第七十二話 二手に分かれよう
この世界の過去に、戦車ぐらいいくらでもあったのだろう。もしかしたら動く形で今でも残っていたのかもしれない。
理由は判らないが、この世界の戦車が今、街の中から外へと動き出した。
「襲ってくる気か?」
ルシードが警戒を強めると同時に街からスピーカーで私達に声が投げかけられる。
「そこの一団、それは我が街の実験兵器である! 私達の目的は森の中にあり、貴方達ではありません。危険なので近づかない様にお願いしたい!」
状況が良く判らないが目的が私達ではない様子。偶々出くわしたようだ。
とりあえず皆足を止めて様子を見ると、戦車一台が騒音と土煙を上げながら、私達の脇を通り、魔獣の居る森の中へ入って行く。
程なくして激しい音が起こった。先程の戦車が戦っているのだろうか?
激しい炸裂音や木々が薙ぎ倒される音、耳に触る金属音と魔獣らしき唸り声。
私達は巻き込まれては敵わないと、慌てて街の門に向かって移動する。
森の中で繰り広げられているだろう戦闘音は数分続いたが、一際大きい炸裂音が二度聞こえたと思ったら、森の中から流線型の何かが街の外壁に向かって飛び出し、地面へと突き刺さる。濛々と立ち込める土煙を前に、私達はどう反応したら良いのか判らないでいた。
少しの間をおいて、扉らしきものが開き中から学者然した男が現れた。と同時に門から同僚と思わしき学者が多数駆けつける。
「……やった! 脱出装置は成功だ! 俺は生きているぞぉ!」
「よくやった! で、魔獣との戦闘データは取れたんだろうな?」
「ああ、記録媒体も無事だ。しかし、今回はイケると思っていた複合装甲板が全く通用しなかった」
「あの合金でも駄目だったのか!?」
「ああ。魔獣にとってはただの鉄板も合金装甲も大した違いじゃないようだ。ただ試験的に導入した電磁装甲が、僅かだが攻撃を停滞させていた。次は電磁装甲をメインにするのだどうだろうか?」
「電磁装甲か……そうなれば、まずは解明や再現出来てない個所から取り掛かるべきか」
「戦車砲はどうだった?」
「何発か当てる事が出来たが、ダメージが通ったようには見えなかった。こっちは別のアプローチを考えた方が良いかもな……」
なにやら大騒ぎである。聞こえる話から、あの戦車で魔獣に喧嘩を吹っかけたようね。
命知らずというか無謀というか。以前に魔獣と直接相対したことが解るけど、戦車でもあれに勝てるイメージは湧いてこない。物理的な話では無く直感でそう感じるのだ。
とりあえず私達は街の中に用事があるのだ。無謀な行為は兎も角、戦車とか興味ある所ではあるけどまた今度にしておこう。
先頭のルシードに先に進もうと合図を送る。了解とばかりに私達はトースアースの門へと辿り着くのであった。
入門手続きを終え、私達全員にバッチが配られる。これがこの街の中での私達の身分証明となるそうな。
何となく、工場に来たような感じがするね。
門をくぐり街の中へ。
「これは……ほんと工場みたいね」
街の中は、これまでの街のどれとも異なっていた。レンガ造りの建物もあるが、殆どが金属で出来ていて配管が多く走っている。スチームパンク世界のようだ。
街の人も普通の服装の人も居るが、学者っぽい服装の人も居る。恐らくこの街は全体的にこんな感じなのだろう。
「色々面白そうな街だが、先にこの発電機の返却しようか」
「そうだな。ならこっちだ」
返却先は警邏詰め所横にある倉庫。倉庫責任者に返却したことのサインも貰って、無事ギルドのお仕事は終了だ。
「ここからどうしようか?」
仕事が終わったなら後は自由時間だ。クレウス姉さん達はアース教に行くのだったね。私はこの街の信頼できる知識人に会ってみたいかな? 地球日本に帰る為の手段に相談に乗って貰うのだ。
てことで、ここからは二手に分かれる事となった。
クレウス姉さん、トムさん、ドミニクちゃん。そして意外にも「まだ護衛の仕事は続いているんだよ」と、オッドルさんの合計四人がアース教へ。
アース教は……街の中の壁に覆われた区画にあるとの事。何でわざわざ壁で区画を分けているのか、怪しい……
私とルシード、ベクトは、倉庫責任者の人に教えて貰って、この街の運営棟に訪問することとなった。
ルシードとトムさんでこの後の事を詰める。
「それぞれの用事が終わったら、門前の宿で合流しよう」
「判った。もし遅くなるなら、言伝を宿に入れてくれ」
「了解。じゃ、また後で」
こうして、一時的に二手に分かれたのだった。
何か良い話が聞ければ良いんだけれど。




