第二十四話 雑魚戦は省略される運命なのだ
気が付くと消えていた周りの人が元に戻っていた。門の兵士さんは変わらず警戒しており、カフェの客はお茶を楽しんでいる。様子から見て、何か起きたとは感じていないようだ。いや、先程の現状は私にだけ影響が及んでいたという事だろうか。
「なんか世界征服するとか言っていたけど、どうしたものかねぇ」
何か、私がこの世界に迷惑掛けている気がするので、可能なら止めたい所だがガリアちゃんの居場所が何処か分からない。仕方なしだ。探すべきことが増えたなぁ。ベクトの方は放って置いても問題ないっしょ。
そもそもだ。多少姿は違うがあの二人は私だと思う。何故私が増えたのか? 流れで考えればこのゲーム世界に来た理由に絡む話なのだろう。であれば、私のすべきことは変わらない。世界を回って世界の色々な事を知って、地球日本に帰る方法を調べるのだ。それが自然とあの二人を知る事にもなる。魔法についてはスルーしておく。
「休憩終了! 考えるべき謎が増えちゃったけど、とりあえず目の前の事を熟しましょうか」
ルシード君からは宿の確保と帰りの水と食料品だったね。
宿は普通の宿で良いのよね。ま、アダルチックなあのホテルがこの世界であるかどうか知らないけどさ。冗談はさておいて、門が見える宿を無難に確保。ロマンチックなお宿でないのは惜しいけど、今回ばかりは安全性・利便性を優先しよう。
水と食料品の買い出し。流石の品揃えでサクッと買い物完了。経費は貰ったのがあるから良いけど、王都だからか何にしてもヒョーベイより三割はお高い気がする。ゲームを見習って全国共通価格を適用して欲しい所ね。
私の役目を無事果たし、門前の広場でルシード君を待つ。何気に噴水で待つってのはデートみたいで良いんじゃない? ま~ルシード君服装はあれだけど、顔は良いし多少素っ気ないけど基本性格も良い。ギルド期待の星で将来性も有り有りだ。これだけ優良物件なら、彼女居そうだけど、どうなんだろうな~。これまでの所は気配無いけど。今度、ギルドで女子会でも開いて探ってみるかな。
などと、脳内乙女をしているとルシード君……いや、箱の山が帰ってきた。
「ルシード君……これは一体?」
「無事薬を貰ってきた。これがそうだ。先方はもっと大人数で来ると思ってたらしい。箱を逆さにしたり振っても問題無いように梱包を厚くして尚且つ軽くなるよう用意してくれたんだが、その分嵩張ってな……」
等と箱の山が喋っておられます。背中に一山、前に一山、両手は肩に紐を引っかけてルシード君の姿が全く見えなくなっている。
「ちょっとした疑問なんだけど……それ、前見えるの?」
「……殆ど見えない」
こんな状態ではデートも何もあったもんじゃない。速やかに宿に戻り、宿の店員さんに事情を話して、山を預かって貰った。大事なお薬なので明日の朝一までお願いしますと、チップを多めに渡してなんとか完了。明日は早いので、最低限の打ち合わせと早めの夕食。で、直ぐにルシード君は寝ると言って部屋に入ってしまった。
まあ、明日の事を考えるなら、私も早めに寝た方が良いのだろう。色々とチャンスを逃してしまったものだ。とはいえ、成すべきこと重みぐらい私にも解るよ。宿から貰ったお湯とタオル(香油をサービスで貰ったよ!)で体を拭いて、私もオヤスミなさい。
翌日の早朝。日の出と共に出発するため、ルシード君にベッドから叩き落されてしまった。結構派手に頬を打ったはずだけど、眠気の方が勝っているようで、ちっとも痛くない。
「もうちょっと~……後五分、後ご……zzz」
「寝るな! ほら、行くぞ!」
ルシード君はテキパキと私の荷物を纏め、それを肩に掛けてくれる。まぁ、私はそれでも寝てる訳だが。呆れた溜息が聞こえると、ルシード君は私をお米様抱っこで部屋を出るのであった。
こんなに朝早くでも活動を始める人は居るようで、宿の人も既に慌ただしく動いていた。立ちながらでも目の開いてない私に、冷水で冷たいタオルを顔面にぶつけて目を覚ましてくれる。あ、冷たいのが気持ちいいなあ。
「ほら、いい加減目を覚ませ。朝食にパンとミルクを用意してくれたから、これを食べたら出るぞ」
「あぃ~」
顎を動かし、冷たいミルクを飲むとようやく頭が動き出してきたよ。既に食事を済ませたルシード君はお薬を背負って、再び箱の山となる。
「門を出て、暫く道を歩いてからお前のスキルで移動しよう」
「は~い。ま~かせて!」
箱の山を門兵さんの驚かれたけど、紹介状を見せて問題無いと無事通してくれた。
ヒョーベイに向けて出発! まずは暫く道なりに進む進む。今日も天気で良かったよ。黙々と歩くだけというのも何なので、ちょっとお喋りタイム。
「そういえば、アーリィはヒョーベイで余り見かけた気がしないが、宿は何処なんだ?」
「ふふん、実はお家があるのよ。町外れの森の手前だけどね。ルシード君には色々お世話になってるし、一度おいでよ。もてなしてあげる」
「ま、まあ、気が向いたらな」
今回の旅で、私に慣れてきたと思ってきたんだけど、まだテレが残っておったか。憂い奴じゃ。
何気なく雑談していると、いつの間にか森に挟まれた道にまで入っていた。キョウスティンから十分離れたし、そろそろサテラ君を呼ぼうかね。
「じゃ、そろそろサテラ君を降ろすから、ルシード君、お薬を一旦置いて……」
「よ~お二人さん。良い天気だな」
おや、また盗賊だ。気分が曇るなぁ。早速出てくるって、この辺りは治安悪いのか。
「恐らく、キョウスティンに出入りする奴を的にしている奴らなんだろ」
ルシード君が丁寧にお薬を全部置いた。
「荷物全部置いていきな。そこの女もだ。そしたら命だけは……」
盗賊は五人居て、私達を囲むように広がっていたのだが……気が付いたら、私の前に居た盗賊がルシード君に切り伏せられていた。
「ちょっと、ルシード君! これじゃ、話の山場にもならないじゃない。カッコいい戦闘BGMなんかも考えていたのにぃ」
「ヒョーベイでは流行病で苦しんでいる人が大勢いる。お前のお陰で想定を遥かに上回る速さで薬を回収できたんだ。こんな雑魚に時間は使えない」
む。ルシード君が褒めてくれた! そうだよね。お話の山場は重要だけど今回は急がないと。
盗賊の死体を道の脇に転がし、お薬をサテラ君に吊り下げた。グローブとゴーグルを装着し、足場を据えて、ヒョーベイへの帰路へと飛び上がる。その先は朝日が差し込む先であり、帰りの道、そして帰りの結果が明るいものだと予感させてくれた。




