女神の決断 ― 星矢たちと聖域のその後
冥王ハーデスとの壮絶な戦いは終わった。 そして、戦いの果てに――ペガサス星矢は倒れた。 その胸には、なおも抜けぬ冥王の剣。 神の力を宿したその剣は、誰の手をもってしても引き抜けず、星矢の命は止まったままだった。 彼を救う唯一の希望――それは、神の剣を無に帰すことができる、神をも凌駕する存在。 女神アテナ・城戸沙織は、彼女自身の兄にして、天界の最高神の一柱、 ――太陽神アポロンの元を訪れることを決意する。
神域・太陽殿
黄金に輝く太陽殿。 その中央、玉座に君臨するのは、眩い光を纏う太陽神アポロン。 その眼差しは冷酷で、沙織の姿を見ても微動だにしなかった。 「妹よ。貴様はまた、人のために神の法を破ったか」 沙織は黙して跪き、ただ一つ――星矢を救いたいと告げる。 アポロンは静かに告げる。 「良かろう。ハーデスの剣を無に返してやろう。ただし――代償を払え」
その代償は残酷なものだった。 星矢たち五人の聖闘士の小宇宙を完全に封じること。 そしてアテナの神格を剥奪し、ただの人間として地上に戻ること。 それは神としての“死”を意味するに等しい。 だが沙織は、それを受け入れた。
「私は、ただ……守りたかったのです。 この地上を、彼らを――星矢を」 アポロンは背を向け、太陽の光を掲げる。 そして、その神力がハーデスの剣を砕いた瞬間―― アテナは神の力を失い、ただの少女へと還った。 星矢たち五人もまた、聖闘士としての力を完全に喪失し、人間としての人生を歩むことになる。 それは世界にとって、“聖闘士の終焉”の始まりだった。
聖域・アテナ神殿跡にて ―
時は再び、聖域へ。 廃墟のアテナ神殿にて、アテナ像の足元にあった布切れを拾った蛮。 その布から、微かに温かい気配が流れ込んでくる。 (……あたたかい) そのとき、蛮の中に誰かの声が響く。
――「ありがとう、蛮。あなたは、強くなったのね」 それは、かつてのアテナ・沙織の声。 神ではなくなっても、最後の祈りを込めた言葉が、クロスの残滓に宿っていた。 「その声は、貴女は……アテナ……」 蛮は拳を握りしめる。 その中に、彼女が託した想いが、静かに灯っていた。 「……貴女が捨てたもの、俺が必ず拾います。」 そして、彼はもう一度、聖域を振り返る。 仲間も、神も、いない今だからこそ――自分がやる意味がある。 小宇宙を燃やすときが来たのだ。 (貴女が守った地上――今度は俺たちが守る) こうして、忘れられた青銅聖闘士の一人、ライオネットの蛮は、静かにその意志を受け継いだ。 物語は、再び動き出す。