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ウルフ那智編第2章:鷲と狼 ― 試練の始まり

 崖の上に立つ魔鈴。その背後には、幾重もの風が渦を巻き、まるで女神の翼のように空を裂いていた。 「まず最初に言っておく。私は甘くはない。 星矢のときも、容赦はしなかった。お前に対しても同じことをする」 那智は静かに頷いた。 「それでいい。俺には、そうしてくれる師が……必要なんだ」 その夜から、那智の肉体と精神を限界まで追い込む修業が始まった。

 魔鈴の教えは徹底していた。 一切の小手先は通用しない。力任せも許されない。 何より、「恐怖」を捨てねばならないという。 「お前の拳には、“諦め”がある。それは狼ではなく、ただの犬だ」 魔鈴の言葉は鋭く、心の芯まで刺した。 那智は日々自問する。 (俺は何を恐れている?また負けることか?それとも――仲間と比べられることか?) 答えは出なかった。ただ、血を吐くほどの打ち込みと崖登り、岩石砕き、滝の中での瞑想―― 肉体が限界を超えても、心が追いつかなければ意味はないと魔鈴は告げた。

 ある日、那智は魔鈴との実戦訓練中、完全に防御不能な一撃を喰らい、谷へと落下した。 岩壁に叩きつけられながら、彼の脳裏にはあの瞬間が蘇った。 一輝の炎。焼け爛れる肉体。全てを見下ろすようなあの視線。 「また……同じなのか、俺は……!!」 怒りか、悲しみか、それとも――悔しさか。 落下の瞬間、彼の体が小さく光を放った。 (もう……負けない……!俺は、狼だ!) その刹那、那智の背から白銀の狼の幻影が咆哮した。 空間が震えた。 地面に激突する直前、那智の足が岩を蹴り返し、狼のように崖を駆け上った。 その姿に、魔鈴は仮面の下で目を細める。 「……ようやく見つけたか、自分の牙を」

 その夜、火を囲んで魔鈴は静かに語り出す。 「狼は、群れの中で最も“孤独”な生き物だ。だが一度牙を向ければ、どの獣よりも誇り高く美しい」 那智はその言葉を、黙って胸の奥に刻み込む。 魔鈴は立ち上がり、指を那智の額に向けて突き出した。 「教えるわ。お前にしか使えない、ファング・クラッシャーという技を」 「ファング・クラッシャー……?」 「お前の拳は、真っ直ぐではない。鋭く、軌道を変えて喰らいつく。 その動きはまさに狼。無数の牙を連ねた鋭撃……その牙が、敵を喰い裂く」 那智はその言葉を心に刻み込み、覚悟を決める。

 幾日もの鍛錬の末―― 那智は、かつての自分ではなくなっていた。 ただの「青銅2軍」ではない。己の小宇宙を見つけた“真の戦士”だった。 「魔鈴さん、感謝します。次は俺が、守る番です」 魔鈴は背を向け、ただ一言。 「行きなさい。狼は、群れを離れてこそ真価を発揮する」 狼座の聖衣が光を帯びる。 小宇宙が吠える。 今、ファング・クラッシャーは放たれる時を待っている。 那智の小宇宙が解放され、雷鳴のような轟音と共に一撃を放つ。 無数の牙が鋭く、そして力強く空間を切り裂いていく。 「これが、新たな俺の力だ!」 その一撃で那智の心に巣くう“弱さという幻影”は完全に粉砕された。


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