第四話 マイ・スキル・マイ・ソード
「……すっごい、独創的な街並みね」
私の前には、高い建物が乱立している山が据えられていた。
背の高いマンションみたいなのが多く、個人宅が少ない。街の外側は平地だが中央に行くほど土地が高くなっており、そこには高級そうな家が密集していた。良く見えないが、街の端は高い壁で囲われているようだ。ここに来る時に見た狼男みたいなのが居る世界だし、壁が無いとそりゃ怖いよね。
いや待て。私がこの街に来た時にあんな壁無かったような。町全体を囲っている壁なんだから、外から来た私は必ず壁に遮られるはずなんだけどなあ。
私が来たと思わしき方向を見た。高い家で分かり辛いが確かに壁がある。別の方向だったかと見渡すが、何処にも壁が見えた。
「……これも保留にしよう。とりあえず困ることは無さそうだし」
保留が増えたけどまあ良い。恐らく先は長いだろうし、まだまだ判らない事は増えるでしょ。これぐらいの判らない事で立ち止まっていたら、何もできなくなるよ。次だ次。
この部屋はこれぐらいのようなので、他の部屋を見たが同じ部屋だった。お金とかはもう置いてなかったけどね。ちぇ。
寝室は一つあれば十分。他の部屋はお客さんとか同居人が出来た時に使おう。その日の気分で部屋を選ぶってのも夢があるんだけど、掃除するのは私なんだから。
これでこの家の大体は見たかな。うんうん。なかなか良い家を用意してくれたヒガンちゃんに感謝だ。にしても、電気や上下水道が整備されてないのか。街並みを見る限り、上下水道ぐらい整備されててもおかしくないのにね。
さて……これからすべき事は何だろうか。多分、色々とあるんだろうけど、その優先順位が付けられない。なので、思いついた事を手当たり次第にやっていこう、そうしよう。なに、順番を間違えて困ることは出てくるかもしれないけど、困った時にまた考えれば良いのだよキミぃ。
まず初めにやろうと思うのは板材の入手。現状、細かいものが色々足りないんだけど、それを全てお金で買い揃えると、お金なんてあっという間に無くなるに違いない。なので作れる物は自分で作ることにするのだが、その為に材料が欲しい。釘とか工具は買い揃えるとして、板材ぐらいは家の裏にある木を切り倒して確保しよう。料理とかに使う薪にもなるし、何にしても、ある程度は乾かさなきゃいけないんでしょ?
そして裏手の木の前に立つ。うん、凄く大きいです。木の種類は良く解んにゃい。
「こんな立派な木を、私が切り倒せるのかだって? 良い質問だ諸君」
寂しいと独り言が出てくるって聞くけど、私も危ないのかもしれない。ともかく、切り倒す方法があるのだよ、今の私には。
こうやって使うのかな? 私はおもむろに手を挙げ……念じながら手を振り下ろす!
その手の動きに合わせて、私の上、遥か上空からキラリと光る大きな物体が落ちてきて、木を粉みじんに砕いた。
幸いにも飛び散る木片は私に当たらなかったが、飛び散った木片は周囲の木々や地面に突き刺さる。家の柵も少し壊しちゃった。オーマイガー!
木を砕いた衝撃が音となって鳴り響き、辺りに居た鳥や動物が慌てて逃げ出している。動物さん迷惑になっちゃったなぁ。ここが近所から少し離れた位置で良かったよ。
「思ったより、随分と大きいのね」
落下して木の根っこに刺さった大きな大きな剣を見る。これがヒガンちゃんから貰ったおまけだ。この巨大な剣は私の身長二人分より長い。何で出来ているのか判らない……見たまま鉄なのかな? 刃は殆ど無い様で、触った程度なら怪我せず安心。何にしても、私の力では持つことはおろか、引き摺ることすらできないと思う。
そこで使うのが貰ったスキルだ。板材作りは言い訳で、このスキルを使ってみたいというのが本音。
スキル:ソード・フロート
私の所有物と認識している剣を思い通りに浮かせて動かせる強そうなスキルだ。あまり遠くにまでは飛ばせないけど、高さ制限は無いようで、この巨大な剣を、遥か上空に浮かせていたという訳。動かすのは意識する必要があるけど、私を基準とした相対的位置に浮かせるだけなら意識しなくても良いみたい。
「だけどねえ。これ、私が上手く使えるのかしら?」
私は鈍いとは思わないけど、特別優れている訳でもないのよ。心も体も。
だから、適当に飛ばして吃驚させる事は出来るかもしれないけど、強い人には簡単に避けられると思う。まあ、脅かし用として使うかな。後はこういう土木工事とか。
巨大なこの剣は置いておくには邪魔だなぁ。暫くはまた上に浮かせておくか。お休みの時もそのままで大丈夫なはずだけど、なんとなく怖いので、その時は地面に転がしておこう。こんなの転がっていても、盗む事が出来る人なんて居ないでしょ。
巨大な剣を操って再び上空へ浮かべ、飛び散った木片を拾い集めた。殆どが歪な形になったので薪にするしかないが、大きめの木片は削って整えれば板材に出来そうなので、これを使って何か作ろう。木を追加で潰す必要が無くて良かったよ。
集めた木片は裏手の適当な空きスペースに積み上げておいた。乾いたらちょっとずつ使っていこう。
さて、日が昇っている内にお出かけして買い出しと、この街の何処に何があるかチェックしないとね。それが終わったら今後の事を考えるべし。