第3話 じゃあここで話そうか
今回は過去最大の脅威を勇者が襲う!魔法も会話も対策してきた相手を勇者はどう攻略していくのか!卑怯な手段で魔王軍を翻弄していく邪道ファンタジー第3弾!
「君が勇者アレンだね?」
やたら美形な爽やかイケメンが俺の前に立ちはだかる。なに?やっぱり魔王軍、顔採用なの?
「魔族は人に名前を尋ねるときは自分から名乗るって習わないのか?」
「おっと、失礼したね。僕は魔王軍十六魔人がひとり…フーリー・ヒルメレオンだ。」
スカした野郎だと思ったが十六魔人だと!百八将(現在は百六将)よりも上じゃねーか!?
くっ、とりあえずいつも通りフィールドを展開するか… 。
「フィールド魔法、展開!【キュレン…」
「おっとその手には乗らないよ?」
フーリーが俺から距離を取る。くそっ情報が盛れてやがるな。
俺のフィールド魔法は術者を中心に半径50mに効果を発揮する技だが、コイツはそれを見越して70mくらい距離を取ってやがる…!慎重な野郎だ。
「君には百八将を二人も倒されてるからね。油断はしないよ。」
なるほど、今回は一筋縄じゃいかなそうだな。
さてどうしたものか…。
「デス・ファイヤー!」
ふぁっ!?コイツいきなり魔法を放って来やがった!ヤベェ!!
「障壁展開!」
俺を包むよう半球型の透明な障壁が展開されフーリーの魔法を相殺する。あっぶねぇー!
「おや?君はフィールド魔法しか使えないと報告書には書いてあったんだけど?」
「フィールド魔法しか使えねぇよ!…これは使いきりのアイテムの効果だ。」
王国謹製障壁発生装置、20分の間あらゆる魔法を相殺してくれる便利アイテムだがべらぼうに高い。俺の月給3ヶ月分だが一応買っておいて助かった…。
「まあ物理攻撃にはめっぽう弱いんだけどな。」
「ははは、そうやって僕をフィールド魔法の範囲に近づけようとしたって無駄だよ。見たところその障壁も長くは持たないようだからね。僕はここでのんびり待たせて貰うよ。」
「ちっ、バレたか。」
くっ、魔王軍にしちゃしっかりした奴だ…ッ。
…もう少しだな。
「な、なぁ最後に俺と与太話でもしないか?」
「君とは何も話さないよ?君は口が巧いらしいからね。」
フーリーが爽やかフェイスで微笑み掛けてくる。
…よし、準備完了だ。
「…。」
「…。」
お互い無言の時間が続く。フーリーはこちらに手を向け何時でも攻撃出来るよう俺から目をそらさない。障壁も薄くなってきた、もうそろそろ効果が切れるな。
「…。」
「…。」
ついに俺を包んでいた障壁が消失する。
フーリーも相変わらず涼しい顔をして構えていた。
「何か言い残すことはある?とか、本当は言ってあげたいけど君に喋らせると怖いからね。さっさと倒させて貰うよ。」
「…。」
決して気取られるな…慎重にいくぞ。
「じゃあね勇者。」
そう言うとフーリーが先程と同じ魔法を俺に放ち、着弾した魔法が地響きと砂埃を巻き上げる。
「なっ…!」
しばらくして砂埃が収まるとフーリーは目を白黒させた。無理もないだろう、そこには俺が先程から微動だにせず無傷で立っていたのだからな。
「ぐっ…。」
そしてフーリーが混乱している背後から俺は注射器を突き刺す。
「はい、一丁上がり。」
「な、なんで、僕の、背後に…。」
毎度お馴染み王国謹製超痺れ薬を血管に直接注入されたフーリーが崩れ落ちながら疑問を口にする。
「俺がいつからフィールド魔法を使ってないって錯覚してたんだ?」
「なっ、!?」
いつの間にどうやって?とでも言いたい表情でフーリーは俺を見つめる。うん、イケメンが這いつくばってるのは気分がいいな。
「俺に時間を与えすぎたな。確かに俺のフィールド魔法の効果範囲は平常時、術者を中心に"円形"で半径50m程だ。だけど俺だって時間さえ掛けられれば面積は変えれないくても形は変えられるんだなあ。」
そうフーリーが悠長に障壁が消滅するのを待っている間に俺は魔力をコントロールしてフィールド魔法の範囲を円形から楕円形に引き延ばし、気付かれないように効果範囲に捕らえたのだ。
「そんでもって今回、俺がフィールド魔法で指定した場所は【キュレント・ポイント】つまり現在地だ。」
途中「…。」と俺が無言で立ち竦んでいるようにコイツには見えたかもしれないが、実は魔法の効果によってフーリーに微動だにせず立ち尽くす俺の姿を見せていただけだ。
そして幻影の俺を見せている内に背後に忍び寄って痺れ薬を打ち込んだってわけだ。
「と、いうことでお前もまんまと俺の手の平の上で踊らされてたってわけだ。ま、慎重すぎるってのも時には考えものってことだな。」
「や、やるじゃ、ない、か…」
そう言い残すとフーリーは気絶していった。
「さすがですね、十六魔人も倒してしまうとは。」
岩陰からいつもの業者の子が声を掛けてくる。
今回はちょっと待たせてしまったかな?
「そいつは手荒に扱っていいぞ。」
「この前とは真逆のことを言ってますね。」
イケメンは別だ。野郎を丁重に扱う必要もないだろう。
「わかりました。今日は一緒に帰りますか?」
「あぁ、お願いするよ。」
こうして俺たちはトラックの荷台にフーリーを放り込んみ荒野を後にするであった。
つづく
更正プログラムを受けたフーリーは王国で映画俳優をしているみたいだ。今をきらめくイケメン俳優とかこの前特集されてるのをみて吐き気がしたぜ。