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第六十一話 狂気を孕む勧誘者

  理由はさっぱり判らないが、大型のキメラ種が会場の壁の一部と観客席を破壊して乱入。この会場は街の外壁と接しているので、外から来たのだとは思う。また他の魔物が多数雪崩れ込んできて、観客と唐突な戦闘が繰り広げられていた。

 大型のキメラ種はベクトを標的としているようだ。

 巨体過ぎる体は足が殆ど機能しておらず、引き摺るように移動しており速くは無い。それでも、大きな負傷を負っている今のベクトには戦う事はおろか、逃げる事も難しそう。

 そんなベクトの前にルシードが立ち、剣を構える。ルシードはベクトと話しているようだが、流石にここからでは聞こえなかった。


  巨大キメラ種に立ち向かうルシード。

 普段であれば勝てたかもしれないが、今はベクトとの死闘でボロボロの状態だ。振り回される巨大キメラ種の手足を掻い潜って斬り付けるが、イマイチ力が乗っておらず、とても倒せそうにない。

 じりじりとベクトに近づく巨大キメラ種を止められず、疲れと焦りを感じているルシードの前に、いつの間にか軍服っぽい服を着た男が立っていた。

 男が現れると巨大キメラ種は動きを止めた。男は二人に何やら話しかけているが、やはり聞こえない。

 そろそろ私も動かないとね。




「ルクリュイーズ君!」

「はい!」


  ルクリュイーズ少年は私達のステージ近くで観戦していたので声を掛けた。


「ルクリュイーズ君はニナちゃん、エミリーちゃん、アエニスちゃん、バックダンサーの皆さんとこの辺りの人達を守ってあげて」

「判りました。アーリィさんはどうされるんですか?」

「ちょっと助けてくる」


  ターゲットはあの巨大キメラ種。もし動いていたとしても、今の私なら落ち着いて捉える事が出来るだろう。まして今は動きが止まっているのだ。


「おいで、サテラ君!」


  おっす久しぶりだね私のもう一人の相棒。久しぶりに上空から降ろした私の相棒は、変わらずの輝きを纏っていた。

 突如振ってきた巨大な剣に周囲がどよめく。それを無視してサテラ君を掴んだ。

 何時もとは異なり、今回は特攻仕様という事で刀身を前にして突撃だ!


  男が何を話していたのか知らないが、再び巨大キメラ種が二人を踏みつぶさんと動き出した時だ。


「ちぇすとー!」


  巨大キメラ種の腹か胸か判らないけど、真ん中辺りにサテラ君がずぶりと根元近くまで突き刺さる。刃が殆ど無いサテラ君といえど、これほど勢いを付けて突けば関係ないというものよ。

 私はサテラ君から飛び降り、ルシードとベクトの前に降り立った。三点着地が決まった!

 巨大キメラ種がギャアギャアと悶え暴れている。サテラ君の一撃を受けてまだ暴れる元気があるとは……キメラ種の討伐が如何に難しいか、思い知らされる。以前にルシードがキメラ種を倒したのは凄いことだったんだね。


「これは……貴方は一体何者?」


  私という突然の乱入者に何者と尋ねますか。

 ならば応えねばなるまい!

 バックダンサーとしてずっと付けていた仮面を勢い良く剥がし、髪を広げて振り返り、謎の男に答える。


「私はアーリィ・ファスト! 異界同国の同胞と、言葉を交わすために来た何処にでもいる女よ。其方にも用事があるようだけど、私の邪魔はさせないわ!」


  ビシッと謎の男を指さし、決まっ……へぎゃ!?

 盛大に後ろから何かに頭を叩かれた……あ、巨大キメラ種が私の口上に反応して手足を振り回したら、細い触手が当たったのか……がく。


「申し訳ありません……このキメラ種、誘導してここに連れてきたのですが、それ以上は難しいのですよ」

「こ、このぉ!」


  ばっと立ち上がり、サテラ君に意識を伝える。

 巨大キメラ種に埋まったサテラ君は、私の意図通りに巨大キメラ種を連れて上空へ連れ去った。

 巨大キメラ種はサテラ君を体内から取り出そうとするが、器用には動かない短い手足ではどうしようもない。


「秘伝……」


 一瞬の停止の後、今度は激しく回転しながら地上目掛けて落下を始める。巨大キメラ種は叫び暴れるが、やはりどうしようもない。


「い・ず・な・落としぃ!」


  巨大キメラ種が轟音と共にステージに叩きつけられ、地震が起こったのかとのかと錯覚するほどの衝撃が発生した。

 振動と舞い上がった土煙が収まると、巨大キメラ種は体を歪ませ、至る所から血を噴き出して完全に沈黙。

 スキルにてサテラ君を操作。巨大キメラ種の体内から取り出し、私の背後に突き刺した。


「さーて、これでこの場は貴方だけになったけど……どうする?」


  謎の男は、もはや動かない巨大キメラ種から目を離し、その視線を私に向ける。

 しっかりとした佇まい。この状況でも表情を変えずに思考している様はタダモノではないのだろう。

 だが、それよりもこの男。その瞳の奥に小さな狂気が見え隠れしているように見える。余り関わり合わない方が良い類の人種だ。


「アーリィ様でしたか……意外な所で出会えたものです。私の目的はベクト様をとある所へお連れするだけです。出来る限り穏便にしたかったのですが」

「その割にはお祭り騒ぎにしてるじゃない?」

「これは物事を速やかに進めるための必要な脅しですよ。この街を滅ぼそうとか、住民を害することが目的ではありません。現にほら」


  男が観客席に目を向ける。吊られて観客席を見ると……魔物との戦闘が起こっているのだが、戦士は勿論、女性や子供すら戦っていた。流石闘争の街の住民。

 しかも、全ての戦闘で観客の死者は居らず、勝利しつつある。この様子だと程無くして戦闘は終わるだろう。


「この程度の戦力でどうこうなる街ではありませんので」

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