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第四十九話 ヒルビンの人々

「さて……ベクトに会うには、ベクトが参加する何らかの武闘大会に参加して、勝利するのが一番手っ取り早いか」

「そうね。普段はどこかの貴族の家に住んでるようで行方が判らないし、移動中はファンにガードされてるようだしね」


  遠くからベクトが私達に気付いて貰うという手もあるかもしれないが、些か運任せだ。であれば、確実に話し合いの時間が取れる方法を取るべきだろう。

 幸い、武闘大会は小さなものであれば月一で開催されている様子。ベクトはアイドルをし始めてから頻度は落ちたようだが、それでも大会に参加することはある。

 性格はダウナーだが、闘士兼アイドル……多才と言うべきかなんと言うべきか……


「ルシードは大会に参加ヨロシク。私は大会じゃ役に立ちそうも無いから、情報収集に回るよ。大会以外でベクトに会えないか、もうちょっと探ってみる」

「ああ、分かった。アーリィも余り動き過ぎて顔を見られないようにな。絶対、ベクトに間違われるぞ」

「うっ……そうね。気を付ける」


  ちゃんと見て貰えれば、違うと判って貰えると思う。ただ、チラ見してしまった時は見間違われるだろうね。そうやって見た時ほど、想像補正というのが働いてしまうものだ。

 となると、私は周りから全く顔を見せずに情報収集しないといけないのか……怪しいな!




  その日は旅の疲れを取る為、早い内から活動終了とした。

 お夕飯は近場の食堂に入ったのだけど、この街特有の味付けなのか、全体的に辛い物が多く、美味しくはあるんだけど、お腹がビックリしちゃうのよね。食べると何故か吃逆がでちゃう。


  次の日。ルシードは次に開かれる武闘大会について調べる為に出かけ、私は街を情報収集と称してぶらぶらと歩いている。そもそも、何の情報を何処で集めるべきなのか? 当てが全く無いのよね。

 お約束通りであれば酒場ということで、それなりに人が入っている酒場に突入。朝を過ぎ昼にはまだ早いこの時間、お酒を飲むのではなく遅めの朝食を取る人しか居ない。お酒に溺れるような人が居ない点で、この街は健全なようだ。

 私もサラダと小さいパンを注文し、目立たない端っこで店内で話されることに聞き耳を立てるのだが……そうそう有用な情報が聞ける訳は無く、次の武闘大会に出場する有力な闘士の名前がちらほらと聞けた程度だった。


 お腹が満足してしまったし、何もしないままお店に居座るのも悪いと思って店を出る。ぶらぶらと散歩しながら街の様子を観察。


「建物の作り自体は何となく雑なのよね」


  ヒョーベイやキョウスティンはこの世界有数の街なので、あれを平均と思ってはいけないのだ。とは言え貧困とかの感じはしない。単に建築関係が、この街では余り発展しなかったのだろう。

 それよりもジムや道場、武器防具などの施設が目立っている。以前に聞いた闘争の街というのは間違いでは無いのであろう。ベクトが現れるまでは。ガリアちゃんと言い、この世界に影響を与え過ぎだ。大人しくしている私を見習って欲しいものだ。


  ちなみに、この街に冒険者ギルドやそれに準じる組織というのは無かった。どうもこの街では、困っても可能な限り自分の力で解決するという風潮があるようなのだ。自分の力の及ばない事であれば、それを見かけた人が自発的に助けるのだとか。どうも自分の力を示す機会と見ているらしい。

 例えば、ある酒場で酒に酔って暴れ出した男が居たそうな。


「なんか文句あるんだったら……かかってこいやぁ!」

「困りますね、お客さん。迷惑なんで、出て行って貰いましょうか」


  店主が酔った男に全く物怖じせず退店を促すが、酔った男は意にも介せず、


「文句あるのはお前かぁ!!」

「迷惑じゃ、うらぁ!」


  店中で大乱闘が始まる。共に腕に覚えがあるようで、単純な殴り合いから店主が不意に躱して死角から首を狙った手刀による刺突、酔った男は攻撃毎粉砕するような拳の嵐で応戦。他の客はこの戦いを肴に飲み続けた。

 辛うじて酔った男の方が実力が上回ったようで、店主が壁際に叩きつけられ気絶。酔った男は足元に散乱した酒を浴びるように呑んで勝利の声を挙げる。


「これでぇ! 俺に文句を言う奴は居ない! 酒持ってこいやぁ」


  酒を持ってきてくれる店主を叩きのめした事はもう頭に無かったようだ。


「酒癖が悪いがヤルじゃねえか。次は俺がやってやらぁ!」


  無関係なはずの観客が立ち上がり、酔った男に戦いを挑んでいく。

 連戦にも関わらず酔った男は善戦したが、挑戦者に敗北を喫する。


「さ~て。ここまで暴れてくれたんだから、店主に弁償しろよ~」


  と、勝手に酔った男の財布を抜き取り、店主に適当なお金を渡していく。

 とまぁ、能筋じみた解決だが、基本は内々で解決する。

 なので、お助けのギルドはこの街では不要なようなのだ。




  大した情報を得られるまま、早めに宿へと戻ってきた。見た目不審者が長時間うろつくのもトラブルを招くことになるだろうしね。

 私の方が先に帰ったようで、ルシードはまだ部屋に居なかった。

 暫くしてルシードが帰ってくる。


「二日後に開催される小さい武闘大会があったから、参加を申し込んできたぞ」

「ベクトはそれに参加しているの?」

「判らない。だが、居なかったとしても上位にまで勝ち上がれば別の大会の優先参加権が得られるらしい。賞金も出るし、空振りでも無駄にはならないさ」


  この街に来て、最初はアイドルステージで面を食らったけど、ようやく闘争の街らしくなってきたよ。

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