第五十七話 強者選別闘技祭 準決勝前編
昨日に引き続き、今日も晴天。朝はまだ涼しいが、日が昇ると私にはちと厳しいのよね。ステージ上は謎魔法により空調が掛けられたように涼しいので、できればステージ上でゴロゴロしたいなぁ。
ゴロゴロは出来ないが、幸いにもルシードと少年の対戦時に応援する為にステージに上がるので、それで良しとしましょう。
「アーリィさん」
「ん?」
っと、ニナ,エミリー,アエニスの少女隊だ。大会に参加している人達が戦いを通じて盛り上がっているが、応援するアイドル達も良い刺激を受けてきたのだ。彼女達もアイドルとしての自信と喜びが、その笑みから感じられる。
「今日はルー君とルシードさんの対戦です。お互いに勝利を目指して応援したい所ですが……そこを堪えて、みんなを応援しませんか?」
「そんなこと……当たり前じゃない。私達はこの大会に関係するみんなを応援するために、ここにいるんだから」
「ありがとうございます……じゃあ皆、いくよー!」
他のバックダンサーの子達も声を合わせ、一緒にステージへ駆け上がる。
対戦はまだ始まっていない。選手の入場もまだだ。始める前に盛り上げ過ぎてはいけない。
バックダンサーの軽やかなステップを背景に、少女隊が静かでポップな歌声を響かせる。これから行われる対戦に、観客の期待を高めていくのだ。
「今日の準決勝の舞台へ、ようこそおいで下さいました。皆様のご来場有難うございます!」
おっと始まるようだ。ここは歌も踊りも一時停止。観客には司会の案内に注目して貰うのだ。
司会による案内と前口上が告げられ、いよいよ対戦者の入場である。
「まず入場したのはルクリュイーズ・ベクナール選手! この街の経済の一角を担う貴族ベクナール家の後継者です。失礼ながら申し上げますが、ベクナール家にはこの街では重要な力において劣っているとの評判でしたが、後継者であるルクリュイーズ選手のこれまでの活躍を見ると、将来は明るいと言えるでしょう。果たして何処まで上り詰めていくのか!?」
観客から様々な歓声が上がった。ルクリュイーズ少年の実績を称える声。少年に付き合いたい黄色い声。なんにせよ大きな声援を受けている少年の姿を見て誇らし気だ。
少年の目的としてはある程度達成していると言える。が、ここまで来たら行けるところまで行きたいのだろう。ルシードと戦うことになっても、全く怖気づいてはいない。むしろやる気に溢れているね。
「対する選手の入場、ルシード・ロイネス選手! ふらりと突如この街に現れ定例大会で優勝を果たして以来、出場する大会は全て勝利しています。本大会においてもその実力を発揮し勝ち上がってきました。その実力はベクト様に迫るのか!」
此方も観客からの声援が上がる。女性からの歓声もあるが同じ戦士からの声援が気持ち多めだ。ルシードの実力が、この街の人達に認められたという事だろう。
ルシードも声援に応えて手を挙げている。中二病なのは恰好や戦闘スタイルだけで、人付き合いとかは結構普通なのよね。
これで両者出揃った。何か語り合っているようだが、ここでは流石に聞こえない。悪い話じゃないでしょ。二人の表情を見ればどちらも喜びに満ちた少年だ。
気持ちよく二人を応援するよ。少女隊とバックダンサーの皆に視線を送って準備する。
「それでは準決勝、開始です!」
開始を告げる銅鑼。この対決を祝福あるものと願う、キラキラした紙片が謎魔法で打ち上がり会場に広がる。そして少女隊のスピード感ある声とそれを彩るバックダンサーの踊り。
全てが同時に動き、ルシードと少年も申し合わせたように激突した。
ルシードの動きはスピード重視。跳ねるように地を駆け、その勢いのまま斬り通り抜ける。
少年の動きは逆に腰を落として安定した足運びだ。ただ、移動する際はルシードのように跳ねるように駆けている。移動と攻撃にしっかりメリハリを付けているのだろう。
二人が交差し、剣と剣が激突した音が響く。ルシードは駆け抜け、少年は腰を据えて受けていた。
駆け抜けたルシードに向けて火弾魔法を放つ。遅いスピードで放たれた複数の火弾はルシードの行く手を広がって塞ぐが、ルシードは気にせず突っ込んだ。
観客がどよめく。
火弾はただ遅いのではなく速度が異なっており、その隙間を縫って躱すのは相当な難易度と思われる。しかしルシードは初見で躱しきった。
躱しながら前に進み少年に肉薄する。
少年は焦っていない。直前まで迫ったルシードに対して更に火弾魔法を放った。今度は躱す隙間もない、集中砲火だ。少年は剣術がメインのはずだが、使える魔術も疎かにしていない。持てる全てを育てて器用貧乏にならず、全て力にしているのは凄い。
ルシードからしてみれば、勢いのついて止まれない状態で、目の前に火の壁が現れた状態だ。私であれば反応も出来ずに突っ込んでしまうだろう。
ルシードは反応して見せた!
双剣を共に振り、壁となった火弾を全て薙ぎ払う。
しかし少年は対処されることを見越していた。対処されることを想定していた。
散らされた火の向こうから現れたのは、全身のバネを伸ばして突きを放つ少年。ルシードは火弾を散らすために両腕を振り切った状態だ。
ルシードの上半身が揺れる。
少年の突きをこの状態では避ける事が出来ないと判断したルシードは大地を蹴り、上半身をわざと不安定にし揺らしたのだ。
少年の突きが放たれ、鮮血が空を流れる。
ルシードの頬から首にかけて傷が付けられていた。大きくはあるが致命傷ではない。ルシードが上半身を揺らしていなければ、恐らく顔を貫いていただろう。
二人は転がる様に間合いを開ける。
この試合、ルシードの優勢で進むと思っていたが、先に追い詰めたのは少年の方だった。
観客は少女隊の歌をBGMに盛り上がっている。果たして、どちらが勝利を手にするのか!?




