第六十九話 ようこそベクト
「という訳で、キョウスティンではアーリィのスキル確認と集落解放の手伝いでした。あ、これキョウスティン王宮学部長マーク様より預かった手紙です」
「それはお疲れ様でした。お手紙、拝見させて貰いますわ」
ルシードからジゼルさんへ手紙が渡される。そう言えばそんなの預かっていたね。確か、キョウスティンでの経緯と感謝の言葉だっけ。
という事は、ルシードが言葉で説明しなくても手紙を渡せば済んでいた話かもしれない。ま、済んだことは良いか。
「マーク様は今の世に不穏な流れがあると見ているようで、慎重に行動されていました。ヒョーベイではそういった不穏な話は無いでしょうか?」
「私の所にはそう言った話は来ていませんね……」
と、ここで話に入ってきたのはマスターだ。
「話に割り込むようで申し訳ないが、私がジゼル様に伝えたかったのはその事に近い事だと思います。言っても良いですか?」
「あら? ではマスター、どのような話なのでしょう?」
「実は暫く前に街の外から訪問者が来ていたようなのですが、誰かを探している風だったようです。結局見つからなかったようで、数日後に何もせずに去っていったのですが」
「ふむ。怪しいと言えば怪しいですが、取り立てて問題視するほどでもないですね」
「その探していた人物というのが……話を統合すると、アーリィと思われるのです」
私? 私は誰かに探されるような事をした覚えは無いんだけどなぁ……何となく凶悪犯ヴェタリーの事が思い浮かんだが、あれは他人を使ってあれこれするような奴には見えないし。
そこでちょっと思い付いたのが、未だに私の肩に顎を乗せて寛いでいるベクトの事を思い出した。
「違うかもしれないんだけど、関連して思い出した事があるんだけど、言って良いかな?」
「どうぞ?」
ジゼルさんとマスターは良く判らない表情を浮かべている。ルシードは何となく察したようだ。
「この子、ベクト・セカンって言うんだけど、キョウスティンで街ヒルビンに居るかもって知ってね。街での事は省くけど、最終的に連れてきたのよ」
「アーリィさんとはどういったご関係?」
「実は私達自身も確かな事は判ってないのよ。ま、とりあえずは姉妹とか身内って思ってて。で、ベクトは何者かに狙われていたのだけど、元はキョウスティンに現れた盗賊に扮した何者か達と繋がってる感じなのよね」
ふむと考えていたマスターが纏めてくれた。
「つまりは、その正体不明の何者か達は君も探していたかもしれず、それが謎の訪問者だったかもと言いたい訳だな」
「纏めてくれてありがとうございます。そゆことです」
「これは……今後、この街に訪れる者への監視を強めてもらう必要がありそうですね。お願いできますかジゼル様」
今回の話は、街中で怪しかったからということでギルドが先に情報を得たが、門の所でチェックできればそれに越したことはないもんね。
「分りました。今後は確認を強化するように指示しましょう。ただ、怪しいというだけで問題も無いのに街に入る事を拒否する訳にもいきませんので、街中での監視はギルド側でお願いしますよ」
「承知しました」
これでやっと報告は終わりかな? 言ってない事ってなかったよね?
ん? ベクトが私から放してジゼルさんとマスターに顔を向ける。
「私が厄介事を持ってきたかもしれない。ご迷惑を掛けてしまうかもしれない。ごめんね」
ジゼルさんは苦笑いを浮かべる。優しい顔だ。
「ベクトさん」
「はい」
「貴方はアーリィさんの身内で、正式にこの街に移住してきたの。この街の住人を守るのは私達貴族と街の運営の役目よ。気にしないで、安心して守られなさい」
マスターとルシードも言葉を重ねた。
「そうだ。ギルドもアーリィの身内となれば助けない理由が無い。危ない時はギルドに駆けこむと良い」
「お前の強さは戦った俺が良く知っているからな。が、手に余る相手の時は手を貸すぞ」
「皆さん……有難うございます」
静かに感動しているベクトの頭を撫でてあげる。
これにて報告も、ベクトの受け入れも完了だね。
怪しい訪問者は去った後というのは丁度良かった。再度この街に来るかもしれないけど、それは暫く経ってからになるだろう。
次の目標となる情報も無いことだし、暫くはベクトとのんびりしましょうかね。
その後、ジゼルさん、ルシードとマスターと別れて、ベクトと一緒に久しぶりの我が家への帰路へと着く。
久しぶりに帰ってきた我が家は変わらず健在だ。ただ、久しぶりに帰ってきたという実感は凄い。
家の鍵を開け、ベクトと一緒に家に入る。
「ただいまー! そしていらっしゃい、ベクト」
「おじゃまします……よろしく」
さって、何をしようかね、まずはベクトの日用品からかな。
私は今後の日予定を思い描いていたが、その考えは全て変更となってしまうのだった。




