第八十四話 復讐の再戦
事件は終わった。
ケヤラさんが解き放ったロボット群は、警備の人達が全て制圧していた。最初は制圧できずに被害の拡大を止められなかったが、ケヤラさんが所属していた部署で使用されていた共通の停止コードが有効と判ってからは、急速に制圧できたそうな。
それでもアース教が受けた被害は甚大で、生き残ったのはたった200人程度。建物も生活棟はまだ使えるが、講堂を始め宗教として集会を使えるような所がほぼ壊滅。街の人達の助けを借りて、亡くなった人たちを弔い、瓦礫を撤去して活動するスペースを確保していた。
皆、辛そうではあったが絶望に囚われてはいない。自分達が絶望した時、この世界の信仰が途絶えてしまうからとの想いがあるのだろう。
ブレンダン代表が生き残った人たちを集め、慰める青空講演を行っている。自身も負傷した後だというのに……手を止めることなく、忙しい時間を過ごしていた。
今回の事件はケヤラさん夫婦単独の私怨による凶行と発表された。
逃げたケヤラさんの夫であるソウルさん。まだ捜索は続いているのだが、その行方は掴めていなかった。少なくとも街の中には居ないので外だと目されているが、捜索は魔獣を恐れて進んでいない。
一部では既に死んだという意見もあるが、私は生きているような気がしている。
私達の治療も二日で完治。相変わらずこの世界の治療は早い。
レン代表からは巻き込まれた事に対する補償を貰った。此の所、大きなお金を貰うことが連続したため、貯金額が凄いことになってしまったよ。
もう働かなくても良い程だが、何かしら活動していないと人間ダメになると思うの。地球日本に帰るという目的もあるのだから、ギルドは辞めないと思う。ま、少しは贅沢しても良いかな。ふひひ。
オッドルさんの遺体をヒョーベイに返してやりたいという事から、治療が終わると直ぐに帰る事になった。
棺や遺体の腐敗防止はレン代表が用意してくれている。この対応の良さは巻き込んだお詫びというのもあるが、私との繋がりも考慮したのだろう。
「帰るのか。ヒョーベイでの連絡先はギルド宛てで良いんだな」
「ええ。レン代表もお疲れ様でした。お元気で」
レン代表の挨拶はあっさりしたものだ。実際、やることが多くて予定が詰まっているのだろう。挨拶を済ませるとささっと部屋へ直ぐ戻ってしまったのがそれを物語っていた。ブレンダン代表にも結局大した別れの挨拶が出来なかったな。
トースアースから暫く離れた所。今日も爽やかな風が流れており、気候は穏やか。この分なら暫くは雨は降らないと思う。
しかし私達の間の空気は少し沈んでいた。
オッドルさんの収められている棺はサテラ君に乗せて運んでいる。なので皆歩きで移動しているのだが、会話が少ないのだ。
流石の私もこの空気を茶化す事は出来ず、ぼーっと景色を眺めながら歩いている。
この辺りは平和で、魔物や盗賊の気配が無い。皆警戒はしているが、私はどことなく気が抜けてしまっていた。
その時、不意に前方の藪が動いた。「何だろう?」と私が意識を向けた瞬間に銃撃!
ルシードが鞘ごと剣を振るい、銃弾を弾いてくれて、誰にも当たる事は無かった。
「誰だ!」
「くそ、防がれたか……」
藪から出てきたのは……ケヤラさんの夫、ソウルさん。
体は泥だらけ、服は破け放題の酷い恰好をしていた。捜索でも見つからなかったが、相当苦労して隠れて潜んでいたようだ。
目的は……言わなくても判る。ケヤラさんの敵討ち、復讐だろう。ここで私達を待ち伏せていたのか。
「妻ケヤラの無念を思い知れぇ!」
ソウルさんが紐を引くと、周りの藪から複数、何かが飛んできた。
飛んできたのは……
「手榴弾だ!」
私とクレウス姉さん、ドミニクちゃんは下がる。
ルシードとベクト、トムさんが果敢にも手榴弾に向かい、全てを弾き飛ばした。間を置いて、周囲の森の中で爆発が巻き起こる。
間を置かずに、ベクトがソウルさんに迫る。街の学者と同じくソウルさんも体を動かすのは得意ではないようで、わたわたと逃げようとするが、あっさり追い付かれ、ベクトの飛び蹴りをまともに受けて大きく吹っ飛ばされた。
「俺が取り押さえに行く!」
続いてルシードがソウルさんに走り寄ろうとするが、その前に近づく影が……
なんでこの男がこんな所に!?
「爆発の音が聞こえてきたから来てみれば……妙な所で再会するもんだな」
流浪の殺人鬼ヴェタリー・シェイド。
集落ハフナーで逃走し、行方を晦ましていたが、こんな所で出会うとは。
「何で貴方がこんな所に居るのですか?」
あの時の記憶が蘇ってきて、少し緊張している。言葉遣いも少し変になっちゃった。
「特に理由はねえよ。あの時のお礼をしてやっても良いが……」
ルシードとベクト、トムさんが私達の盾になる様に、前に出る。
ヴェタリーの殺気に、皆警戒を強めていた。
ヴェタリーのスキルは良く判ってない。何でも透過して攻撃が無効化される。しかし無敵では無いのは解っている。
魔法が使えるドミニクちゃんに少し頑張って貰えればイケるかな?
「それよりこいつだ。こいつ、ちょっと面白いな」
ヴェタリーは私達を無視して、ソウルさんの頭を捕まえている。
「濁った眼だ。昏い願望に身も心も染まってる。イイねぇ」
「な、なんだお前は!?」
「なあ、お前。俺と一緒に来ないか? 一緒に来るなら、お前の望みを叶えてやるよ」
「妻の!妻の仇だ! あいつらを皆殺してやる!」
「おお良いぜ。丁度あいつらには俺もやる事あるしな」
なにやら、碌でもないチームが組まれようとしている。
「盛り上がっている所悪いが、その男は捕らえないといけない。こちらに渡して貰うぞ」
「俺はこいつと色々話しあうことにした。やり合えないのはちと惜しいが、足止め頼むよケイトリン!」
ヴェタリーの更に後ろ。ゆったりと歩いてきたのは、長く綺麗な黒髪と豊満な体が特徴の女性だ。
美人なのに、ボロボロのシスター服というのが勿体ない。いや、これはこれで廃退的で扇情的なモノがあるか。
剣を腰に付けているのを見ると剣士なのだろうか?
「また貸しね。いい加減、一つぐらいは返して欲しいものだわ。まあいいけど」
「じゃ、後は頼む」
ヴェクターとソウルさんが奥に去るのと入れ替えに、ケイトリンと呼ばれた女性が剣を抜き、ルシード達の前に出てくる。
「私の名前はケイトリン・ディ・レヴィ。貴方達は私を殺してくれるかしら!」




