最も神に近い男
獅子座の蛮が技を繰り出す。
「ライオネット・ハイパーボルトォォッッッ‼‼」
さらに、牡牛座の檄も続く。
「タイタンズ・ブレイクッッッ‼‼」
だが、“空無”は全く動じない。
「ならば、アタシがいくザンス‼」「俺もいくぞ、空無ッ‼」
蟹座の市と山羊座の那智が同時に技を繰り出した。
「トキシック・ポイズン・ミラージュ‼」
「トルネード・ファング・ブラスター‼」
同時に放たれた技が、空無に襲い掛かる。
だがーー。
それをもってしても、空無は掠り傷程度だった。
「ほう、この私に掠り傷をつけるとはな。」
4人の黄金聖闘士――獅子座の蛮、牡牛座の檄、蟹座の市、山羊座の那智――を前にしても、シャカ……否、今や十二魔神将《空無》として生まれ変わった男は、なおも圧倒的な力を見せつける。
「かつて“最も神に近い男”と称された理由、思い出させてやろう」
冥界の深層からあふれ出すように、四人をそれぞれ異なる“地獄”が包み込む。 那智は、己の過去と対峙する試練の幻に。 市は、無数の亡霊に取り囲まれる恐怖の幻に。 檄は、力を持ちながらも守れなかった記憶の重みに。 蛮は、無数の仲間が砕け散る光景に──。 「くっ……このままじゃ……!」
そう思った瞬間、蛮の胸元で、微かに光が脈打つ。見ると、それはアテナの聖衣の欠片だった。小さくとも、確かにそこに宿っている“アテナの小宇宙”。その微光が、蛮に呼びかけてくる。
「……この光…アテナが…?」
蛮は3人の仲間へと声を張り上げる。
「皆、アテナの小宇宙が俺たちを導いてくれている!今こそ小宇宙を――第八感の域へと高め、あの“四身一体”の技を放つ時だ!」 「四身一体…だと?」
「まさか、あの技か…!」
「……《アルティメット・ノヴァ・オメガ》…!」
だが、シャカは彼らの“師”のような存在であり、かつての尊敬すべき黄金聖闘士。その姿に手を上げることへの躊躇いは、4人の動きを鈍らせる。
「フッ、臆したか? その程度の覚悟で、我が“空”の深淵に届くと思っているのか?」
十二魔神将“空無”と成ったが、その力はシャカのまま。そしてシャカは最大の奥義“天舞宝輪”を発動。
容赦のない攻撃が迫る。
「どうした。この私を倒すのなら、もはや迷っている暇は無いのだぞ」
空無は無情に圧力を高める。小宇宙の奔流が、地を震わせる。
重圧の中、4人は――
(やるしか……ない!) 心を一つにし、小宇宙を限界の先、第八感の領域へと昇華させていく。 そして──。
金色の光が乱舞し、空間が圧し潰されるような重圧が4人を飲み込もうとする中、彼らはついに決断する。
「…やるぞ。アテナの意志を信じて」
「四人の魂、ひとつに――!」
小宇宙が爆発的に高まり、四人の闘士が放つ、渾身の連携奥義が、ついに炸裂する!
アルティメット・ノヴァ・オメガ‼‼
光の奔流がシャカを包み込む――!
……だが。 その後、視界に残ったのは、薄く漂う塵のような金光と、未だ崩れぬ沈黙だけ。
「……やったのか…?」
「いや…終わっていない…気がする…」 次の瞬間、空間が微かに震える。黄金の粒子が集い、まるで“何か”が再び形を成そうとしているかのように――。