第五十二話 この街での私のお仕事ゲットだぜ!
私達にはキョウスティンで貰った報酬がある。半分はキョウスティンに預けている訳だけど、残りだけでも豪遊しなければ数年は働かずに済む程の額だ。
なのでこの街ヒルビンでの滞在に問題は無い訳だけど、ルシードは武闘大会で頑張っているところ私は街中を散歩してお茶するだけというのも申し訳ない。
とは言え、この街中では顔出しNGな私が働ける仕事は無く、困ったものである。
そんな私を救う手が、ルシードの所にやって来た。
「どうか、弟子にしてください!」
ルシードを尋ねて来たのは、先日の大会でルシードと対戦したルクリュイーズ少年だ。
察するに、完敗を期としてルシードの強さに惹かれて来たのであろう。強さが正義のこの街では良くある事だそうな。ただね……
「ルー君が頼んでるんだから、鍛えてあげてよ!」
「そうよそうよ! こんな良い子が頭下げて来たんだからさ!」
「あ、あの、ごめんなさい。お願いします……」
少年の取り巻き少女隊も一緒に着いてきているのだ。お陰で部屋が狭い。宿のおじさんが怒らないか心配だ。
「いきなり宿に訪ねてきてその態度は無いだろう。他の宿泊客にも迷惑だ。内密な話でもないんだろ? だったら隣の食堂で話を聞いてやるから」
意外にこういった状況に慣れているのか、ルシードの対応に戸惑いは無かった。
ぎゃーぎゃー騒ぐ少女隊に少年も困り顔だったが、ルシードの威圧で渋々出ていく。去り際に少年は「申し訳ありません。うまく巻いたつもりでしたが、結局ついてきてしまいまして……」とぺこりと謝っていた。少年は悪い子じゃなさそうだね。
「なんか、賑やかになったねぇ」
「渋々でも話を聞くだけ今回はマシだ。さって、話を聞きに行こうかアーリィ」
私とルシードが食堂に着いた時、少年を少女二人が挟んでお茶を楽しんでいたようだ。もう一人の少女は少年や少女二人にお水を運んでいる。
少年は真面目にしているのだが、取り巻きが好き勝手やっちゃってるイメージかな? とりあえず少年の対面に私達は座る。逆に少年は立ちあがり頭を下げた。
「ご迷惑おかけして申し訳ありません。宜しくお願いします!」
「さて、話を聞こうか」
話は簡単だった。力量の差を知ったルクリュイーズ少年はより強くなりたいので、ルシードに弟子入りしたいとの事。
ただ、少年の身分は想定外にこの街の貴族だった。最底辺のではあるが。
この街の貴族、特に男は戦う力を持つべきという習慣があるそうな。少年の親はその辺りの力と才能は無く、街の運営に注力する事で貴族の地位をなんとか保っていた。とはいえ、力が無いことを常々責められており、それを見た少年は、自分が強くなることで親を助けたいと思っており、それが今回の弟子入り動機との事。
「なるほどね……お前の動機は良いだろう。俺もこの街の大会に目的があるから、そのついでであれば時間も良いだろう。だがな……俺はこれまで他人を鍛えるなんて事はしたこと無いんだ。言ってしまえば俺も修行中の身だしな。だから、お前を碌に鍛えるなんて事は出来ないかもしれないぞ?」
「構いません! お師匠の剣技を近くで拝見し、学びます!」
「目的を果たしたら俺達はこの街を去る予定だ。鍛えると言っても、意外に短い期間になるかもしれないぞ?」
「構いません! 居られる間だけでも学ばせてください!」
ルシードは引く様子の無い少年に少し困り顔だ。助けを求めるような視線を私に向けてくる。
私の意見としてはルシードが許容できるなら良いんじゃないかと思う。他人を教える事で自分が学ぶことが出来るってよく聞くしね。
「ルシードが良いなら、この街に滞在する間だけでも教えてあげて良いと思うよ。組み手で教えるなら大した負担にならないだろうし、ルシード自身の練習にもなるでしょ?」
「まあ、そうだな……」
「有難うございます! よろしくお願いします!」
少年が食い気味に少年が声を挙げた。本当に良い子ではあるんだね。
「にしても、ルシードは忙しいね。私は暇を持て余してるし、何か手伝えることがあると良いんだけど」
「あ、それでしたら……僕の方で少し宛てがあるのですが、良かったら紹介しましょうか?」
おっと、意外にも少年からの提案。どうせ私は暇だし聞いてみましょうか。
「そうね。どんな話?」
「この子達なのですが、実はアイドルをやっているんですが、バックダンサーに欠員が出ていたのです」
取り巻きの少女達、リーダで長髪のニナ、短髪で活発な印象のエミリー、セミロングで引っ込み思案のアエニスの三人は、ベクトに憧れてアイドルを始めており、バックダンサー等を使った派手なパフォーマンスでそこそこ受けているらしい。
欠員が出てもそのまま何とかなると思っていたが、折角なのでお誘いとの事。ルシードへの恩売りの意味も有ると思うけどね。
「今もフードで顔を隠されていますが、何かご事情でも? なんでしたら、仮面とかで顔を隠しながらでも……」
「なるほど……その話、もう少し詳しく聞かせて貰いましょうか」
思わず笑みが零れる。ルシードは戦士として、そして私はアイドルを後ろで支えるダンサーとして過ごしてみるのも悪くないかも。




