第八十三話 終幕の銃声は鳴り響く
ケヤラさんの搭乗するロボットは今、ルシードにより機動力を阻害され、ブレンダン代表により刃を持つ腕が止められている。
もはやサテラ君の落下攻撃を防ぐことは出来ないと思われていたが、腕を犠牲にしてサテラ君を受け止めている。
スキルで押し込めようとしているが、あと一歩足りない。なら、その一歩を私が!
「これで……終わり!」
私自身が落下。狙うはサテラ君の柄の部分。そこに向かって、落下蹴りを叩きこんだ!
私の蹴りの衝撃は、ロボットの腕に伝わり、派手な音を立てて砕け散る。ロボットのセンサーがその光景を驚愕して眺めている気がする。
ロボットによる抑えが無くなったサテラ君は、ロボットの肩から背中に当たる個所を貫通。
「ゼオメグナが……科学の結晶が……負けた?」
これまでルシードがどんなに斬り付けても、斬れなかった驚異の固さを誇ったロボットが、破壊された。
レン代表によると、サテラ君はあの魔獣と同レベルの素材強度で出来ているという。貫けないという道理は無かったのだ。
ロボットが破損した所から稲光を発し、急速に熱量が上がる。
「ダーリン、ゴメン。愛している。貴方だけでも、逃げて」
ロボットの背中の一部が弾け、その一部が大量のスモークを伴って街の外へ打ち出される。
一瞬だが見えた。その一部に小男が大泣きしながら乗っているのを。あの男がケヤラさんの夫だったのだろうか。
「絶対に! 絶対に仇を取ってやるぞ! 妻の無念を思い知らせてやるぅぅぅ!」
怨嗟を込めた叫び声を残して、スモークに隠れて何処へ飛び去ってしまった。今の状況ではとても追うことは出来ないだろう。
そして次の瞬間にロボットが大きく弾けた!
「危ない!」
ルシードが、ブレンダン代表を抱えて私を押し倒し庇ってくれた。
弾けたロボットは、熱を持った部品を辺りに撒き散らし、人型の原型を留めていない。
あの爆発では、搭乗しているケヤラさんは……
「ここか!」
大勢の人がこの場に雪崩れ込んできた。
服装から察するに、トースアースの警備の人達だろう。レン代表とベクトの姿も見える。
ケヤラさんの起こしてしまった騒動は、これにて終了したのだ。
「そこに居るのはアーリィ君とルシード君。それとブレンダン代表ですか」
「はーい、私です。あ、二人が怪我しているので救助してくれませんか!」
「救護班!」
「アーリィ。遅くなってゴメン。大丈夫だった?」
ベクトが私達に駆け寄り、突入してきた人達が慌ただしく動き始める。
その時、燃え盛るロボットのハッチらしきものが開き、中から負傷しスタぼろとなってしまった姿でケヤラさんが出てきたのだ。これ以上ロボットの崩壊に巻き込まれまいと、方々の体で這って逃れる。
ベクトさん、生きててよかった。この惨事を起こしてしまったが、なら死んでお仕舞とはして欲しくない。最終的にどうなるにしても、せめて自分が何をしたのかを、自分本位では無く正しく理解してほしいと私は思うのだ。それが亡くなってしまった人への慰めになると思うから。
起き上がる気力も無いケヤラさんを、警備の人達とレン代表が取り囲む。事情は大体察しているようだ。
「ケヤラさん。アース教へは私が必要だと考えていると言ったはずです」
ケヤラさんは、憎々し気にレン代表を睨むが、何も言わない。
「貴方の機械工学知識は立派な物だと思っていました。実際、外のマシンゴーレムは素晴らしかった。もっと科学の発展に貢献してほしかったのですが、このような事となり残念です……救護班! アーリィさん達を街の医療施設へ直ぐにお連れしてください」
「レン代表。どうするんですか?」
「私は少しケヤラとお話しします。アーリィ君は一旦休んで頂けないでしょうか? 二人の怪我の具合も軽いものでは無いでしょう」
そうして、私とルシード、ブレンダン代表は警備の人に助けられながら、施設を出て街の医療施設へと向かう。既にクレウス姉さん達も保護され、運び込まれているらしい。きっと直ぐに合流できるだろう。
それにしても、今回の騒ぎは空しいものだったなぁ。ケヤラさんは宗教を嫌っていたのだろうか? 地球でも宗教迫害やそこまで行かなくても嫌っている人は居た。だからケヤラさんの感情は特別なものではないと思う。
けど、宗教が滅びかけているこの世界で、こんな事を起こす必要はあったのだろうか? 街にはわざわざ壁で仕切っていたのだから、嫌いなら見ないで居る事も出来たはずだ。ブレンダン代表は、宗教を広める気も無かったのだから。
キョウスティンのマーク様が言っていた、世界を変える流れというものなのだろうか?
力はあるが、人類を救うことに興味が無い科学
人類を救う意思はあるが、力は無い宗教
どちらの方が、この世界には良いのだろうか?
何処かで銃声が鳴り響いた。
何となく意味を理解し、私の表情が少し陰る。
この世界に、明るい道筋は残されているのだろうか?




