第五十一話 ルクリュイーズ少年
以前にも考えたがルシードは結構モテる要素が多い訳で、私の見てない所で色々とお誘いを受けているのかもしれない。そして、そのお誘いを受けるかどうかはルシードの自由なのだ。ここは暖かく見守ってあげよう。そうしよう。
一回戦を全て終え、お昼休みを挟んでから準決勝となる。ルシードが誰かを探しながら観客席に出てきたと思ったら、私を探していたのか。
「ルシード! こっちこっち」
「ああそこに居たかアーリィ。とりあえず一回戦は突破したぞ」
「お疲れ様。ルシードから見て強そうな人居た?」
「全体的に思っていたよりレベルが高いな。特にルクリュイーズとかいう少年はかなりやりそうだ」
あの魔法と剣を使う少年、私と同じ意見なのか。しかし、この登竜門とも言うべきこの大会で躓いているようではベクトの出てくる大会には辿り着けないだろう。ルシードにはパパっと勝ってもらわねば。
「さって、お昼ご飯にでもしようか。美味しそうなサンドを出してる出店があったから、それ買って何処かの芝生で食べよう」
「お、それは良いな」
「水にさらした葉物とトマトと薄切り乾燥肉を挟んでてね、ドレッシングは良く解らないんだけど……」
と、木陰が涼しい芝生でサンドを頬張り、意味の無い会話を交わしながらお昼寝をして十分な休息をルシードと過ごすことが出来た。
まあ私は顔出しNGなので、フードがちょっと鬱陶しいんだけども。
午後からはまず準決勝。これもルシードは危なげ無く勝利。
そして決勝の相手は、予想通り注目していたあの少年だ。
「それでは本大会の決勝まで進んだ強者をご紹介します! 今回参加者の中で最年少のルクリュイーズ選手。初参加です。その小柄な体躯を生かした回避能力により全ての攻撃を躱し、剣術に織り交ぜた魔法は非力をカバーする以上の脅威となりました! 今現在でこの実力この脅威。将来有望と言えるでしょう」
司会から絶賛されているね少年。顔も結構可愛い。観客の女の子から「がんばってー」と黄色い声も掛けられていた。男性陣は「ちっ」と嫉妬を向けながらも、少年の実力を見てきたためか、それ以上のリアクションは無い。
「もう一人の選手も初参加、ルシード選手です。双剣を手に圧倒的速度で駆け抜ける様は正にカマイタチ! 彼が駆け抜けた後、相手選手は切り裂かれ倒れ伏すのみ! ルクリュイーズ選手は彼の攻撃を避ける事が出来るか!? スピード対決となりそうです」
ルシードも紹介され、観客から応援の歓声が上がる。女性もそうだが男性陣からも好評を得ているようだ。剣士としての実力を認められつつあるのだろう。良い傾向だ。判り易い強さというのが受けているのかもしれない。
ルシードとルクリュイーズ少年。睨み合う二人。両者とも相手が油断できる相手ではないと感じているのだろう。何か二人で会話しているようだがここからでは聞こえない。冷静な表情から単なる掛け合いなのかもしれないが。
「それではヒルビン定例大会決勝、開始です!」
開始と共にルクリュイーズ少年が下がって魔法を展開しようとする……が、その行動を見切っていたかのようにルシードが間合いを詰めていた。
二刀一閃。これまでと同じように攻撃を加えルシードは駆け抜けたが、この大会では初だろう。ルクリュイーズ少年の防御が間に合っていたようだ。
ルシードの嬉しそうな笑みと、ルクリュイーズ少年の焦りの眼差し。一言二言会話を交わした後に剣劇が再開された。
ルクリュイーズ少年はもはや魔法を使うようなそぶりは見せず、剣技のみでルシードに対応している。しかし、少年の力では、ルシードの速度が乗った斬撃を防ぎきれず、受け損ねた剣により負傷を重ねていた。
ついに、ルシードの切り上げが少年の剣を高く撃ちあげ、回し蹴りで少年を吹き飛ばす。
転がり下がる少年にルシードは止めの追撃に迫るが、その追撃を少年の腕から伸びた青白い剣で受け止めた。
あれは……魔法剣という奴だろうか? 多分、転がりながら魔法を詠唱したのだと思うけど、器用な子だ。
ルシードの驚きの表情と、ルクリュイーズ少年の疲労困憊ながらも勝利を確信した笑み。
攻守が入れ替わった。少年が振るう青白い剣は振るった瞬間だけ大きくなり、間合いを大幅に延長して攻撃が可能となっているようだ。ルシードはその振るわれる魔法剣に剣を合わせようとせず、避ける事に専念している。もしかして、あの魔法剣は防御も無視するのだろうか?
もしかして、ルシードが負ける? 少年の振るう魔法剣の勢いは一向に衰えず、ルシードを攻め立てた。
だがおかしい。少年の表情から段々と余裕が無くなってきた。ルシードは油断無く少年の動きを見て回避に努めている。
ルシードが少年に向けて掛けた声が私にも聞こえた。「そろそろ決着を付けるぞ!」と。
少年はVの字に魔法剣を振るうが、それをルシードは掻い潜り、低い姿勢のまま少年の両足を斬り付けた。
少年は立つことが叶わず倒れこむが、倒れながらも魔法剣を振り回す。ルシードはその攻撃も避けて少年の首に剣を置いた。
「ちくしょぅ……参った、降参する」
少年は流石に負けを認めたようだ。会場の端に居る私にまで聞こえる悔しさを滲ませた声で宣言した。
「そこまで! 宣言を確認。ルシード選手を勝者と認定します!」
審判の宣言に大きな歓声が沸き起こった。
優勝者ルシードを称える歓声。敗北したものの健闘したルクリュイーズ少年を励ます声。勝者敗者の区別なく、歓声は二人を祝福してこの大会に幕を閉じた。
「で、どうだった?」
大会終了後、私はルシードと合流し宿へと帰る。
「ああ、今回は良い経験が出来た。他の大会の優先出場権も得ることが出来たしな。時間は掛かるかもしれないが、将来確実にベクトに会えるさ」
「そかそか。何にせよ今日はお疲れ様ルシード。優勝したご褒美にルシードの好きなもの、今晩は何でも食べて良いわよ」
私の目標は地球日本に帰る事だが、まだその方法のとっかかりにも触れていないのだ。幸い時間制限も無いことだし、急がずやっていきましょ。




