第六十五話 閑話:自己鍛錬の追加
何故かグエルション様がルシードとベクトを相手に道場で戦うこととなった。
このルクリュイーズ少年が言っていたけど、この街の貴族は強いとか言っていたけど、高齢者相手に若者二人というのは良いのか?
「安心してアーリィ。グエルションは私より強いの。かなりね……」
「マジで?」
グエルション様が持ち出したのは小太刀っていうの? 短い刀を手にしており防具は着込んでいない。
「グエルション老。貴方は強いのかもしれないが、いくらなんでも俺達を軽く見過ぎでは?」
ルシードは流石に不満気味だ。
ルシードが愛用しているキョウスティンで頂いた剣の長さと比べれば、倍近く違いがある。リーチの差というのは想像以上に実力差を埋めるものだから、その不満も判るというものだ。
「良いから掛かって来い。遠慮は要らんぞ」
「ったく。大怪我しても知らんぞ」
で始まったのだが……強いぞグエルション様。
守りカウンターをメインにしていたというのもあるが、ルシードの速度の乗った斬撃を小太刀で軽く逸らし、体が浮いた所に腹へ拳を叩きこんでいた。
崩れるルシードから離れようとした一瞬に、ベクトが回し蹴りを横へ薙ぐように振るう。
だがそれも読んでいたようで、背中で回し蹴りを押し上げ、体勢を崩し、ルシードと同じく腹に拳を叩きこんでいた。
あれ多分、二人への稽古のつもりで手加減しているっぽい。
あの二人でも敵わない実力者が居るというのは、世界は広いね……
その後、ルシードとベクト二人の息が合ってきたようで、お互いの隙を埋めるかのようなコンビネーションを発揮するがグエルション様には及ばず、何度も何度も殴られ、転がされていた。
「ふん。動きは多少マシになったようじゃが、技の練度がまるで足りておらんわ。……戦いの経験を重ねることと、技の基本的な鍛錬を怠るなよ。そうすれば、もう少し成長できるじゃろうて」
二人はボロボロになって道場の隅に転がっていた。何度も殴られたのと重度の疲労でもう動けない様子。折角一日掛けて治療したのに……
グエルション様は殆ど攻撃を受けていない。ただ、疲労している所を見ると、二人が全く及ばなかったという訳じゃないのが救いかな。
「さて、次はアーリィ、お主の稽古をつけてやろう」
「え? い、いや、あの、私は結構というか、遠慮したいというか……」
「ぐだぐだ抜かすな! その腰に履いた鉄棒を構えい!」
私の剣に刃が無いことも見抜かれてやんの。
痛いのは嫌なんだけどなぁ。とりあえず剣を構える。キョウスティンでマーベルさんに教えられた通りだ。
自己練習を重ねた結果、形だけは出来ている。ルシードのお墨付きだ。
「ほう……完全な素人かと思えば、基本は学んでおるか……こい!」
「えいやぁ!」
左手で剣を振るい、右手でコントロールする! 振るった剣の速度はルシードに比べて兎と亀ほどの差があるが、ブレずに振り下ろされる。
が、当然の如くグエルション様の小太刀であっさり受け止められた。
「ほぇぁ!?」
突然視界が回る。体が前転一回転し、背中から道場の板床に叩きつけられた。
いった~……でもって、咳込んでしまう。
どうやら、私のお腹を持って、一回転グエルション様により投げ飛ばされたようだ。
「アーリィよ」
「げほ……はい、何でしょ?」
「今行っている自己鍛錬はそのまま継続せよ。ただ、次の段階の鍛錬を追加するが良い。次は動作を可能な限り速めて振ると良い。速度優先、しかし型を崩さない事を目指せ」
はい。自己鍛錬に追加入りましたー!
いや、強くならなくちゃいけないとは思っていたけどね。強くなるというのは辛いことだ。
その後、素早く剣を振りながらも型を崩さないという練習がどういうものか、ルシード達と同じように疲労で動けなくなるまで続けられるのであった。




