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第八話 試される力……通用せず!

「止めておけ。お前にはもっと合った仕事が他にあるだろう? この仕事には力が少なからず必要になるし、危険も多いぞ。商店とかお前に向いた仕事が他にあるはずだ」


  そう言われてしまうとぐうの音も出ない訳なんだが。正論で私を制するのは止めるんだ。


「それはそうなんですが……事情があって、このお仕事に就きたいんです」


  冒険者ギルドに入るのが、異世界物のお約束なのです。


「事情ってなんだよ?」

「生活費を稼ぐのと、とある事情から、この世界の色々な事を見聞きしたいんです。詳しい事はギルドに入れたらお伝えしますので」

「ふむ……なら、普通はしないんだが、最低限お前さんが身を守れるか試験するぞ。それで駄目なら諦めて他の仕事を考えろ。相談なら乗ってやるから」

「宜しくお願いします!」


  お話によっては試験が必要になることがあるけど、この世界はそのようね。

 ふっふっふ。試験の場で試験官を圧倒して驚かせるのはもはやお約束なのだ。覚悟しててよね。


「おい! 話は聞こえていたろ。裏手使うからな。マスターに一言言っておいてくれ」

「はーい! わかりましたー!」


  受付の女の子に声を掛けてから、山賊さんは私を建物裏手に連れて行く。裏手は建物で囲われた小さめの広場になっている。一組ぐらいなら暴れても問題無さそう。

 山賊さんは、端に立て掛けられていた剣を私に投げて渡してきた。わ、思ったより重いんだね。落としはしなかったけど、思わず体がふら付いた。


「おいおい。本当に大丈夫か?」

「あ、あい。問題無いです」

「本当かよ……まあ良い。そう言えば名乗って無かったな。俺はライロン・ディーファンタル。このギルドメンバーだが、まとめ役みたいな事をやっている」

「私はアーリィ・ファストって言います。宜しくお願いしますね」

「試験だが、実践形式だ。俺に一撃を入れる事が出来れば合格。そこまでは出来なくても、自衛できる程度と分かれば合格にしてやる」


  おし! それなら勿論、一撃を入れちゃうぞ~。


「あ……この剣ですけど、自衛用の武器って持ってなかったんです。お金は出しますので、下さい!」

「構わんと思うが、そんなボロで良いのか? もうちょっとマシなのがギルドの倉庫にあるだろうから、案内してやるぞ?」

「いえ、コレが良いんです!」


  私は必死に訴える。試験に使うこの剣を借りるだけじゃ”私の剣”と認識できない恐れがあるのよね。認識できないとスキルが使えず、スキルが使えないと、試験にもならない結果になる訳で。スキルなしの私はへっぽこなんて、自分が良く知ってるのよ。


「解った。なら、俺が後で言っておく。その剣は好きに使えば良い」

「わーい。ありがとうございます」


  良かった良かった。これでテンプレ通りの展開じゃ。


「じゃ……掛かって来い!」


  ライロンさんは、剣を持って完全に待ち構えている。ふふん、今に見ておれ。

 私は腰の引けたへっぴり腰で剣を構える。剣は練習用の為か、刃は全て潰されており切れそうにない。刀身に付いた無数の傷と錆は、長い年月使われたことが窺い知れる。ま、確かにボロだね。完全無欠素人の私が見ても判る。だが、その剣としての攻撃力の無さは、素人の私が下手な扱いをしても、怪我しないという安心に繋がるのだ。

 え? 鉄の棒として見れば十分危険だって? ……完全無欠素人の私にそんな事言われても困るのだ。


「じゃ、行きまぁぁぁ!?」


  想定では、フロートソードで剣を操って、私が自分の力で振っているように見せたかったのだが……足がついて行かなかった。

 剣に引っ張られるような異常な恰好で、半ば一足飛びでライロンさんに向かって剣を振るう。


「なんじゃそら!?」


  バランス的にあり得ない格好での攻撃にライロンさんも驚いたようだが、そこは流石にプロだ。驚きながらでも、しっかりと私の剣を剣で受け止める。が、そこで私の剣は止まらない。フロートソードの剣を操る力は、ライロンさんの力を完全に上回っており、私の剣がライロンさんを押し込む。


「む……よっと」


  急にライロンさんの姿と受ける力が消え、思わず地面を剣で耕してしまう。

 間を置かず、剣を持つ私の手首が掴まれ、首の後ろを足で抑え込まれ、私は「ぐえ!」と組み伏せられたようだ。

 顔に土を付けられたのは子供の時以来だぜ……いや、現代日本で年齢が上がってから顔に土を付けるような事なんて、土仕事とかしない限り、殆どありませんから!


「こうやって抑えられると、よっぽどの力の差が無いと動けなくなる。お前さんの場合は、この状態に追い込まれない様に注意するんだ」

「あ、あい。分りました教官……」


  っと、ライロンさんが解放してくれた。むぅ……テンプレ達成ならず。


「まあ、最初の変な打ち込みは十分な威力と速度はあった。甘過ぎるとは思うが、自衛できる程度はあるとして、ギルド加入は認めてやるよ」


  私はぱっと喜びの笑顔を浮かべて、ライロンさんの手を持って喜んだ。


「有難うございます!」


  おやおや、ライロンさん照れてるね。山賊のツンデレというのも珍しいね。


「さて。さっきの変な動きに思い当たることもあるが……まずは、さっき言っていたとある事情ってヤツを聞こうか」


  おっと。そうだったね。でもね~異世界転生人です~なんて、与太話にも受け取ってくれ無さそうなのよね。

 仕方ない。その辺りは誤魔化して話しますか。

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