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第六十三話 事情説明BOT

  あの後、ルシードとベクトは治療の為に運ばれて行き、残った私が事情を問い詰められる羽目となった。

 とは言っても、私も殆ど知らないのよね。ベクトがターゲットというのは解っているが、何故ベクトを狙っているのか、あの男が何処の誰なのか……

 ベクトが狙われていることも、出来れば本人から言って欲しいので「何も解らない」で全部通すのはちょっと苦労したな。

  ついでに私自身についても聞かれまくった。

 これについても知りたいのは私の方なのだけど、とりあえずの説明として姉妹という事にしている。

 幼い頃に生き別れた為、最近まで姉が居るとは知らなかったが、キョウスティンでベクトの話を聞き、強い興味を持ったのでこの街までやって来たというストーリーだ。

  と、あーだこーだと話したが、勿論何も結果は出ない。その日の話は切り上げ、運営側は会場の修繕や今回の襲撃に関する調査を進めている。

 面倒だったのは、同じことを違う人に説明しなければいけなかった事だ。

 捜査上、何度も同じことを聞くことで話の矛盾を暴き出すらしいけど、面倒ったらありゃしない。

 私は事情説明BOTと化して、何度も同じ話を繰り返すのだった。


 私の方は宿でお休み。ルシードとベクトは医療機関で一泊だ。二人は怪我よりも疲労が問題だったようで、弱い回復魔法を当て続けるという点滴みたいな医療魔法を受けていた。その後は十分な睡眠と念のための経過を診るという事で一泊なのだ。

 荒事の多い街なだけあって、治療が丁寧だね。




  で、次の日。朝一で私の所にこの街の貴族の使いがやってきて「昨日の事とベクト殿との関係について、話して貰います」と仰る。

 言葉遣いは丁寧だが、私でも判るほどの意味不明な圧力を受けて、ついて行くという選択しか取れなかったよ。まだルシードの助けが無いと難しいな。

  腕を取って連行とか、後ろからせっ突いくとかは無かったので、最初に持った悪い印象は徐々に無くなっていった。言葉の通り、貴族として事情を聴きたいだけなのかもしれないしね。

 

  連れられて来たのは、道場のような大きなお屋敷だ。大きさから貴族の家と思うけど、この街は貴族街とか明確に分けてはいないのね。

 通されたのは道場のような広い板張りの部屋だ。そこで待っていたのはベクトとルシード。

 ベクトは白い作務衣のようなものを着て、ルシードは黒シャツとラフな姿だ。そして家主と思われる高齢だが妙に迫力のある御仁が居る。


「おはよ。ルシードもベクトも、体の方はもう大丈夫なの?」


  地球日本なら、あの怪我を治すのに何か月と掛ける事だろう。が、ここは治療魔法のあるゲーム世界。私も受けた経験があるけど、本当お手軽に治っちゃうのよね。


「ああ。今日から戦っても問題無いぐらい調子が良い」

「おはよ……ん、問題無い」

「それは良かった。で、そのおじいちゃんは?」


  表情からルシードは知らないようだ。ならベクトは? ……こやつ、表情の変化が少なくて読み辛いなぁ。


「グエルション・レストナック。貴族で、ヒルビン長老衆の一人。私がこの街での生活の世話になっている人よ」

「なるなる。ベクトって生活上手には見えなかったし、協力してくれていた人が居たのね」


  私とベクトの関係性はまだ判ってないが、多分身内みたいなもんだろうし、お礼ぐらい言った方が良いかも。

 グエルションさんの前に立ち、感謝の気持ちで一礼する。


「私はアーリィ・ファストと言います。ベクトが世話になっているようで、有難うございました」

「……ベクトと違って、少しは礼儀は弁えているようだな。儂の名はグエルション・レストナック。まあ、アレの事は気にするな」

「それで、今回お呼びいただいたのは、昨日の件とベクトとの関係を聞きたいとお伺いしたのですが?」

「そうじゃ。まどろっこしい事はいい、建前もいらん。お主の知っている事をそのまま言え」

「私も判らない事が多いし、推測も混じっているので判り難い話になってしまいますが、それで良ければ」


  私とベクトが異世界からやって来た事、この世界に来た原因は判らず、私は世界を移動している事、キョウスティンの盗賊がこの街でベクトが居るかもしれないという意味の話をした事。そして、私がベクトを探してこの街にやって来たという流れを話した。

 推測になるが、キョウスティンの盗賊とこの街を襲撃したあの男は繋がっているのだろう。だが、目的がバラバラで、一体何をしたいのか良く解らないのだ。今回、襲撃してきた男はうっかり情報を落とすという事もしてくれなかったので、今回はここまで。


「……私はこの街を出るわ」

「ベクト?」


  そういえば、あの男と対峙していた時に、ベクトはそんな事を言ってたね。あの男の目的はベクトが自主的にあの男について行くこと。その目的の為に、あの男は今後も平気で魔物をけしかけてくるだろう。今回は死者は出ていないが、規模が大きくなってくれば最悪の事態になるのは時間の問題。そうなる前に、ベクトはこの街と無関係になろうとしているのだ。無関係であれば、あの男はきっとこの街には何もしないだろうから。


「あの程度、いやあの何倍の襲撃があろうと、この儂が倒されるとでも思うか?」

「長老衆の誰でも、きっと撃退できるでしょうね。けど、助けられない人、犠牲者がきっと出てしまう。そうしたら、私はきっと後悔してしまうから……」

「……お前は元々この街の者じゃない、勝手にせい」


  ベクトの変わらない表情が僅かに曇る。

 そうだろうね。ベクトはこれまでこの街で活動してきたのだ。闘士としてアイドルとして。その双方で受け入れられ楽しくなってきたところに違いない。ベクトの本心は、この街を離れたくは無いのだろう。


「だが、その前にだ」

「ん?」

「お前がどれほど強くなったか、見てやるわ! そこのルシードとかいう奴もついでに見てやる。さあ、準備しろ!」


  最後までこの街の流儀で行くのね。

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