最強の盾と燃え上がる矢
射手座の黄金聖闘士・邪武と、冥闘士一の防御力を誇るスタンドの激突は、激しさを増していた。
「フン……まだやるか、サジタリアスの小僧‼」
スタンドの口から低く響く咆哮が第五獄の谷を震わせる。 その背後には――ドス黒く澱んだ小宇宙が濁流のように渦巻き、硬質なオーラの盾が浮かび上がる。
「これが俺の最強防壁――ビッグウォール・ラグナロク‼」
ビッグウォールの“第二形態”。
亀裂すら入らない無敵の盾が、空間ごと歪ませるように展開される。
「どれほど貴様の小宇宙が燃え上がろうとも、この壁を越えることは不可能‼」
邪武は傷だらけの身体で、なお拳を握りしめる。 「……確かに、サジタリアスの矢は最後の切り札だ。だがな、俺はかつて、何度も何度も壁を乗り越えてきた……!」
拳を強く握りしめ、血を握りつぶす音すら聞こえる。
「星矢たちには追い付けなかった。それでも俺たちは俺たちなりに、無茶を乗り越え、死線を超えてきた!」
邪武の背中に、まばゆい聖なる光の翼が広がる。 「だったら――この壁だって‼ 砕ける‼‼」
黄金聖衣が共鳴する。サジタリアスの矢が、背中の翼に浮かび上がる。 だが邪武は、それを手に取らない。
「今はまだ、この矢に頼るわけにはいかない!」
代わりに、己の全身全霊をその拳へと込めていく。
「見せてやる……これが、俺が歩いてきた、正義の拳だ‼」
邪武の小宇宙が弾けるように輝き始める。もはや第七感を超え、第八感の気配すら帯びた光だ。 そして放たれるは――
「アトミック・サンダーアロー・プレッシャー‼‼」
それは雷と光が融合したような、射手座の拳の奥義。 かつての「アトミックサンダーボルト」を極限まで昇華させ、拳圧に矢の貫通力と、雷の爆裂性を加えた―― 正義の光そのものだった。
「砕けろォ‼‼ ビッグウォール‼‼」
ガカァァァッッッッ――‼
放たれた拳が、ビッグウォール・ラグナロクに真正面から突き刺さる‼
「バ、バカな……!? 俺の壁が――割れていく!?」
ギィ……バリィィィン‼‼
――音を立てて、スタンドのビッグウォールが崩壊する‼
盾の崩壊と共に、スタンドの冥衣にも無数の亀裂が走り、巨体ごと後方へ吹き飛ばされる‼
「ま、まさか……俺の防御が……サジタリアスごときの拳で……!」
崩れ落ちるスタンド。
だが、邪武はその場に立ちながら、なお背中の矢を抜いてはいない。
「……まだこの矢は抜かない。これが必要になるのは、もっと先だ。」
額の汗をぬぐいながら、静かに歩き出す。
(待っていろ、みんな……)
その背に、揺るぎなき黄金の矜持が輝いていた――。