが好きになった』


 彼氏としては複雑な気持ちだけど、今は感謝の気持ちが強い。


『私、カイトに出会えて、本当に良かった!』


 

 

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