第六話 良く解らない街並み
これまで着てきた服は、この世界では入手できない貴重品かもしれない。大事にしなければ。
なので、これからのお出かけ普段着はクローゼットに用意されていたジャケットとレザーワンピース、腰巻スカートの一式だ。着てみた感じ、サイズはぴったり。おい、ヒガンちゃん。いつ私のサイズを測ったのじゃ。
厚手の布と皮でかなり丈夫そう。冒険に着ていくには良いね。ただ、一着しかないから予備を用意することを考えておこう。
内ポケットにお金を忍ばせて、いざ出発!
この世界の天気は気持ちが良かった。日差しは暖かいが、風が適度に流れているので熱が籠らず爽やかさを感じる。川には穏やかに水が流れており、視覚的涼しさも得られていた。街の整っていてオシャレな街並みは好きだけど、こういった自然を感じる道も私は好きだよ。川の浅い所で雀のような鳥が楽し気に水浴びしているのなんて、とても良いね。
さて、このまま街の中心に向かって歩けば、お店が並んだ所に出るでしょう。それまでは、現状と今後の事でも考えようか。
今私は、恐らくゲーム世界に居る。恐らく、プレイしようとしていたあのゲーム「未知と幻想の箱庭」だ。ジャンルとしてはシミュレーションなのだが、プレイヤー次第で現代の模倣やファンタジックな世界。SFとかそれらを混合した世界、コロシアムだけとか一部だけで構成したの世界なんかも出来ちゃうって話。であれば、この世界はどういった世界になっているのだろう? プレイヤーこと私はここに居る。じゃ、誰が世界を作っているのか。
街並みも微妙に変だ。やけに高い家が多い。作りは中世やファンタジック的な感じはしない。どちらかと言えば現代的だ。なのに街を覆っている高い壁なんかはファンタジーよね。
理屈としては変な感じはする。けど、妙に私好みだったりするのだ。
こりゃ駄目だ。考えてもどうしようもない謎が浮かぶばかり。次考えよう、次。
次考えるのは、何を目標とするかだ。
最終目標としては、地球、日本への帰還。この世界は好みの風景ではあるし、お気楽にしてるけど、やっぱり私は不安も感じているのだ。この世界に来て初めて遭遇したのがあんなだったしね。
帰還するにはどうすれば良いか。ヒガンちゃんに聞ければ良かったんだけど、それは今更、後の祭り。後悔は後先に立たないのだ。
帰還方法がさっぱり解らないならどうするか。解るまで情報を集めるしかないっしょ。相談できる人を探すのでもいいかもしれない。そういった意味でも冒険者ギルドなんてあれば、生活費も稼ぎながら情報も集められて良いんじゃないかな? もしこの世界が現代寄りでそんなのが無いならどうしよっかなぁ。
は! そういえば、大学やバイトはどうなるんだろう。多分、私は失踪扱いになるよね。戻れた時に復帰出来れば良いんだけど、どうなる事やら。親は連絡行ったら悲しませちゃうなぁ。せめて、心労何かで倒れていませんように。今は祈る事しかできん。
自然豊かで畑が多い郊外、そこから住宅街を抜けてお店が並ぶ商業区に到着。通りを歩く人も増えてきたよ。何でもありのゲーム世界なんだし、獣人さん居ないかな~って思っていたけど、残念ながら人だけだ。服装は地球日本と似た感じな人と、ファンタジックな人とバラエティに富んでいる。建物といい、この世界は文化が混じっているのかなぁ。
さて、次はお店じゃ。どんなお店があるかな?
カフェや食事処。無駄遣いをするつもりはないけど、この世界の一般的なお味を知るという意味では一回は入ってみたいね。
雑貨屋さん。お店を一通り見回ったら寄ろう。生活雑貨は勿論、DIYするための工具等を買わないと。
八百屋さんとお肉屋さん。良いね。ただ、冷蔵庫とか無いから何を買っても日持ちしないと思うの。だから具合が解るまではちょっとづつ買うのが良いかな。
途中で見つけた屋台の焼鳥屋さんの香りに、私のお腹がプリーズと鳴いたので、仕方なしに二本ほど購入。仕方なしだよ! それにほら、こういった焼き鳥がどれぐらいの価格なのかという、調査にもなって一石二鳥だ。ふ、言い訳完了。
焼き鳥に舌鼓を打っていると、冒険者らしき集団を発見! 皮の鎧や鎖帷子、剣や弓を持ってる。うんうんお手本のようなファンタジー冒険者だ。その人たちは、石作りのやたら丈夫そうな建物へ入って行った。
「あそこが冒険者ギルドなのかな。今日は用事があるし、場所だけ覚えて明日来てみよう」
あの冒険者と比べて、私は武器なんか持ってないけど、服装はそんなに違和感無かった感じだ。きっと入れるよ!
明日の予定も出来たことだし、家に戻って今日やるべき事をしよう。
焼き鳥は食べ終え、櫛はごみ箱が見当たらなかったので、小さく折ってポケットに仕舞う。ごみのポイ捨てはイケませんよ。小さいごみなら大丈夫と考えていると、その内、ポイ捨てに遠慮が無くなっちゃうのだ。油断大敵。
お肉屋さん、八百屋さんでお買い物。幸い地球と見た目同じなので、三日分を目安に買い込む。続いて雑貨屋さん。生活雑貨を適当に一通り。トンカチとかの工具とナイフを少々、釘や紐、テープ等を少々。明らかに足りないけど、今日はこの辺りでSTOPだ。足りない分を把握して後日また買いにくれば、手間の代わりに無駄な買い物が減るって寸法。
「うぐぅ……それでも結構重い……」
か~なり手加減して買ったはずなんだけど、それでもかなりの重さになっちゃった。日本で生活していた時だってこれ程買い込んだ事は無いよ。
それとお買い物をしていて吃驚したのが、ビニール袋の存在。家を見て現代、冒険者を見てファンタジーと思っていたら、再び現代ですよ奥さん。この世界観はどうなっているのか。統一感が無いよね。
ちなみにビニール袋は無料ではない。かなりの高値で売っていたのだ。日本でも売っていたけど、はした金だったからね。とりあえずは大きいのを二枚だけ購入。お高いので繰り返し使う予定だ。
重い買い物品をえっちらほっちら抱えながら、頑張って家の方向へ戻る。この辺りは住宅街だけど……
「あ、あれ? もしかして道に迷った?」
どうにもこの道に見覚えが無い。お日様はあっちで、この家は見覚え無くて~。と、キョロキョロしていると、暗い一角から私をじっと見つめている人影を発見してしまった。
「はわわわ、どうしよう。きっと怖い人だ」
人攫いだろうか、それとも強盗だろうか。芸能のスカウトさんじゃない事は確かだ。ここは逃げの一手で。
重い買い物品を頑張って持ちながら、私はその人影からは見えない家の角に駆けこむ。
ふふふ。怪しい人は私が突然消えた事に驚き、道の角をあちこち覗き込んでいたが、諦めて去って行った。私はその様子を遥か上空から眺めている。
この辺りの家はみんな背が高い。その高さで隠しながら私の上空に浮かせていた巨大な剣を降ろし、荷物を剣の柄に引っかけ、私は柄にしがみついた状態で鍔に腰掛け、巨大な剣を再び上空に浮かせたのだ。
逃げるためとはいえ……ひや~高い、怖い、けど良い眺め。ちょっと眺めていたい気もするけど、怖い人が見えなくなったら、直ぐに降りよう。不慣れなせいか、安定しないのよね。
っと。ついでに家の方向を確かめよう。あっちかな?
視線を上げた所で、私はこの世界の異常を目の当たりにした。
街以外、ほぼ全てが森。
見える限り目を凝らしても森は果てしなく続いていた。
街外壁の門が見えたが、そこから道が森に吸い込まれている。森に僅かな隙間ができているが、あれはどこかに通じている道なのだろうか。
「この世界は、本当にどういった設定なのかしら。本当に意味不明だわ」