第三十話 キョウスティン王宮へようこそ!
遠方に見えるは、少し前に見た時と変わらぬ繁栄を誇る街キョウスティン。海沿いの平地で川も流れており、この世界では飛び抜けて恵まれた立地を誇っている。
魔獣の脅威が忍び寄る森からも広く離れているので、その広大な平地で存分に繁栄している。繁栄しているので、それを頼りに人が集まり、それと共に物が集まり、キョウスティンの繁栄は何処までも高まっていくのだろう。
ここまでの道中は楽なものだった。野宿もしたのだけど、野盗・魔物対策として、お互い交代で起きていたのね。で、私が寝る番になっておやすみ~となって、朝目が覚めたら、ルシードが血まみれになっていて驚いたよ。
「大丈夫、これは全部返り血だ。傷は負ってない」
野営した周囲を見ると、色んな種類の魔物が転がっていた。聞いてみると、ルシードが番をしている時に、一匹一匹と小まめに忍び寄ってきていたらしい。呆れた強さだねぇと思ったが、それよりも……
「ルシード! 早く服を洗わないと染みや臭いが付いちゃうよ!」
困り顔のルシードの首根っこをサテラ君で引っかけて飛び上がり、最寄りの川を探したものよ。
幸い近くに安全そうな川があったので、そこにルシードを叩きこみ、服をひん剥きながら洗濯が完了。ルシードを私が洗うのは本人に断固拒否されたなぁ。私が服を洗っている間に川に沈みながら体を洗っていたよ。
閑話休題。街に入る為の門の前には、ヒョーベイでも余り見ない、入場の為の列が見えた。
主には商隊だが、難民らしき集団や冒険者も並んでいる。これを見るだけでも、この街が世界最大を名乗るだけのことはあると思うのだ。
私とルシードも最後尾に並んだが、程なくして兵士がやって来た。ルシードが前に立って対応してくれる。
「失礼。招待を受けてヒョーベイから来られた方ですね?」
「ああそうだが……どうして俺がそうだと?」
「私はキョウスティン王宮伝令兵のブレッドと申します。王宮学部長マーク様より指示を受けて来ました。詳しくはマーク様にお尋ね頂けますでしょうか?」
「分かった。じゃあ、案内を頼めるか?」
「その前に、貴方方お二人に魔法で調査させて頂けませんか? 事情があり念のためです」
魔法! 結局はしっかり見たこと無いんだよね。自慢で一瞬だけ見たりとか、遠くで誰かが使っているとか程度。ルシードも使っている所見たこと無いけど使えないのかな?
まあいいや。しっかりと見せて貰いましょうか。この世界の魔法とやらを!
「……それでちゃんと案内してくれるなら掛けてくれ。アーリィも良いな?」
「OK~ささ、遠慮なく!」
「妙なテンションしてるな……」
呆れ顔のルシードは置いておいて、体をリラックスさせる。魔法を受けるのって生ぬるい感じがしたり、ぺカーって光ったりするのかな?
「では失礼します……行使するは魔術トレース・ログ。目視の二人、ひと月の期間、発現」
ブレッドさんの目の色が少し変わったような? 残念ながら私が光ることは無かった。
「……終わりました。お二人ともヒョーベイから来られた事を確認しました。ご協力感謝します」
何が見えたんだろう? こそっとルシードに聞いてみたら、過去に居た街や集落を知る魔法なんだって。兵士や商隊等身元の証明や確認が必要な人たちが使う、左程難しくない魔法らしい。
「ではこちらへどうぞ。キョウスティン王宮へご案内します」
私とルシードは、伝令兵ブレッドさんに連れられて、門に並ぶ列を避けて進んでいく。時折、列の方から怪訝な視線が送られてくるが、こっちは王宮から直々に入る様に案内されてるんだもんね。気にしない気にしない。
通用門を潜り、大通りと思われる通りを歩く。遠くの先に見える立派なザ・お城!って感じの建物が王宮なのだろうね。
普通、王宮とか重要な施設への道は侵略対策で真っ直ぐな道は作らないと聞いたことがある。けど、この世界は侵略自体が無いので、見え映え重視で真っ直ぐなのだろうか。
大通りは、地球日本東京を思わせるような賑わいだった。ここだけ見れば、この世界が人類滅亡に向かっているとは思えない光景である。だが、この光景に私は心惹かれる訳にはいかない。何時かは地球日本に帰るのだから。
王宮門兵のビシッとした敬礼にビビったりしながら、王宮に入り、直ぐ脇の階段から二階に上がる。まごうことなくファンタジー王宮にちょっと感動しながら、長い通路の一室でブレッドさんが立ち止まった。
「ここで王宮学部長マーク様とご対面して頂きますが、その前にナイフ等の護身用も含めて全ての武器とお荷物を預からせて頂きます。」
ルシードと私は同意して頷く。ま、招待を受けていて魔法によるチェックを受けたと言っても、相手は王宮貴族で私達は一般ピープル。武器の制限はして当然だわ。無駄にごねても何も良いことはないので、ここは素直に従うのだ。これで私達に何かあったら、キョウスティンの落ち度だからね。
ブレッドさんが渡してくれた筒に剣を入れ、大きな箱に荷物を入れる。これで私とルシードは丸腰だ。ブレッドさんは預かった荷物を他の係の人に渡し、ドアをノックした。
「伝令兵ブレッドです。マーク様が招待されたお二人をお連れしました」
「……入室を許可する。入れ」
「失礼します」
ブレッドさん、ルシード、そして私の順で部屋に入った。
部屋は如何にも偉い人の執務室って感じだ。ぎっしりと書物が詰め込まれた棚を背景に、しっかりとして大きい机。部屋の隅には大きく長い葉が植えられた鉢植えと長いソファーが据えられている。余計なものが無いというのは、全体的に質素と言えるかもしれない。
その机にはとても立派なローブを着て、如何にも魔術師が使いそうな杖をもったおじいちゃんが座って居た。この人が王宮学部長のマーク様なのだろう。高齢な見た目な割に、背筋はしっかりと伸びており、老いを感じない。眼光も鋭く、如何にも出来るって感じのおじいちゃんだ。
そして、その隣に居るのだが……この世界で唯一魔獣を倒すことが出来る、スキル最強を持つアレクシス様。前に私達を助けてくれた人だね。ただ、今回は黙して語らず。気配も無く、佇んでいるだけだ。なので、マーク様が口を開いた。
「遠路遥々、ようこそ。キョウスティンは二人を歓迎するよ」




