第六十二話 荒事は無いに越したことはない
突如発生した魔物の強襲は、観客も含めた人々の強さにより、一人の死者も無く収まりつつあった。
巨大キメラ種も、完全に沈黙してる。後はこの謎の男だ。その男についても余り荒事をするようには見えないけど、さて。
「ルシード、大会お疲れ様。助けに来たよ」
「アーリィ……ありがとうな。助かったよ」
ルシードは多くの有効打を受けていた。今は興奮状態で動けているだけで、それが収まってしまうとちょっと危ないと思う。
「アーリィ……なのね。久しぶり」
「や、ベクト。会いに来たよ。これ終わったら、色々お話しよ」
「うん……わかった」
ベクトも結構危ない。傷は深く無いと言え、血が流れ過ぎると失血死の恐れもあるだろうからね。
早く終わらせないと。男の方に振り返り、見る。
さって……どうしよう? 私はまだ基本の練習してる段階で、勝てる気がしないのだが。
ベクトは今動かす訳にはいかない。ルシードはベクトの護衛をして貰う必要がある。
サテラ君振り回して何とかなるとかなると良いなぁ……
「仕方ありません……今回も引きましょうか」
「えらくあっさりと引くわね?」
と言いつつ、私の心の中ではガッツポーズ。やったー! 引き下がれー!
「ベクト様への脅しにはなったでしょうからね。私はベクト様を力づくでお連れする気は有りませんよ。脅しはしますがね」
「何処に連れて行くつもり?」
「それは言えません。……ベクト様。私はなるべく穏便に進めたいのですが、拒否され続けるなら、この街をいずれ廃墟にしなければなりません。今日はこれで引き下がりますが、早く良い返事をお願いしますね」
男の声は本気とも冗談とも取れない……どこか、どうでもよい感じと言った感じだ。それだけに「この街を廃墟にする」というのも、あっさりと実行してしまいそうな気がする。殺人狂のヴェタリーとはまた違った危険性を孕んだ男だ。
そんな男に対して、ベクトは体を起こし座って見据える。
「もうこの街には何もしないで」
「それは、お越し頂けるということでしょうか?」
「違う。行く気は無いわ。私がこの街を去るから、この街に何をしても意味は無くなるという事よ」
「それが本当かどうか、確認させて貰いますよ。それでは失礼」
男は巨大キメラ種が崩した観客席から外へ歩いて去っていった。
変な事をしないかどうか見ていたけど、特に怪しいそぶりも無い。
「ふ~。引いてくれて助かったわ。ホント、何だったのかしら? その所も含めて話を聞かせて貰うわよ、ベクト」
「そうね……ゆっくりお話ししましょうか」
「その前に、二人の怪我を治さないとね。本当に大丈夫? 救護の人、どうなってるのかな?」
ふと周りを見渡すと、妙に視線を向けられていることに気が付いた……あ、そっか。私素顔出しているのよね。
「これは……驚きだ! あのベクト様がもう一人現れました! そっくりさん?分裂? 期待を高めながらも謎は深まるばかりです!」
あら~これは、言い逃れ出来ない程がっつり見られているね。
観客は司会の声に釣られるかのようにキャーキャーと歓声を上げ始めた。もうこうなったら仕方無しだ。ベクトとお話しする事も出来そうだし、もう顔を隠す必要も無い。
「は~い、私はアーリィ。見て解ると思うけど、ベクトの関係者よ。ってか、ルシードとベクトの救護早くして!」
「あ、そうですね。 救護係の方は速やかにお願いします」
色々あったからか、司会の人の頭からもすっぽり抜けていたようね。
救護の人が慌てて入場口から飛び出してきた。ルシードとベクトもこれで問題無いでしょ。
最後が騒がしい事になったが、これでこの街に来た目的も達成できそうだ。
「観客の皆様。負傷された方が居れば、周りの人に助けを求めてください。速やかに救護が駆けつけますので、ご安心を。……今回、最後の最後で特大のトラブルが発生しましたが、今の所、死者の報告も無く、安心しました。ですが、優勝者等への表彰や閉会式は中止とさせて頂きます。詳しい事は後日お知らせしますので、落ち着いてお帰り下さい」
大会も後始末と状況把握で大忙しになるだろう、私も事情聴取とか来るのかな? 来るだろうなぁ。ま、それぐらいは良いか。
おっと、救護隊もやっと駆けつけてきたようだ。
「じゃ、ルシード。しっかり治して貰いなさい。お疲れ様」
「ああ。ベクトの事は後、宜しく頼む」
ま~かせなさい。
とはいえ、私は大したことしてないけど、なんとなく疲れたよ。
ベクトも今日は治療に集中した方が良いだろうから、話すのは明日にしよう。




