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第4章:天空へ、願いを乗せて


コンテスト当日。打ち上げ場には、全国から集まった学生ロケットチームの熱気と緊張感が渦巻いていた。色とりどりの機体が並び、それぞれがこれまでの努力の結晶を誇示しているかのようだった。フリーフライトのロケット「スカイハイ・ドリーム」は、彼らの数々の苦難と知恵、そして何よりも情熱を象徴するかのように、美しく、そして力強くそびえ立っていた。

最後の気象チェック。風速は許容範囲内だが、上空には予測できない気流があるかもしれないという報告が入った。打ち上げ責任者からの最終的なゴーサインを待つ間、拓海たちは固唾をのんで空を見上げた。条件はギリギリだったが、打ち上げ可能と判断される。

「よし、最終点検、始めよう!」拓海の合図で、メンバーはそれぞれの持ち場へと散った。

健太は、機体構造のネジ一本一本を、まるで自分の命を預けるかのように慎重に確認していった。彼の指が触れるカーボンファイバーの表面は、夜通しの作業と、五十嵐教授からの助言が詰まった、まさに努力の結晶だった。

「構造、異常なし!」

沙織は、モーターが完璧に装着されているかを最終確認した。彼女が開発した推進剤は、幾度もの失敗と改良の末に、ようやく安定した燃焼を約束するようになった。彼女の指先が触れるモーターケースは、あの不安定な燃焼試験を乗り越えた証だった。

「モーター、セット完了!」

美咲は、管制室でフライトコンピュータの最終チェックを行っていた。モニターに表示される無数のデータポイントを瞬時にスキャンし、わずかな異常も見逃さない。彼女が組み込んだフェイルセーフ機構が、何があってもロケットを守るはずだ。過去の苦い経験が、彼女を完璧主義に駆り立てていたが、今は「信頼性」こそが最優先だった。

「アビオニクス、オールグリーン!」

拓海は、彼らの顔を一人ずつ見つめた。健太の疲労の滲む目、沙織の達成感に満ちた笑み、そして美咲の鋭い集中。誰もが、これまでの道のりを思い返し、そして、この瞬間に全てを懸けていることを知っていた。彼は静かに頷き合い、無線を握りしめた。

「全システム、準備完了。カウントダウンを開始します」

会場に、管制官の凛とした声が響き渡る。観客席からは、ざわめきが起こり、期待と興奮が最高潮に達する。五十嵐教授も、静かに彼らのロケットを見上げていた。彼の目には、若き日の自分たちの夢が重なっていた。

「Tマイナス 10、9、8…」

拓海は、大きく深呼吸をした。隣に立つ美咲の表情は、いつも以上に引き締まっている。健太は腕組みをしてロケットを見上げ、沙織は目を閉じ、何かを祈るように両手を合わせていた。

「…3、2、1、点火!」

轟音と共に、自作モーターから噴き出す白煙と炎。大地が震え、全身に振動が伝わってくる。スカイハイ・ドリームは、まるで吸い込まれるように真っ直ぐに青空へと舞い上がった。その上昇は、彼らが乗り越えてきた数々の困難を象徴するかのようだった。

地上の管制室では、美咲が開発したテレメトリーシステムが、高度、速度、加速度、GPS位置などのデータをリアルタイムで送信してくる。

「高度、1km突破! 順調です!」

美咲の声が、興奮でわずかに震えている。データは全て順調。ロケットはぐんぐん高度を上げ、目指す10kmの目標に迫っていく。観客席からも歓声が上がる。五十嵐教授の目尻にも、わずかな笑みが浮かんだ。

しかし、その時だった。

突如として、モニターのデータ表示が途絶えた。美咲が打ち込むキーボードの音が慌ただしくなるが、スクリーンは真っ暗なまま。

「美咲! どうした!?」拓海の焦った声が響く。

「データが…途絶しました! GPSも、高度も、全て!」美咲の声に、絶望の色が混じる。

管制室に、重い静寂が訪れる。一瞬にして、歓喜のムードは凍りつき、深い不安が支配した。故障か? 飛行中の分解か? 何が起こったのか、誰も理解できなかった。

「拓海…まさか…」沙織が震える声で呟いた。健太も、固く拳を握りしめている。

拓海は、一瞬の絶望に襲われた。ここまで来たのに。だが、彼はすぐに頭を切り替えた。

「まだだ! まだ終わってない!」

彼は、送られてきた最後のGPSデータを瞬時に確認し、叫んだ。

「美咲! 最後のGPSデータはどこだ!?」

「ええと…これよ! 予測地点は…!」

拓海は無線を握りしめ、管制官に告げた。

「回収班、出動! 最終データから予測される着地地点へ急行します!」

彼らは、送られてきた最後のGPSデータを頼りに、ロケットの着地予測地点へと、全力で向かった。凍りつくような不安を抱えながらも、彼らの心には、まだ消えぬ希望の火が燃えていた。


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