第四十一話 知ら天
「……知らない天井だ」
お約束ではあるが、実際知らないし。
白い清潔感のある天井だ。首を傾けると医療器具っぽいものや薬品が入った瓶が並んだ戸棚が見える。他には看護婦さんらしき人が何か書類を書き込んでいた。
恐らくここはキョウスティン王宮の医務室なのだろう。ただ、思ったより狭い部屋だ。私が使用している分を含めてベッドが二つしか無い。
「え~と。どういう状況?」
確か、アレクシス様がヴェタリーに撃たれそうになったのを庇って……って、そうか。私が代わりに撃たれちゃったのか!?
肩を見ると包帯が巻かれていた。白く清潔感のある包帯で血が滲んでいるとか怖いことにはなっていない。ちょっと肩を捻ってみると僅かに背中が引き攣るような違和感があるが、思ったほどの痛みは感じない。私、拳銃で撃たれたんだよね?
っと。看護婦さんらしき人が私に気が付いたようだ。
「アーリィさん、お気付きになられたようで。痛い所や具合が悪かったり何か違和感を感じますか?」
「いえ。ほんの少し背中が引き攣るぐらいです」
「なら良かった。少し待っていてください。先生を呼んできますので」
「ありがとう。よろしくお願いします」
書きかけの書類を簡単に片づけて、看護婦さんはとてとてと部屋を出ていく。
ん~。どうやら私はあの時に気を失って、ここまで運ばれて、治療を受けたという事なのだろう。
あの後どうなったのだろうか? 集落を占拠していた盗賊頭目ゲルトルが倒れ、凶悪犯のヴェタリーが逃走。アレクシス様があの場に踏み込んできたという事は、外に居た盗賊も制圧できたという事だろうから、無事に集落は解放されたのかな?
程なく、看護婦さんがお医者様を連れて戻ってきた。ついでにルシードもやって来た。
「無茶しやがって……大した傷じゃなかったと思うが、体に異常は無いか?」
「えへへ。心配かけてごめんね。大丈夫。問題無いよ」
一応という事で、お医者様に再度診察を受ける。
銃撃を受けたというが、肩の筋肉を削られた程度で骨も異状なく、本当に大した事は無かったらしい。銃弾は私の肩を掠め、アレクシス様の鎧を削って逸れたとか。これぐらいで普通は気絶はしないのだが、どうやら私はアレクシス様の鎧に頭からぶつかりに行ってしまったようで、軽い脳震盪と銃撃の衝撃で気絶したらしい。
傷も回復魔法で塞がり、今は傷跡が残っているがその内ほぼ消えるだろうとの診断だ。
「済まない。守ると言ったのに傷を負わせてしまった」
珍しくしょげているルシードだ。中二病趣味だけど、根は真面目で正義感が強いのよね。
結果が自分にだけ及ぶ失敗は頑張れるけど、自分の力が及ばなかった結果には必要以上に落ち込んでしまうんだろう。
「ううん。これは私の選択の結果なの。ルシードの責任じゃない」
「しかしだな!」
「今回はもう終わったのよ。次、同じことにならない様に頑張りましょ。私もね」
「そうだな……」
今回の結果としては良かったのではないだろうか? 結果論的ではあるが与えられた目標を無事達成し、潜入組四人に死者は居なかったのだ。
ただ、課題もあった。一つは私が剣を飛ばすこと以外、何もできなかった事。
それでも十分と言えるかもしれないけど、自分の身も守れないので、常に護衛が居なければならなかったのだ。つまり行動の幅が狭まってしまったのだ。もし、一人で放置しても大丈夫であれば、ルシードとアベリックさん、セイドさんの三人で盗賊達やヴェタリーに対応することが出来たのだ。
ルシード程に強く離れないかもしれないけど、頑張らなくっちゃね。
「失礼するよ。アーリィ嬢が意識を取り戻したと聞いてな」
「失礼します。アーリィさんのお見舞いに来ました」
あらあら。マーク様とアレクシス様のご入場だ。なんか人気者になったやねぇ。
「凶撃から助けて頂き感謝しています。お怪我の方は問題ありませんか?」
アレクシス様が低姿勢で頭を下げている。いやいや、これは過剰対応というものよ。アレクシス様は王宮の偉い人で、私はただのギルドメンバーなんだから。
「頭を上げてくださいアレクシス様。怪我は大したことなくて、傷跡がちょっと引き攣るけど、そのうち治るそうです」
「な、なんと傷跡が! 女性なのに、申し訳ありません!」
「これはこれは……アレクシス卿は責任を取る必要がありそうじゃの」
「責任ですか!」
マーク様が笑いながら冗談を言い、アレクシス様が狼狽えながら真に受けてしまっている。
マーク様も人が悪いなぁ。
「責任なんてそんな……けど、その前にルシードは道中ずっど私と寄り添ってきていますし、この傷跡にも責任を感じているようなので。よよよ」
「な!? そ、そうか。責任を取らないといけないのか!?」
「な、なんと! しかし、今回は引きません!」
「ほっほっほ……」
医務室は大混乱と阿鼻叫喚に包まれている。
う~む、マーク様に乗り過ぎたかな?




