表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/167

第四十八話 アイドルへの出待ち行為はご遠慮ください

  ベクトのワンマンライブは約一時間続いた。

 ベクトの歌唱力やダンスはそこそこ程度。だがそれは地球日本基準であり、この世界で歌は、私の知る限りだが民謡ぐらいしか聞いたことが無かった。なので、この世界の人にとって新鮮で魅力的な事として受け取ったのだろう。闘争を基本とするこの街の住民を虜にしてしまうほどに。

 鳴り止まない声援を受けながら、ステージを終えたベクトは舞台袖の向こうへと去っていった。爽やかな笑みを振りまきながら。


「なあ、アーリィ。アレが、お前の言っていた人物の一人か? 確かにお前によく似た奴だったな」

「ええ、ルシード。あの子がベクト・セカン。こんなにあっさりと見つかるとは思わなかったわ。ってか、あの時の印象とすっごく違うんですけど」


  あの時は物静かというか気だるげでダウナー系と言った所であったが、今見たベクトは宝塚系という感じだ。

 三日会わざれば刮目すべしというか、何かあったのだろうか? そこら辺も含めて、やはりちゃんと会って話し合うべきなんでしょ。


「にしても人気だな。顔を隠しておいたのがこんな形で役に立つとはな」


  お忘れかもしれないが、私はフードを深く被って顔が簡単には見えない様にしている。このベクトの人気を見ると、この街では迂闊に顔を晒す訳にはいかなそうだ。

 これ、日差しで顔が焼けちゃうのを防ぐという意味では良いんだけど、熱気が籠り易いのが難点なんだよね。ここはステージから流れてきた冷気があるので良いが、外に出たらまた辛くなっちゃう。早く何とかしないと。


「じゃ、ルシード。早速ベクトに会いに行きましょうか。控室に行けば良いのかな?」

「そうだな。とりあえず会場から出て裏手に回れば、それらしい部屋に当たるだろう」


  という事で、移動しようとしたら立ち塞がる影が一つ。タグさんである。


「ちょほいと待ちなぁ。ベクトちゃんに会いに行くと聞こえたんだが?」

「ああ、そのつもりだ」

「ベクトちゃんの魅力に初見で気付いてくれたのは、ファンとして嬉しい事だがよ。直接会いに行くというのは、マナー違反ってモンだぜ?」


  まあ確かに。アイドルに会いたいが為に出待ちしたりというのは、アイドルに対して時に恐怖を与えてしまうかもしれない……って、違う!


「いや、私達はそういうんじゃなくって……」


  言い訳しようとしている私達に対して、ファンの壁が瞬く間に増えていく。


「言い訳しても駄目だ」「なんだコイツら」「ベクトちゃんに余計な負担を掛けるな」

「いやあの……」


  壁が完全に形成され、もうベクトに会いに行く処ではなくなっていた。今はまだマナー違反者を諭すような程度だが、これ以上何かしようとすれば、危険な空気になりかねない。

 タグさんを始め、ファンの誰もがガチムチ筋肉で、もしこの狭い中で争いになってしまえば、私なんて簡単に折り畳まれてしまうに違いない。


「アーリィ。この場は離れて、一旦落ち着ける所に行こう」

「そ、そうね」


  筋肉の壁に揉まれながらも、なんとかその会場を脱することが出来た。

 いやぁ、凄い熱気だったな。しかし、この街について聞いていた話と熱気の意味が違ってないか?

 とりあえずは適当な宿を見つけてチェックイン。ルシードと打ち合わせて、街の様子を把握することになった。




「で街の変化の原因がベクトだったという事が分ったね」


  街中を見聞きした所、おおよその流れが簡単に分かった。「ベクトって子について教えて欲しい」とマッスルな人に聞くと、案の定ファンだったようで、喜々と教えてくれた。


  ベクトがこの街ヒルビンに現れたのは突然だったようで、門に入場記録が無いのに、いつの間にか街中に居たそうだ。

 この街の中で開催される小さな武闘会に参加しては、一位を取り続けたそうな。最初の頃は女だてらと勝っていたのに侮られ続けていたが、一位が五回を超えた辺りからは流石にその強さを認められつつあったとの事。

 決定的だったのが、この街で名誉ある大会である血戦武龍杯で優勝をもぎ取った事だった。

 この大会で優勝するという事は、貴族や街の運営と同等に近い権利を有することが出来る。正に「強者が正義」のこの街に相応しい事なのだ。

 この街での権力を有したベクトが行ったことが、


「……アイドルやります」


  ベクト自身は魔法を使えないが、魔法を使える人に提案。魔法を使ったステージ効果をいくつも考案し、ただ歌うだけでなく見た目華やかなステージに変えていった。

 それまでこの街の娯楽は、戦うことか飲み食いする程度しか無かった。そんな街に突如催された華やかなアイドルステージに、戦うことしか知らなかった闘士たちは次々に虜となっていったそうな。また、アイドルという新たな方向に目を向けだした者も居て、女性男性問わず、ベクトを参考にした後続アイドルも出始めている。

 アイドルをしているベクトやその後続アイドル達に闘士たちが現を抜かしてしまい、一時期は平均的な戦闘レベルがだだ下がりになってしまったが、


「大会で私に勝ったら、一日デートしてあげる」


  とベクトが宣言したものだから、さあ大変。再び修羅と化した闘士たちが己を鍛え直し始めた……というのが、現状らしい。

 ちなみに、まだベクトに勝った者は居ないとか。


「あの子……私に似てるけど、似てるのは姿だけで、戦闘レベルは別物じゃない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ