ライオネット蛮編第3章 : 蛮、聖域の最奥へ
モロクを退けた後も、蛮は歩みを止めなかった。 獅子宮を越え、廃墟と化した聖域の石段を、一歩ずつ踏みしめていく。 「……ひでぇな」 かつて、仲間たちと幾度も越えた十二宮は、今や面影もない。 戦火に焼かれ、崩れ、天を仰いだまま沈黙する聖戦の傷跡。 処女宮、魔羯宮、双魚宮――かつて聖闘士たちが命を燃やした場所。 そのすべてが今、まるで“神の不在”を嘆くように静まり返っていた。 (こんなになるまで……俺たち、何を守ってきたんだ)
蛮は足を止めた。 思えば、仲間の中でも自分はずっと“追いかける側”だった。 星矢、紫龍、瞬、氷河、そして一輝―― 何度拳を振るっても、彼らの背中は遠かった。 (けど、今なら少しは……) ふと、夜空を見上げる。 十二宮を見下ろすかのように、満天の星々が瞬いていた。
そして、蛮は最後の石段を登る。 ――そこにあるのは、アテナ神殿。 かつて、聖域の最奥で女神アテナが祈りを捧げていた神殿。 今は誰もいない、風の音だけが響く場所だった。 瓦礫と化した階段を越え、蛮は神殿の奥へと歩み寄る。 そして、その中心。 アテナ像の足元に、それはあった。 「これは……」 それは、朽ちた聖布だった。 だがただの聖布ではない。 神殿に残された聖なる布は、かつてアテナに仕えた戦士―― すなわちアテナの側近たちのクロスの一部。 (女神の……近くにいた奴らの……)
その布には、微かにだが、小宇宙が残っていた。 そしてその瞬間―― 蛮の胸の奥が、じん、と熱くなる。 (まだ……終わってねぇ。この場所も、聖闘士も) 風が吹いた。 その風は、まるで「歩みを止めるな」と言っているようだった。 蛮は立ち上がる。 拳を握りしめ、再び振り返る。 (俺は……守る。ここを、仲間を――) その背には、遥か彼方に連なる星々。 かつて青銅最弱と呼ばれた少年の瞳には、今確かに“黄金の誇り”が宿っていた。 そして、彼の歩みは新たな戦いへと続いていく――。