六道輪廻
冥界を進む黄金聖闘士たち。 第六獄に辿り着いたのは、先行していた獅子座の蛮、牡牛座の檄、蟹座の市、山羊座の那智の4人だった。 この獄は、他とは異なり、まるで複数の地獄が同居しているかのような異様な構造をしていた。 冥界の書に記されし――第六獄。そこには**三つの谷**が存在する。
“一の谷”――血の池地獄 生前、暴力を快楽として振るい続けた者が堕とされる地。赤黒く泡立つ血の沼が、呻きと断末魔を啜って蠢いていた。
“二の谷”――森林地獄 命を自ら絶った者たちが放たれる地。首吊りの樹々が列をなし、魂を惑わせ、永劫の苦しみへと導く。
“三の谷”――熱砂地獄 欲に溺れ、己の快楽のため他を破滅させた者たちが這いずる地。熱砂が肉体と魂を同時に焼き尽くす。
いずれの谷も、ただ存在するだけで聖闘士たちの小宇宙を圧迫してくる。 それでも4人は、息を合わせてこの獄を通過しようとした――その時だった。
突如、背後から**“世界そのものが押し潰される”**ような、尋常ではない重圧と共に、小宇宙が膨れ上がった。
「こ、この小宇宙は――っ!」
「ま、まるで神の如き…いや、それ以上ザンス…!」
「だが…どこかで、感じたことが…ある…!」
「こ、これは……まさか…!」
地面が割れ、空がゆらぎ、六獄全体が“異空間”へと転じていく。 現れたのは、一輪の蓮華の上に座した金色の髪を持つ男。 その眉目はかつての乙女座の黄金聖闘士にして、生きながら神に最も近づいた者――
シャカ。
だが、今の彼の小宇宙は禍々しく、黒く染まり、六獄そのものを支配している。
「……ようこそ、黄金聖闘士諸君」
彼は、ゆったりと立ち上がり、蓮華を離れる。
「ここは我が“六道輪廻”の世界―― 生・死・苦・快・怒・哀の六つの感情をもって、魂の業を裁く場だ。 この地において、お前たちが信じる“正義”など、もはや意味を成さぬ。」
「お前が……シャカだというのか!?」
蛮が震える拳を構える。
「否。私は、シャカではない。 ディーヴァが与えし新たなる理――魔将“空無”として、ここに立つ。」
四人の黄金聖闘士は、かつての仲間にして最強の男と、ここで対峙することとなる。 正義と正義がぶつかり合う冥界第六獄。 光の記憶を宿しながらも、闇へと堕ちた男を前に、四人の選ぶ道は――。