第七十三話 レン代表
クレウス姉さんらと別れた後、私とルシード、ベクトの三人でこの街の市役所的存在の運営棟へと赴いた。
運営棟は一階正面がガラス張りになっており、非常に開放的な印象を受ける。ガラスから見える範囲ではあるが内部も近代的で、この世界とは格別した技術をこの街が持っていると考えさせる。地球日本にこの建屋があっても余り違和感ないかもしれないね。
ガラスでできた大きめの扉より中へ入る。おや、照明が使われているね。
この世界でも照明ぐらいはある。ただ電気が安定供給出来ないので、使われるのは貴族か特別な時ぐらい。それをこの街では街運営の施設とは言え常時使っているとは。
「ちょっと特殊な事情あって、博識な人に相談したいのだが」
ルシードが物怖じ無く、受付のお姉さんに話しかけた。
「何かご紹介はございますでしょうか?」
「いや無い。俺達はヒョーベイのギルドメンバーなんだが、依頼でこの街に来たんだ。そのついでに個人的な問題事の相談できればと思って尋ねて来た」
「どのようなご相談なのでしょう?」
「特殊な問題で、出来れば内密に相談したいと思っている。そうだな……空間かそれに類する知識ある人は居ないか?」
「そうですね……少々お待ちください」
ごめんね、ハッキリとしない内容で。『この世界に転移してきたので帰る方法を相談したい』とか言っても、紹介されるのはお医者さんだろうし。
受付のお姉さんはファイルを取り出して、パラパラと紹介する人を悩んでくれているようだ。っと、私達の後方、つまり玄関のドアが開き誰かが入ってきた。その人に付いてきたちょっとキツイ怒り顔の女性が抗議の大声を投げかけている。
「レン代表! 何度も申し上げていますが、あの連中への援助はハッキリ言って無駄です! 私の部署への予算削減の前に其方を削ってください!」
「彼らへの援助は私が必要だと考えているから実施しているのだ。それにその援助も十分最低限。それすらも打ち切れば、彼らは死ぬしかなくなるぞ」
「あの連中はこの街の、いやこの世界のお荷物です! 余裕のある状況ならまだしも、今は無駄に出来る物資は何も無いのです! 援助を打ち切って死にたくなければ、宗教なんて無駄なものを捨てて労働に専念させれば良いでしょう!」
「今やって貰っている農業で必要分は働いて貰っている。これ以上の問答は必要無いな」
「くっ……」
何だったんだ!? 女性は納得行かないと言いたげな顔を浮かべながら外へ去っていった。ドアを力一杯閉じて、無言の抗議を残していく。
抗議を受けていた人は全く動じていないな。何時もの事だからなのか性格なのか。
おっと、こちらの存在に気が付いたようだ。
「失礼、見苦しい所を見せてしまった」
「いえ、お構いなく」
受付の方に、私達が誰でどんな目的の為に来たのかを聞いている。
「なるほど……短い時間で良ければ私がまず話を聞こう。話が長引くなら、他の誰かに交代して貰うがね……それで良いか?」
「相談に乗って貰えるならそれでも良い」
「なら、まずは私の執務室へ行こう。こっちだ」
「感謝します。俺はヒョーベイ、ギルドメンバーのルシード・ロイネス。こっちの二人も同じで」
「私はアーリィ・ファスト」
「ベクト・セカン。宜しく」
「ふむ。私はこの街の代表を務めているレン・エスネスという」
そう言えば、さっきの女性もこの人を代表って呼んでたような……そうかそうか。
ラッキーな話ではあるか。コネも無いのに、偶然とはいえこの街の代表と会って、しかも短時間とは言え相談に乗ってくれると。
であればどこまで話すべきだろうか? というか、この人が善人かどうかも分かって無かったよ。
あれこれと可能性を考えていると、心配顔になっていたのだろうか? ベクトがそっと私に呟く。
「大丈夫。アーリィの思う通りに話したら良いよ」
「ベクト?」
これまで一緒に暮らしていて判ったが、ベクトは基本余り考えない子だ。だけど『大丈夫』と判断してそうでなかった事は一度も無い。妙に判断が正しいのだ。
何故ベクトが正解を引けるか判らないけど、とりあえず今回は大丈夫なのだろう。
階段を上がり、少し広いロビーから思ったより普通の扉を開く。ここが彼の言っていた執務室なのだろう。
部屋は非常にシンプル。大きい机と椅子。打ち合わせ用の二対のソファーとテーブル。そして本棚。大きい窓からは街の門から向こうの森が一望できる。
部屋の端に取り付けられているあれ……エアコン!? 久々に見たなぁ。この世界の電気事情では使えない状況が多いだろうに、こう言った所でもこの街が例外と言えるかもしれない。
レン代表は手に持っていた書類を机に置くと、ソファーに座り、私達にもソファーに着くよう促す。
「さて……一体どんな相談なのかな? 魔獣への対策や古代技術の発掘も最近は停滞気味だ。できれば私の知識を刺激するような相談であってくれよ」




