第九十四話 過去からのメッセージ1
これは栄華と頂点を極めた人類が、如何にして滅んだのか。
それを伝えるメッセージ。
これを見た人に、かつて私達が存在していたことを、そして最後まで世界を形作る者からの刺客に抗った事を知って欲しいのだ。
今では見られないピシッとしたスーツ、いや軍服か、を着た男が廊下を歩いていた。
手にはタブレットを持ち、真面目な面持ちである部屋を目指す。
タブレットには引っ切り無し届くメッセージ着信の通知を知らせるLEDが点灯しており、男の忙しさが窺い知れた。
部屋の前に到着する。男は部屋の入口横に貼られた紙を眺め、こめかみがピクリと引き攣った。
「……はぁ」
深い溜息を付くと少し落ち着いたようだ。貼られた紙を一気に剥がし、手に持ったまま部屋へと入る。
そこは会議室であった。既に何人かの男女が座って待っており、せわしなくタブレットを操作している。
男は剥がした紙を、上座に居る老人に勢いよく突きつけた。
「総司令! また貴方でしょう! 大事な会議だというのにこんなふざけた物を用意したのは!」
紙には『世界危機対策会議』と、今時は珍しい墨汁で力強く書かれていた。
「中将。お前は少し固過ぎ……」
「総司令はもう少し真面目にやってください! これお返しします」
折り目が付かない様に緩やかに丸めて紙を総司令の前に置くと、中将は自分の席に座った。
総司令と中将のやりとりは何時もの事なのか、誰も気にしていなかったが、中将が席に座った時点でタブレットから手を離し、皆が中将を注視する。
「それでは会議を始めます。総司令、宜しいですね?」
「ええよ。ぱぱっと宜しく」
「では今回の議題は既に連絡の通り、この世界の崩壊が予言された事についてだ。大佐」
中将が向けた視線の先、隅に座っていた鋭い目線の女性が話始める。
「はい。先週、魔術部門より重大な予言が発せられたと緊急通達がありました。具体的な工程と共に、最終的に人類社会が崩壊するという予言です」
「その予言の推定確率は? 発生時期も予告されていないのか?」
「残念ながら90%以上との事。発生時期は今日から一年以内です」
流石に誤信の話では?と、会議に参加している半数が困惑している。
しかし、中将は迷っていなかった。皆に揺るぎない視線を向ける。
「この予言が実現するものとして、私の権限である程度対策を実施し進めている。皆に一報は入れたが、返事も聞かないまま皆の部下を強引に使わせて貰った事をこの場で陳謝する」
「了解しました」「お気になさらず」「そういう事でしたか……」
中将の謝罪に対して責める者は誰も居なかった。この場に居る誰もがこの世界の為になることを考えていたのである。理解に違いはあれど、その為の行動なら寛容になれる。
とはいえ、中将は内々で緊張していた。文句の一つ言われても仕方ない、場合によっては審議の対象になったかもしれないと。それが、こうもあっさりと終わった事で、部下に恵まれたと心温まる思いだ。が、それを表に出す訳にはいかない。話はまだ続いているのだ。
「では、予言の内容の再確認とその対策を……ん!?」
雨音が聞こえてくる。
この会議室は完全防音とは言わないが、この中央省の会議室に相応しい防音性能がある。勿論外部からの騒音も大部分はシャットアウトされていた。それなのに聞こえてきたのは雨音だ。
「確か今日の天気は晴天だったはずだが?」
「暫くは雨の気配もないぐらいだったはずです。……今、天気予報を確認しましたが予報は晴れです。しかし、暴風雨が観測されているようです」
皆ざわついている。確かにその気持ちは解る。
天気予報が科学と魔術を組み合わせた観測により、通り雨や局地的なものでも予報できるようになってから数年、それが外れた事など一度も無かったのだ。
それがこの誤報である。恐らく気象庁は大混乱に陥っているに違いない。
「もしかして……今からなのか?」
中将の呟きに、全員が沈黙した。
予言は『今日から』一年以内なのである。今日の今から始まったとしても間違ってはいない。
「中将、もう始まったものとして対策を実施せよ。外れた場合の責任は儂が持つ」
「総司令……判りました」
中将が全員を改めて見回す。誰もが冷静だ。自分が成すべき事、助けが必要なのは誰か、思考を巡らしながら話を聞いている。
皆の頼もしさが、中将の心の歩みを早めた。
「これより作戦指令室に移動し、対策を実施する。先の先への対策の為、人員を勝手に誓わせて貰うことがあるので注意してくれ。……予言の結果は人類社会の崩壊。つまり今我々の周りにある当たり前の平和が失われ、貴重な人々の命が脅かされるのだ。今まで世界平和のために活用してきた予言だが、今回ばかりはそれを覆させて貰おうではないか。皆、頼むぞ!」
「応!!!」




