第九十七話 過去からのメッセージ4
地震に火山。どちらも常識では考えられない状態で発生している。魔法かとも思った。
実際、魔術部門の底は計り知れない。物理法則の範囲であれば科学が圧倒するが、一旦常それから外れると最早手に負えなくなる。
魔法は不可能を可能としてしまう。ただ、様々な制限がある為、何でも可能という訳ではない。
しかし、目の前に起きている事象は……魔法以上に無茶苦茶だ。
であれば、何だというのだろう……
「中将!」
「はっ!?」
「中将、指示をください!」
中将は頭を振る。余りに異常な事態に考えに籠ってしまったようだ。
原因はどうあれ、まずは目の前の事に対処しなければ。
「まずは火山に対処する。火山が発生したの場所とその周辺での避難状況を報告せよ!」
「はい。地震のせいで通信が不安定になっています。報告を受け取れただけになりますが、約27ヶ所の発生を確認出来ました。幸いにも非難は完了している地域です」
「よし。火山周囲に誰も近づかないように通達。地震と一緒に対処するぞ」
この異常な事態になりふり構っていられない。全てのエリアのスキャニングは完了しているので、建物は壊れても修復は簡単だ。物的損害はこの際無視しよう。
スキャニングとは地形や建物等全ての形状、情報を記録する事を指す。こうしておけば、仮に消失したとしても材料さえ揃えば、ほぼ同じ形で復旧させることが出来るのだ。
「緊急コード866Gを実行します。総司令、承認を」
「緊急コード866Gの実行を許可する」
「緊急コード866Gを実行せよ!」
「はい! 緊急コード866Gを実行します!」
緊急コードとは、予め計画し、対応を計画した大規模対応の事だ。
発令されたコードに合わせて自動的に指示が各所に発報される。警告を知らせる放送が流され始めた。
程なくして地震が収まり、火山が物理的に下がった。
火山があった所は大きな穴が開き、残った瓦礫がその穴に飲み込まれていく。
「緊急コード866Gの全実行を完了しました。指示があるまで実行状態を保持します」
「地表の地震と火山噴火が納まったら報告してくれ」
中将は一先ず事態を回避できたと安堵したが、同時に自身が発令した非常識なシステムが本当に起動したことに複雑な思いをしていた。
この緊急コードによって、現在、全地域が地表から100m程浮いている状態となっている。
区画毎にこの世界最硬度の合金で出来た格子状の土台が埋め込まれている。それを持ち上げる形で浮遊魔法が発動しているのだ。浮遊した区画が崩れないよう様々な保護も施してある。
地下との接続は強引に破壊してしまっている。分離は兎も角、再接合は今の技術を以てしても問題が多過ぎて諦めるしかなかったのだ。区画を降ろした後、地下との接続を回復させるのはかなり大変だろう。それを考えると、想像される激務に眩暈を覚えた。
しかし、今はやるべきことがある。多少強引に思考を切り替え、中将は今までの対応に見落としが無いか、これからどうするか、思考を巡らせていた。
誰もが慌ただしく動いている作戦指令室に、老齢の女性が入ってきた。真っ黒い着物のような服を着た杖を突いたご老人。
「邪魔するよ」
「……魔法司長!」
この方は魔法部門の長老の一人であると共に、恐らく現在魔法に最も精通した人物だ。
ただ、老化による衰えを痛感されているらしく、現状はご意見番。数年後には完全に隠居される予定だとか。
「何故こちらに? ああ、とりあえずは……此方にお座りください」
「おやおや。悪いねぇ」
空いている椅子の中で出来るだけゆったりしたものを勧めて座って貰う。
今は安定しているが、何時、災害が襲ってくるか判らない状況なのだ。何があっても大丈夫なように、座って貰った椅子を机に固定する。
魔法司長は窓から外を眺めている。
「おぉ、やはりここが一番見え易そうじゃ。足に無理を言わせて来た甲斐があったというもんじゃて」
「魔法司長。ここも安全とは言い切れません。それなのに、何故ここへ?」
「中将や。お主も予言を聞いたのなら判るじゃろ?」
魔法司長は窓から見える空を指した。豪雷はいつの間にか止んで雲が晴れている、がどことなく不気味な空だ。
丁度その時に、空にポツンと黒い点が生まれる。初めは一つ、もう一つ。
黒い点は急速に数を増やしながら、じりじりとその大きさを増していった。
「ま、まさかもう……次の災害か!」
「そう、隕石じゃ。あの様子じゃ、最初の着弾まで一時間も無いじゃろうな」
隕石……予言を聞いた時は巨大なものが一つ二つと勝手に想像していた。それであれば、ミサイルを集中して撃ち込めばと考えていたのだが、まさか都市を超える大きさのものが二十を超える数も降ってくると、どうやって想定できるだろうか?
いや、それでもやるしかない。これを乗り越えられなければ、続く予言に対処するまでも無くこの世界が終わってしまうのだ。であれば……
「出し惜しみは無しだ。予定の兵器を……」
「まあ待ちな」
「魔法司長?」
「ここはこの婆に任せてくれないかね? なに、無理そうなら直ぐに振るからね」
魔法司長の全身から、可視出来る程の強力な魔力が流れ流れ出す。その煌めきを失ってはいない瞳は隕石流れる空に向けられていた。




