第五話 私、アーリィ! コンゴトモヨロシク
「何があったのか、知っていることを話しなさい」
「はい。まぁ、何を言えばよいでしょうか……」
私は今、鎧を着込んだ騎士らしきおじ様と兵士らしきお子様のお二人に、家の前で詰問を受けていた。
対応を見るに、お巡りさん的な方なのだろう。おじ様の方は中々にイケおじだ。美形という訳ではないが、私的にはイケるね。お子様の方はちょっと幼いかな。可愛い系が頑張って真面目にしているのはほっこりする。近い将来に期待だ。いや、いまからつばを付けておくのも……
「君、話を聞いているのかね?」
おっと、思わず品定めに走ってしまったよ。流石ファンタジーだ。レベルが高いね。
このお二人は、先程の大きな衝撃音の発生元を探しており、とうとうこの家に辿り着いてしまったようだ。ん~あれがこんな面倒事を招いてしまうとは……いや、当たり前なのかな?
さてどうしよう。地球……日本じゃ、生えている木を勝手に伐採しちゃ駄目なんだっけ。しかし、ここはゲーム世界。そんな細かい法律なんか無い……と思いたい。うむ。適当に誤魔化そう。
「家の裏手にある大きな木に寄り掛かったんですけど、なんか全体的に腐っていたのか、ばきーんと折れちゃって、ずどーんと倒れて、ばーんって砕けちゃったんですよ! さっきの大きな音はそれです!」
私は精一杯乙女な表情を作って、頑張って訴える。ふふふ。何か悪いことがあっても、怒り辛いでしょ。それに例え違和感あろうと最終的な結果は同じなんだ。私は悪いことをしてないのよん。
「そ、そうですか……ラジ。家の裏手に回って確認するように。それと、他に倒れそうな腐った木が無いかの確認もだ」
「はい! わかりました!」
おじ様に指示されて、少年が家の裏手に回って行った。うんうん真面目な子は良いね。そのままの良い子に育つんだよ。
「寄り掛かっていた木が倒れたということだが、怪我は無かったかね? そういえば、名前を聞いてなかったか。お伺いしても?」
「ええ。あの音には吃驚しましたが、幸い怪我はありませんでした。名前は……」
名前どうしよう!? まだ思い出せないんだよね。ん~記憶喪失を言うのが正しいのかな。けどそうなると色々と話が長くなっちゃいそうだ。本当の事なんだけど「別の世界から来ました」とか下手したら、投獄されたりこの街を追放されたりとかあるかも。だってファンタジーだし。
ここは仕方ない。
「私はアーリィ。アーリィ・ファストです」
ここは、あの所有権利書に書いてあった名前を使わせて貰います。これなら所有権利書を他の人に見せた時に「他人じゃん」なんて突っ込まれる事は無いでしょ。ヒガンちゃんが後で交換しに来たら、その時どうするか考えよう。
「アーリィさんね。怪我は無い様で何より。私はアレク・サンドルだ。所でこの辺りは余り記憶が無いが、一人でここに住んでいるのかね?」
「ええ。今は天涯孤独の身で、ここに住んでいます」
は! お巡りさん的な人だったしイケおじなんで答えちゃったけど、ここは人権権利が低いゲーム世界。私が一人きりと知って、急におじ様が狼になって襲い掛かってくるかも! 可愛い君が不用心なのがいけないのだよ、とか! 戻ってきた少年もそこに加わってあ~んなことやこ~んなことになったり!
「女性が一人で住んでいるというのは不用心だ。身辺を気を付けるようにしなさい。ここの巡回を増やすようにするが、戸締りを漏れなくするように」
いや、普通に良い人だったわ。変な妄想に使ってごめんねアレクさん。
「お気遣い有難うございます。用心しますね」
っと、そこに少年が駆け足で戻ってきた。無事、確認を終えて戻ってきたのね。
「アレクさん。確認してきました」
「ご苦労。どうだったかね?」
「木が一本。ついさっき折れた感じの根っこがありました。ただ、折れた木が見当たりません」
おっと、言ってなかったね。ここは正直に言おう。このおじ様なら悪いようにはしないだろうしね。
「それは私が回収したからです。良い感じの木片になったので、薪とか板材に使えると思ったんですけど……問題でした?」
「いえ、それは問題ありません。で、ラジ。他の木に問題は無かったか?」
「はい。叩いたり押したりしてみましたが、ぐらつくような木はありませんでした」
この子も真面目で良かった。ラジ君というのかな? 安全確認、有難うね。
「原因が判明し、問題無いようなので私らは戻る。では」
「お騒がせしました。何かあった時は宜しく~」
笑顔のバイバイでお二人を送り出し。問題無く対応できて良かったよ。
名前も、この際だから「アーリィ・ファスト」として今後も通すことにしよう。ちっとも元の名前が出てこないのよね。困ったものだ。
時間は判らないけど、お日様は少し傾いてきただろうか。お腹も空いてきたし、そろそろ買い出しに出かけなければ。
幸い絶好の天気。少し暑いぐらいだ。着替えてお出かけすることにしよう。