第七十六話 進入禁止エリア
折角なので、腰の剣をスキルで飛ばし境界にぶつけてみたが、境界に触れた所で剣がそれ以上進めなくなった。
例えるなら、ゲームで進入禁止エリアから向こうにキャラが進めないような、そんな感じ。通過は疎か破壊も難しそうだ。
「アーリィ。これ以上は地上に戻る体力が残らない。サテラ君を地上へ」
「うん、判った。ここまでにしよう」
今まで体感したことの無いような冷気に晒されて、体が完全に冷え切っている。それなりの防寒をしてきたつもりだったけど、まるで効果がない。これ以上止まると凍傷等色々と取り返しのつかないことになりそうだ。
突き刺さるような冷気から逃れるために、サテラ君を地上へ向け落下させる。落下の風圧だけでもかなり厳しいよー。
森が迫り、豆粒の街が見える。その豆粒は徐々に大きくなり、やがてトースアースであると判った。街が見えると安堵が心に広がる。
落下スピードも徐々に落として着地に備えた。
冷気で固まった肌に温かみが戻ってきた。
そして見えてきたのは……ルシードだ。真面目な顔で私の方をじっと見上げている。
「帰ってきたよー!」
「おーい! ここだ!」
落下位置に大きな円を描いててくれた。その円に向かってサテラ君をゆっくりと動かす。
着地しようと足を大地に向けたが、ぶら~んとぶら下がるだけで、自分の足ではないようになかなか動かない。すっかり冷えた足は思った以上に筋肉が硬直してしまったようだ。まるでマネキンと化したかのように、感覚も無い。
「アーリィ。体の力を抜いて。ゆっくり降りる事だけに集中して」
ベクトが私の足を持ち上げる。
ルシードが私の異常を察知して並走し、ベクトの反対側から私を支えてくれる。
二人に支えられて、なんとか地上に降りることができた。
体はまだ思うように動かない。ひえっひえだ。
「どうした? 何か上であったのか?」
「上空の冷気に長い間晒されて、筋肉が硬直しているだけ。ゆっくり体を温めれば問題無い」
「体が思ったように動かなくて、吃驚した~。ルシードただいま」
ルシードに安心して貰うために、寒さに顔が引きつったまま笑顔を送る。
着地にアクシデントがあったが、なんとか無事地上に戻ってきた。やっとひと心地が付けるね。
私もそうだけど、ベクトも結構無理して体を動かしていたようで、二人して医務室へと担ぎ込まれ、適切な処置を受けた後にベッドで寝転がっている。シーツと空気の温かさが嬉しい。ルシードが私達の世話を見てくれている。苦労を掛けるねぇ。
落ち着いた所でレン代表が訪れ、上空で何かあったか話を聞かれる。なので、ベクトの言った『世界の境界』なる見えない壁について話した。
私の下手な説明にもレン代表は話を遮らず、ずっと聞いてくれる。
「なるほど……色々と調べたい所ではあるが、高度50km以上となるとアーリィ君のスキル以外に到達できる手段が無い。その境界を突破する方法も、聞いた範囲では判らないな」
「じゃあ、サテラ君にゴンドラでも引っかけてまた行ってみる?」
「興味はあるが、私は色々とやるべきことがある。調査するための準備も必要だ。残念だが暫く延期だな」
「ま、目標の在処が判っただけでも今回は収穫有ったかな」
「こちらの準備が出来れば、ヒョーベイのギルドに連絡しよう」
「わかりました。今日は宿に戻って、明日戻る事にします。今回は色々相談に乗ってくれてありがとうございました」
「気にしなくていい。此方としても面白い事を知れたしな」
適切な手当てと色々と温かくしてくれたお陰で、暫く後に問題無く動けるようになった。こういう時に健康な状態の有難みって感じるよね。
医師とレン代表にお礼とお別れの挨拶を交し、クレウス姉さんグループと落ち合う予定の宿に戻る。
私達の方が先に着いたようだ。宿に伝言も届いてないようなので遅れているのかな? とりあえず全員分の宿を確保しよう。
クレウス姉さん達の帰りが遅い気がする。
宗教団体アースは裏の顔があり、いけにえを欲していた。だが、直ぐに足の付くトースアースの住民をいけにえにする訳にはいかない。
足の付かない部外者が良いだろう。そう、丁度訪れたこのグループなら人数的にも良い感じだ。
なにやら、結婚したてで子も授かっている。将来に向けた祝福を受けに来たというのなら、いけにえとなった際の絶望は邪神への極上の捧げものとなるだろう!
早速、個室に誘導して睡眠薬で眠らせるのだ……
という事は無く、普通にクレウス姉さん達は帰ってきた。
「なかなか興味深い話を聞かせて貰えたよ。向こうも久しぶりの訪問者に話が出来たのが嬉しかったようで、帰りがちょっと遅くなったね。そっちはどうだった?」
「大収穫がありました! ただ、これ以上出来る事が今は無いので、今回は帰るしかなさそうね」
「そっか。なら今回誘った甲斐があったもんだよ。こっちは明日の昼頃、ちゃんとした祝福の儀式をしてくれるらしいから、帰りは明日の午後か更にもう一日後だね。どうする?」
「折角だし、俺達もアースの話を聞いてみても良いじゃないか?」
ルシードの提案に、私も同意する。
「そうね。私達が帰るのはその後でも良いか」
ということで、もう一日の滞在となった。
「俺としてはさっさと帰って欲しいんだがな……ま、今日はもう寝るわ」
っとチンピラ風味のオッドルさんが割り当て垂れた寝室に引っ込んでいった。
この人は凄く意外にも、真面目に護衛をしているようだ。道中もそうだったね。
いつぞやライロンさんが言っていたが、本当に仕事だけはやる人なのね……いっそ、ずっとお仕事してくれれば良いのに。




